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特集/検討中!これからの障害者施策パート1

関係3審議会合同企画分科会中間報告の評価と今後への期待

障害保健福祉施策の検討に期待する

―本当の意味の主体者尊重を―

齊場三十四

はじめに

 戦後五十数年経過し、高齢者対応としての介護保険導入も決まり、障害者を取り巻く環境も変革しつつあります。
 今回、障害保健福祉施策の検討が開始されたわけで、大いに期待したいところです。しかし、変革期とはいえ、気がかりな点が浮かび上がります。

1 障害者福祉の建前と問題点

 わが国では、昭和40年前後から戦後導入されていた福祉専攻職制度をやめ、一般事務吏員での対応になりましたが、法に忠実過ぎるのか(?)とても考えられない解釈指導を受ける実態が存在します。さらに、長い歴史をもつ身体障害者福祉法そのものがもつ問題点も改善されていません。このような支援側の熱意のない膠着した姿勢が、どんな実態を生み出していたかを述べてみましょう。

2 福祉法の障害認定上の基本問題

①膝・肘離断の診断困難

 判定基準では、大腿2分の1以上で欠くもの(3級)、下腿2分の1以上で欠くもの(4級)の規定しかないためどちらに判定するかが(肘も同様である)不明確です。義肢を作る時、肘、膝継ぎ手が必要になると、手帳を作り換えたり、妙な指導が生ずる問題が存在します。

②片マヒの障害度

 障害度は、上肢の機能障害と重複するため2級以上の重度認定は受けられても、片マヒの場合、移動に関しては、一下肢機能の全廃でも等級3級として認定され、重度障害者群には入らず、自動車税減免や日常生活用具給付などで不利益(?)を被る場合があります。
 上肢機能障害はもちろんですが、高次機能障害、言語障害などを合併し、総合的には障害度が高くなるとはいえ、このような合併障害は認定要項に外れているか(?)認定できてもほとんど影響が少ない取り扱いのために、全般的に不利になる基本的な問題も未解決なままです。

3 現場をみようとしない事務処理福祉

①車いすに関連して

 (1)成長期でバギーが小さくなり、車いすの作製を申請したところ、現在乗っているバギーの修理を指導した行政マン。
 (2)重症心身障害児施設に入所中、車いすの申請をしたところ、医療保険(治療材料)で給付されるはずと拒否した行政マン。
 (3)潮風にさらされ、また使用度が高いために、車いすの損傷がひどく、車いす製作業者に修理が不可能だといわれたので、耐用年数内ではあったが再製作を申請したところ、耐用年数を盾にガンとして拒否した行政マン。
 こんなばかな指導はないと思われるかもしれませんがすべてが実話です。このような解釈と指導は、地方の自治体では日常的に起こります。

②生活場面の理解

 書類の申請受理を中心に処理されてきた福祉が存在すると同時に、身体障害者更生相談所に専任医師や専任の訓練士、専任のSWなどが配置されていない自治体も多いのです。
 補装具や日常生活用具の申請があれば、給付の可否を事務的に処理指導することが現状では中心で、生活場面に実際に出向かない事務所内指導型も依然として多いのです。
 特に、補装具や日常生活用具給付事業に関しては対応できても、次々と開発、市販される福祉用具や住宅改造については、相談されても対応ができない状態の福祉窓口や更生相談所も存在しているのです。

4 自己選択権と自己決定権

 戦後、約50年経過した身体障害者福祉法でさえ、先に述べてきたような問題を抱えているのです。
 最近、介護保険でも重視されていますが、主体性や選択性や自己決定の尊重が、お題目のようにいわれるようになりましたが、支援視点がしっかりしないままですと、一つ間違うと当時者の自己責任を問うことにもなり「本人から要求がなかった」「求められなかった」から福祉は届けませんでしたと、支援者側の無策の正当性を主張する理由を与えることにもなりかねません。
 本人の自己選択権と自己決定権の尊重を正しく実行できる条件をつくらず、建前論的に尊重するこれまでの方法と同じやり方で、施策やシステムが構築されても、決して障害者の幸福にはつながらないことを知ってほしいと思います。

最後に

 わが国では、当時者が主体者にはなれない歴史が長く続き、高齢者対応の介護保険制度にも色濃くこの点が影を落としています。一個の人間としての生活・自立性を共に創造する視点は欠落し「面倒みてあげる存在」として、その介護性ばかりが中心に考えられる傾向が極端に高まっているだけに、障害者支援の基本として「社会参加や自立性」をキーワードに構築されつつある障害者福祉にも悪い影響を与えるのではないかと危惧せざるを得ません。
 このキーワードをもつ障害者福祉のノウハウが、介護保険時代のパイロットとして、高齢者援護にも新しい視点と方法論を指し示し、生み出すものだと思われるだけに、これまでにない意欲的な答申を期待せざるを得ません。
 21世紀には、ここに述べてきたような不都合な支援視点を排斥し、有効な施策を遂行する上でも、当時者は当然ですが、国家資格のできた社会福祉士なども地方自治体に採用され、障害者福祉に専門的にかかわるマンパワーとしての基本的配置も必要だと思うのです。
 たとえ障害をもとうと、地域で一人の人間として尊厳を守り、包括され、活き活きと生きていくことが可能となる社会の構築を目指すためにも…。

(さいばみとし 佐賀医科大学)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1998年4月号(第18巻 通巻201号)24頁・25頁