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特集/検討中!これからの障害者施策パート1

関係3審議会合同企画分科会中間報告の評価と今後への期待

基本理念から考察した中間報告

中西由起子

はじめに

 今後の障害者に対する保健福祉政策は従来の施策からどの程度進んだものになっているだろうかと、期待をもって中間報告を手にした。「基本的な施策の方向」での各項目は、国連の「基準規則」にも合致した新たな変化を予想させるものであった。しかし、3つの「基本理念」がうまく整理できていないがためにその後に続く「具体的な施策の方向」では、肝心の障害者の機会の均等化がいまだ完全には尊重されるに至っていない。

具体的政策にみる問題点

 そこで基本理念の内容を考察し、それが具体的施策に反映される際の問題点を探ってみたい。

 1「障害者の自立と社会経済活動への参画の支援」に関しては、古いリハビリテーションの概念が用いられている。そのため新しい施策が提案されているようにはみえても、従来の管理、指導中心のサービスが継続されることになる。
 1982年に国連で採択され、83~92年の国連障害者の十年の基盤となった「障害者に関する世界行動計画」で画期的であったのは、リハビリテーションを期間を限った行為と定義したことである。社会活動への参加や主体性の確保がリハビリテーションの目的のひとつになってしまうと、障害者は一生各種のリハビリテーション専門家の管理の下に暮らさねばならない。
 実際に地域での生活は文書中随所で奨励されている。だが「在宅保健福祉サービスの充実」では重度障害者の在宅サービスに関しては、施設の支援を受けながらケアグループがサービスを提供していくという、特に発言力の弱い障害者が最も望まない例が示されている。そのため「介護保険制度との関連での整理」の際に、ケアマネジメントが自立を損なうような画一的な質・量のサービスを前提としていることが懸念される。また「施設における在宅サービス支援機能の強化」においては、既存施設の形態を変えての温存がみうけられる。特に施設を「地域の宝」と位置づけていることから、在宅サービスではなく、施設の維持管理にさらに資源がつぎ込まれることを懸念する。
 障害者施設体系の項の施設体系の整理のうち、「検討の視点」では障害児施設、障害児保育、養護学校、障害者施設という隔離された流れの中での施設のあり方の検討に終わっている。いかに障害者の自立を可能としていくかの観点が「施設類型に関する当面対応すべき課題」での「地域生活への移行」や「施設の現状」での「公営住宅や一般のバリアフリー住宅」など2、3の提案にみられるのみである。いくら施設での生活の質を高めたところで社会生活の参画にはつながらない。

 2「主体性・選択性の尊重」にこそ、基本理念1に含まれている「機会均等化」が含まれるべきである。
 基本理念1で言われるバリアフリー化のみがその手段ではない。さまざまなサービスや社会資源が単に利用可能となる以上に、自分の意志で自由にどれを利用するかが選べることが主体性の尊重であるからである。機会の均等化によって、この項で挙げられている自立生活やサービス利用者としての権利が保障されるのである。
 障害者自身による各種の障害関係審議会への参加はまだまだ不十分であるため、「障害者の意見が施策に反映されるように努める」との姿勢は歓迎したい。しかし、参加を奨励されるのは「障害者等」となっていて、当事者が直接意見を述べるという当たり前の権利が明記されていない。
 権利擁護が大きく取り扱われているわりには、日常的な差別や権利侵害には言及されていない。ここには専門職への障害者の権利に関する教育は含まれてしかるべきである。「専門職の養成と生涯研修体制の整備」では、彼らの技術面での質の確保しか述べられていない。
 権利擁護の基盤として手話が含まれるのは当然であるが、それは情報を得るためだけではなく、自己のニードを主張することにある。障害当事者団体との定期的な意見交換も基盤となるべきである。

 3「地域での支え合い」では種々のことが提案されているが、最も重要な障害者同士による支え合いに焦点を絞るべきであった。
 現在、地域での障害者の生活を支える大きな力となってきた自立生活センターは、具体的施策の中では全く触れられていない。自助活動からでたそのサービスは、諸外国の流れからみても当然考慮されてしかるべきであり、基本理念3に含まれるべきである。身近な市町村での保健福祉サービスの提供、行政等による啓発活動などはこの基本理念3ではなく、基本理念1に含まれて当然のことである。
 「在宅保健福祉サービス」においては、センターの介助者派遣、「地域総合相談窓口」におけるピアカウンセリングや住宅などに関する相談、「介護保険制度との関連」での障害をもつ介助コーディネーターによるニードに応じた対応など、その質の高いサービスは無視されてはならない。

おわりに

 以上のように、政府の基本理念が何を中心とするかが明確化されていない中で、障害保健福祉サービスの提供体制が徐々に市町村に委ねられていくことや一元化されることに、不安を覚える。
 合同企画分科会委員の中に障害者が半数に満たないことに当初から不満を覚えていたが、短い時間ながらも重度の障害者の声を代表する当事者団体からも意見を聴取する機会を設けてあったことはよかった。今後の審議の途中に、さらに同様な意見聴取の場を提供することを強く要望する。

(なかにしゆきこ アジア・ディスアビリティ・インスティテート〔ADI〕・本誌編集委員)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1998年4月号(第18巻 通巻201号)20頁・21頁