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特集/検討中!これからの障害者施策 パート2

関係三審議会合同企画分科会中間報告の評価と今後への期待

「中間報告」への意見

松本晶行

1 障害者の権利保障

 中間報告は、障害者は「すべての権利を享受すべき主体」であり、施策の基本は「生涯のあらゆる段階において能力を最大限に発揮し、自立した生活を目指すことを支援すること及び障害者が障害のない者と同様に生活し、活動する社会を築く」ことにあるとしています。
 まさにそのとおりです。私どもも、この基本的観点を常に確認しながら運動を進めなければならない、と改めて感じ入りました。
 ただ、その一方で、福祉サービスを「有料で購入する」ことも含め、障害者が「権利として」サービスを選択できるような仕組みにしていくことや、直接契約により「利用者にも相応の負担を求めつつ」施設が自主性と創意工夫を発揮できるようにすることが必要としています。
 有料購入と権利とはどうかかわるのでしょうか。率直に言って、唐突であり、基本理念と矛盾していると考えます。現実の施策では、財政的事情を理由に権利性を後退させることになってしまうのではないか、と懸念します。リハビリテーションの明確な概念を追求したように、障害者の権利についても、その具体的概念を明らかにさせる必要があると思います。

2 施策の総合化と「障害の特性」

 中間報告は、「障害の特性」に配慮しながら、身体障害・精神薄弱・精神障害にかかわる施策の総合を提言しています。施策間の整合性確保や共通性への着目が重要なことには異論はありません。
 問題は「障害の特性」の具体的イメージ如何ということです。
 私どもは、戦後二十数年間、障害者福祉が「身体障害者」の名でひとくくりにされ、結果として、ろうあ者の具体的ニーズに対応した施策はゼロというべき時期を経験しています。整合性・共通性の問題は大事ですが、同時に、「障害者」という名の「障害者」はいない、いるのは、聞こえない国民、見えない国民、身体動作が不自由な国民……、と個々具体的な障害と個々具体的なニーズをもつ国民である、ということを明確に提起いただきたいと思うのです。
 「障害の特性」という言葉の意味がそこにあるのだ、とされるのなら安心ですが、報告では、身体障害・精神薄弱・精神障害という、それぞれの「特性」を言っているだけのようにも読めます。「身体障害」の中の個々具体的な「障害の特性」を正面から見つめないと、過去の苦い経験が形を変えて出現するおそれがある、というとこれは杞憂でしょうか。

3 聴覚障害の「特性」と「省際的」施策

 聴覚障害者の中心的な「障害の特性」は広い意味での「コミュニケーション障害」にありますが、それは、聴力を失ったのが幼少時か、小学校中・高学年程度以上か、あるいは成人後か―、つまり耳を通じて音声言語を獲得する前の失聴か、獲得した後の失聴かによって「障害」の内容が大きく変わってくる、ということです。
 「生涯のあらゆる段階において能力を最大限に発揮」することを目指す以上、特に幼少時失聴の聴覚障害者にとって、教育・労働・生活と「生涯のあらゆる段階」においての一貫した施策が大切になります。
 しかし、現実はどうでしょうか。
 中間報告は、権利の基盤として手話通訳の充実・強化を取り上げています。当然のこととは思いつつ、やはり、嬉しいことです。しかし、ろう教育の現場では、手話を排除する古い思想がなお根強く残り、最近では、教師の専門性を無視した一方的な人事異動が増え、手話をほとんど知らず、学ぼうともしない教師が大半という状況が依然として続いています。
 また、厚生省公認の手話通訳士制度と労働省の手話協力員制度とが、どこでどのように整合するのか、はっきりしません。厚生、文部、労働……と、互いに別々になったいわゆる縦割り行政の弊害です。
 「地域における医療、福祉、教育、雇用等の関係機関連携のための体制整備」の必要性や「労働行政や文部行政との連携」の強化が明記されてはいますが、具体的な分析や提言はありません。このままでは、整備・連携は単なるスローガンに終わりそうな気もします。
 他省に対する意見を厚生省に求めるのは無理としても、審議会や合同企画分科会なら、障害者の権利という立場から、すべての施策の整合性・一貫性について、具体的に分析できるし、分析するべきと思うのです。国際的という言葉にならって言えば「省際的」に提言できないでしょうか。

4 差別条項の削除・改正

 中間報告は「精神障害者、聴覚障害者等障害者に係わる各種資格制度における欠格条項については、その実態調査を行い、見直しを推進すべきである」としています。
 法令中のこの差別条項削除は、私どもの多年の運動課題であり、見直しが明記されたことで改めて力づけられました。
 この問題に関して、敢えて申し上げたいのは、この差別条項のほとんどは、医事・薬事関係法の規定であり、これは厚生省管轄の法令だということです。同じ厚生省が、一方で障害者福祉行政をリードしながら、他方では多数の障害者排除法を放置したまま今に至っている、というのは問題でしょう。厚生省に対して、厳しい自己点検を要求するべきではないかと思うのです。精神障害者の入院日数がアメリカなどと比べて異常に長いという事実も、このことと関連するのではないかという気がします。
 省際的と言いましたが、これではまだ不十分。言葉の正しい意味での施策の総合が必要であると思います。
 以上、聴覚障害者の立場から、思ったことを率直に書かせていただきました。ただ、中間報告は、ともすれば聴覚障害者の問題だけに集中してしまいがちな私どもにとって、障害者の全体とその施策を考える上で大きな意味があったということを申し添えておきたいと思います。

(まつもとまさゆき 財団法人全日本聾唖連盟事務局長・弁護士)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1998年5月号(第18巻 通巻202号)14頁~16頁