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特集/検討中!これからの障害者施策 パート2

関係三審議会合同企画分科会中間報告の評価と今後への期待

精神障害者福祉の身体・知的障害者なみの整備は全国の障害者・家族の悲願

荒井元傳

はじめに

 厚生省は1993年に「障害者基本法」を大改正し、精神障害者を身体・知的障害者と同等に法の対象にした。95年には「障害者プラン」を発表し精神障害者福祉対策の遅れを明確にし、対策の拡充を表明した。さらに、96年に「障害保健福祉部」を創設した。
 「障害者プラン」は各障害者対策充実の基本的理念と具体的数値目標を明示したもので、精神障害者対策もその遅れを明確に認め、施策整備のための具体策も打ち出しており、(財)全国精神障害者家族会連合会(以下「全家連」)としては目標値の低さを問題にしつつも、一応の評価をしている。
 このような状況のなか、厚生省は昨年12月に21世紀に向けた障害者対策の基本的指針として、関係三審議会合同企画分科会の中間報告「今後の障害保健福祉施策の在り方について」を発表した。今後出される最終報告のために、総論的であるが若干の意見を述べたい。

遅れている精神障害者の福祉施策充実を

 本報告書では精神障害者の対策について、冒頭において「本報告書は3つの障害の共通部分について検討を行った結果であり、精神障害者の保健・医療については踏み込んだ議論を行っていない」と述べ、公衆衛生審議会精神保健部会で検討するとしている。
 障害保健福祉部は障害者の医療と保健と福祉を統合し、さまざまな対策を実施するところであろう。全家連では施策については質・量とも不足しているが、一定の進歩があったと評価してきた。しかし、精神障害者対策については、いまだ医療の延長上に福祉が位置づけられており、後退であるといわざるを得ない。
 基本的視点で強調されている3障害の施策統合化については、それぞれの施策の水準が同程度であることが前提であるが、精神障害者の福祉はきわめて遅れている。障害者プラン発表から3年、精神障害者の社会復帰・福祉施設と諸事業の整備は施設4000人、事業4000人分を超えたに過ぎない。障害者プランの目標は3万人であるが、実際は最低約30~40万人分は必要と思われるニーズとは大幅な差がある。
 障害者手帳の発行数は10万弱、普及率はきわめて低い。この最大の原因は、手帳制度のサービスの種類が少なく、メリットが少ないことである。JR等旅客運賃その他の鉄道・バス・航空運賃、有料道路等の料金の減免、公営公団住宅の優先入居、ホームヘルプ制度などは手帳サービスの対象外である。

入院患者にも生活の質の向上を

 病院の実態を見ると、在院患者は34万人、在院日数は454日と欧米の2~3倍である。10年以上の入院患者は33.4%にものぼる。
 全家連の調査では1部屋定員6人以上が60%、テレビ所持禁止50%、夕食の時間5時までというところが50%、入浴週2回が49%という数字が出ている。
 今回の報告書の重要項目では「生活の質」の向上について述べられているが、入院患者も福祉の対象者であることを認識し、環境やケアの改善の積極策を盛り込んでほしい。
 なお、本報告書は精神障害者社会復帰対策において、「長期入院患者のうち当面は社会復帰が望めず、引き続き入院治療が必要な者に対しては、医療の保障された生活の場を提供するための施設」の検討が言明されている。これは、日本病院協会が主張している「心のケアホーム」(高齢の長期患者で社会復帰困難な者5万人程度を対象に、50人程度の定員規模の老健施設のような施設を創設する。単立も可能だが病棟改築、病院内開設が可能)につながるものと思われる。しかし重い障害をもつ者でも地域で暮らす権利がある。第2病棟的施設創設は慎重にすべきであろう。

小規模作業所を法に基づいた事業に

 精神障害者の小規模作業所は、2万2000人が通所し、精神障害者の社会参加の支援活動としては最大のものとなり、きわめて重要な役割となっている。しかし、いまだに法的な位置づけもないままである。小規模作業所を法律に基づいた事業にするよう、最終報告では結論を盛り込んでほしい。

在宅地域ケアは障害者家族の支援が要

 ノーマライゼーション理念の実現は21世紀の障害者福祉の常識となろう。精神障害者対策では以下の実現がポイントである。
 ①精神障害者の訪問介護事業(ホームヘルプ)の早期開始
 ②精神障害者の福祉サービスの決定権を市町村に移譲する
 ③地域生活支援センターの増設のため、その機能を小規模作業所にも付設できるなどの積極策を進める
 ④障害者・家族などの当事者団体を地域ケアの重要な役割であると認識し、財政問題を含め支援策を制度化する
 ⑤民法改正・成年後見制度の開始に伴い、公的または準公的権利擁護機関を創設し、調査権・施設・病院への立ち入り権をもたせる
 ⑥欠格条項の存在は差別・偏見につながるため、その代表的なものの撤廃を含め、さまざまな具体策を盛り込む
 ⑦所得保障に関する具体策が欠落している。ノーマライゼーションの条件は所得就労・居住・支援者といわれる。具体策を記述すべきである

障害者総合福祉法を

 障害保健福祉部の創設は、障害者の保健福祉を従来3つに分かれていたものを統合し、さらに飛躍的に拡充するために行われたと理解する。21世紀に向けて福祉の後退など許されない。
 個々の対策が充実し、さらに強力に連携統合化が図られるべきである。そのゴールは障害者総合福祉法であろう。
 精神障害者の保健福祉のレベルが低ければ、その国の障害者対策はこのレベルで計られ、水準が低いとみられる。関係者のご理解とご協力を強くお願いする次第である。

(あらいもとつぐ 財団法人全国精神障害者家族会連合会常務理事)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1998年5月号(第18巻 通巻202号)16頁~18頁