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特集/検討中!これからの障害者施策パート1

関係3審議会合同企画分科会中間報告の評価と今後への期待

理念より施策の具体化を

太田修平

 今年から来年にかけて社会福祉の法律や制度全般にわたって見直しが行われようとしている。そのようななか、「今後の障害保健福祉施策の在り方について」(中間報告)が出された。これは、これからの障害者施策に大きな影響を与えることになる。
 基本理念として「障害者の自立と社会経済活動への参画の支援」「主体性・選択性の尊重」そして「地域での支え合い」を掲げている。これらの理念は、私たち日本障害者協議会(以下、JDという)が長年の運動のなかで提起してきたことでもある。問題は、具体的な施策の在り方である。
 私たちはかねてより、すべての障害を包括する「障害者(総合)福祉法」の制定を主張している。しかし、この中間報告では、障害者福祉法の必要性については、「中長期的な検討課題」として具体化を棚上げにしているのは残念である。障害の違いによるサービスのバラつきや、立て割り行政を克服していくには、なんとしても「障害者(総合)福祉法」の制定が強く望まれる。
 中間報告では、「障害者の地域での生活支援」の在り方が述べられ、保健福祉サービスの充実や、施設機能の活用、地域における総合相談窓口の確立等について言及している。しかし、所得保障については、中間報告の最後の部分の「その他」で、たった3行でまとめられているだけである。障害者が地域社会で安心して生活していくには、所得保障の整備を欠くことはできない。年金の改正も来年には予定されており、現在年金審議会で作業が進められているが、障害者の所得保障については、ほとんど語られていない状況と聞く。今後、三審議会の合同企画分科会でも、障害者の所得保障について、しっかりと検討を進めてもらいたい。
 さて、施設体系の在り方については、JDは、障害の重度化、地域福祉志向等の時代の変化をふまえ、その簡素化と統合化を求めている。具体的には、①自立訓練の場、②社会就労・活動の場、③生活援助の場、④情報・文化・生涯学習の場、の4つの基本類型に統合化することを提案している。しかし、これらの根本的な見直しについては言及されてはおらず、「施設の体系化は、具体的需要をどの施設が担うのかという行政施策の整理を図る上で有用」という表現にとどめられ、現状のシステムの範囲内での改善ポイントが述べられているにすぎない。
 ただそうは言っても、施設と医療機関との連携の必要性や、施設の小規模化、個室化の必要性、そして就労、活動との関係のなかで施設を位置づけていくこと等が課題とされ、評価できる点もあり、今後の施策の具体化を望む。さらに、「筋萎縮性側索硬化症(ALS)等のうち入院治療は必要ないが日常生活において常時の介護を必要とする障害者については、これまで受け皿が不十分であり、今後、身体障害者療護施設において、特別に必要な施設・設備を整備する等の改善を図る」とあり、早急な施策の実行を強く望む。
 ところで、施設が「地域の在宅支援の拠点や危機対応の役割を担い、『地域の宝』として位置付けられるようにすることが重要」と述べられている部分がある。これに異論はないし、大いに進めてほしいものである。しかし、在宅支援を考えるときに、施設のみを「地域の宝」ととらえるのはいかがなものか。本来、施設を含めたあらゆる社会資源を「地域の宝」としていかなければならない。このような表現は、ややもすると、施設の特殊化を招き、ひいてはノーマライゼーションの理念と反することになりかねない。
 身体障害者療護施設に多くの待機者が存在し、施設整備を進めていくことも課題とされている。JDも同じ認識に立っており、その解決を求めていきたい。ただ地域社会の福祉サービスや、他の社会資源を充実させることによって、「待機者」問題は解決しうるという、原理的な視点をも忘れてはならない。
 さて、今年は民法改正によって、これまでの「禁治産者・準禁治産者制度」が改められ、新しい「成年後見制度」がつくられる見通しである。この中間報告でも、権利擁護の在り方について、簡単に触れられているが、具体的な提言とはなっていない。施設や病院での障害者に対する暴力事件の多発はもとより、日常的な差別、人権侵害が横行しているなかで、権利擁護制度の具体化のための検討が、早急に行われる必要がある。
 ここで、もう一度「地域での生活支援」に戻りたい。障害の重い者が地域で生活していくには、ホームヘルプサービス等、介護サービスの整備が重要な課題となる。中間報告では、介護保険との関連のなかでとらえられ「障害者特有の需要にも配慮しつつ、高齢者のサービスと比較して遜色のないようにしていく」ことが述べられているが、ガイドヘルパー制度の充実等、障害者固有のニーズに応える介護施策が必要である。さらに自立生活運動の理念から言えば、ケアマネジメントの場面において、障害をもつ本人の意思決定が何よりも優先されるようなシステムづくりも課題である。グループホームや福祉ホームについても、需要を満たすだけの具体化を強く望む。
 中間報告では、小規模作業所の位置づけを明確化させ、具体的な支援の必要性をあげていることも評価でき、今後の施策の展開に期待するところである。この小規模作業所と同じように、障害者自身が運営の中心を担っている「自立生活センター」等については、中間報告では何も触れられていない。障害者の自立生活が言われて久しいなか、その役割と位置づけを障害者施策の柱として、きちんと据えさせていく必要がある。

(おおたしゅうへい 日本障害者協議会政策委員会副委員長)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1998年4月号(第18巻 通巻201号)14頁・15頁