特集/検討中!これからの障害者施策パート1
関係3審議会合同企画分科会中間報告の評価と今後への期待
理念への評価と具体性への疑問
松友 了
三審議会合同企画分科会の『中間報告』に関して全日本育成会は、機関誌『手をつなぐ』2月号(1998年2月1日発行)の『今月の問題』にてその紹介を行い、評価と期待を述べました。かなり早い対応であり、内容的には好意的であったと言えます。さらに、3月初旬に、遅まきながら意見書を提出しました。今回は、この意見書に即して書きました。
なお、審議の過程において、知的障害のある本人からの意見の聴取、という画期的な取り組みがあり、それは高く評価できることです。しかし、全日本育成会としてはその機会を与えられませんでした。「本人重視」という傾向は、ややもすると「親(家族)軽視」に陥るという不満(批判)が、とくに育成会の中に充満していますが、それを象徴するできごとでした。発達障害の場合は親(家族)を含めて当事者と理解すべきであり、意志表明能力における障害は、強力な代弁者が不可欠です。今後に不安を残す過程であったことをここに記しておきます。
壮大な理念と体系性
基本理念と全体の体系性においては、「障害者プラン」をさらに発展させ、今後の方向性の検討として、多くの部分で「一歩前進」といえると思い、評価できることです。とくに、知的障害者の施設体系について、日頃から私たちも主張していた点がかなり取り入れられたことを評価したいと思います。
また、障害種別によって分断され、格差のあった施策が統合され、総合的な取り組みが志向されることは、今後の福祉法の統合化(「障害者福祉法」の制定)へ向けて大きく前進するものと考え、その理念は高く評価できるといえます。
しかしながら、基礎構造改革の取り組みとの連動が指摘され、その結果待ちということもあり、不満や疑問が残った点も否定できません。いくつかの点を具体的に指摘します。
具体的な場面での理念の欠落
総論としての理念は、具体的な場面を見ると欠落した感が否めません。言い換えると、戦略なしの施策(プログラム)だからではないでしょうか。あるいは、過渡期における自己矛盾でしょうか。
●「医療モデル」から「社会モデル」への転換はできないのか
施策の基本において、「障害」の理解とそれゆえの対応が、「医療モデル」すなわち「欠陥(治療・教育)モデル」から脱しきれていません。そのため、「障害」を機能・形態不全や能力障害としてとらえられ、障壁や支援の問題として論じられてはいません。この点では、従来の発想(すなわち、枠組み)の根本的な転換が求められます。「国際障害分類」が大改正されようとしている現在、先取りするくらいの対応が欲しかった、と思います。
●「入所施設」依存を残した地域福祉は矛盾ではないか
これまでの知的障害者の福祉は、「入所施設」に依存してきました。しかし、この間、地域で「あたり前に暮らす」、地域福祉の方向性が多くの人から求められ、この『中間報告』でも理念としては採用されています。ただし、知的障害者に関して言えば、従来の基本的な姿勢は変更されていないと言えます。このような方向性で、地域福祉の実現は本当に可能なのでしょうか。明確な方向性が、具体的に示される必要があります。
●「家族の支え」を前提としたシステムではないか
知的障害者の家族の最大の悩みは、相変わらず「親なき後」の不安であり、最近は親の高齢化に伴い悩みは増大してきました。それは、親の主観的な苦しみではなく、発達障害者の問題が、「家族の支え」を前提として対応され、それゆえ家族機能の低下により、障害者本人の生活状況が悪化することが目に見えているからです。とくに障害者本人が成人に達した後は、「公的な支え」によって進められるよう強く要望いたします。
また、高齢化への対応が、重度・重複と並んでタイトル的には出されていますが、その具体的な中身が、とくにシステムとしてまったく示されていません。これでは、当事者の不安や不満は解消されません。
●施設の整備は明確な理念をもって進められるのか
知的障害者の施設体系の整備は、とくに今回の『中間報告』の最も注目される点といえます。しかしながら、「生活施設」「訓練施設」の区分について、明確に理念を見い出し得ません。とくに「生活施設」については、現行の「更生施設」の現状追認で終わるのではないか、という不安が拭い切れません。また、「訓練施設」は、その目的や対象、期限が限定され、正しい評価に基づいた、個別のプログラムを前提としてなされるべきです。今回の報告では、これらの意図とイメージが十分に理解できません。
●定義(概念)や認定基準はこのままでよいのか
知的障害(精神薄弱)の場合は、その定義(概念)が曖昧であり、精神薄弱者福祉法には記載が欠落しています。それゆえ、サービスの受給の前提となる「手帳」も法制化されておらず、各都道府県で形態や認定基準がバラバラであり、種々の不便さや問題が指摘されています。これが、総合法制化への障壁にもなっています。
また、多くの概念では、「発達期における障害(発達障害)」を前提にしているため、統計的な数が他の障害に比べて低く出されます。しかし、この発達期に限定した定義に基づく施策でよいのでしょうか。「若年性痴呆」と呼ばれる中途障害はもちろん、高齢性障害を含めた総合的な認識(統計)と施策の視点が必要ではないでしょうか。
(まつともりょう 社会福祉法人全日本手をつなぐ育成会・常務理事)
(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1998年4月号(第18巻 通巻201号)18頁・19頁