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特集/検討中!これからの障害者施策 パート2

関係三審議会合同企画分科会中間報告の評価と今後への期待

見逃せない基底音の変化

―地域こそ宝の施策展開を―

尾上浩二

 あの「熱気」はどこに行ったのだろう…。三審議会合同企画分科会中間報告「今後の障害保健福祉施策の在り方について」を一読しての感想である。
 「国連障害者年の十年」最終年(1992年)から障害者プラン(1995年)にかけて、各種提言が相次いだ。それらは明らかに「何かが変わり始めている」という、一種独特の「熱さ」を伴う期待をもたらした。そうした「熱気」が、今回は感じられないのだ。
 いきなり、なで斬りの感想で恐縮だが、今回の中間報告に対しては、かなり辛口の評価を書かずにはいられない。委員の中には、個人的にも存じあげている方々がおられ、決して「一枚岩」でまとめられたものではないと推察する。その上で率直な評価を述べさせていただきたい。いうまでもなく、最終報告を再度「熱い期待」をもって読みたいからである。

2つの中間報告―ノーマライゼーションプランと合同企画分科会

 まず、今回の中間報告に流れている基底音の変化にふれていくことから始めたい。
 今回の中間報告は、その基本理念に、①障害者の自立と社会経済活動への参画の支援、②主体性・選択性の尊重、③地域での支え合い、の3点を掲げている。
 1995年7月に厚生省障害保健福祉推進本部が策定した「中間報告」と比較したい。これは、事実上、後の障害者プランに向けた「中間報告」の位置をもっている。この95年「中間報告」では、基本理念に、①地域における自立と社会参加の支援、②障害種別を超えた総合的な施策展開、③医療と福祉の充実と連携、④市町村中心のサービス体系、⑤ニーズの適切な把握と計画的推進、の5点が掲げられている。
 このように基本理念を比べる限りにおいては、大きな変化はない。むしろ、主体性・選択性の尊重や地域での支え合い等、より自立生活支援、地域生活支援を打ち出しているように読めなくもない。
 だが、具体的提言を見る限り、施設の再編成を中心にした提言であり、また、在宅施策も「施設併設型」の展開となっている。特に気になるのはノーマライゼーション論とこれまでの施設中心施策への反省の有無である。
 95年「中間報告」では、「かつての障害者施策は、地域から離れた収容施設において障害を克服するための専門的処遇を行うことに重点がおかれてきた。また精神障害者についても、かつては大型の精神科専門の病院を増設して収容医療を図ることが施策の中心をなしてきた」「ノーマライゼーションの具体的実現のためには生活支援のためのサービスは質量ともに不十分」と、これまでの施設中心主義の反省の上に、ノーマライゼーション実現のための地域生活支援を重点課題として展開していくことを提起していた。
 ところが、今回の中間報告では、「先進諸国で展開されてきたノーマライゼーションに基づく仕組みをただちに取り入れるべきか否かについては慎重な検討を要する」「『施設を地域の宝』として位置づけ、施設がもつ専門性を有効に活用し、各種地域生活支援の機能を備えることが必要。地域生活(療育)支援センターも施設付設とし、施設機能を生かした専門的な相談を行う」となっている。
 ここ数年の文書では、ノーマライゼーションは実現すべき当然の目標であり、そのための支援策が提言されてきた。ノーマライゼーションの仕組みを「ただちに取り入れるべきか否かについては慎重な検討を要する」と留保条件付きとしたのは、障害者基本法成立以降の文書では初めてではないか。そして、「施設は地域の宝」として施設を中心にした在宅支援策の展開も、明らかに95年「中間報告」とはトーンが違う。
 さらに、「在宅福祉サービスを利用しても地域生活が困難な者」とする障害者観は、95年当時とは異なる(別表参照)。

最終報告に向けて―議論の公開と幅広い当事者参画の実現を

 一方、最終報告に向けた展開を考えた際に、注目すべき点もある。
 「障害者の機会均等化に関する標準規則」「精神障害者のケアに関する諸原則」など障害者の人権に関する国際基準文書の尊重や、身体障害者自立支援事業・精神障害者のホームヘルパーの検討等が述べられている。また、小規模作業所の位置づけや権利擁護についても、一歩突っ込んで記述し、さらに、「障害者の自立に向けて各種活動を行っている障害当事者団体等の多様な提供主体によるサービス提供の促進」等も提起している。
 これらを積極的に具体化するとともに、「社会福祉の基礎構造改革」がうたわれる今日、最終報告に向けた注文をつけておきたい。
 これまで、家族がかりの在宅生活、それが困難となった場合に収容施設へという施策が展開されてきた。このような「施設か在宅の二者択一」という「基礎構造」を変革し、重度の障害をもっても地域で生活ができるような支援と条件整備を基本におくべきであろう。
 そして、そのために、ノーマライゼーションを留保条件付きとするのではなく、当然実現すべき目標においた議論が必要である。また、「施設が地域の宝」となるのではなく、「地域そのものが宝」になるように、資源・財源を地域生活支援に重点的に配分すべきである。その際、地域生活支援の事業を障害当事者主導のNPO組織等に大胆に委託していくことが必要だ。また、介護保険の実施を前にして、費用負担が主な議題とされているが、その前に社会参加支援をはじめ自立生活のために必要な「障害者特有のニード」に対応できるサービス構築が検討課題である。
 いずれにせよ、基底音を切り換えなければならず、そのために今後の最終報告に向けた議論に注目していく必要がある。そして、開かれた議論と幅広い障害当事者の参画の実現を心より望むものである。

  95年障害者プラン中間報告等 97年合同企画分科会中間報告
基本視点 ①住民にとって最も身近な市町村に置いて必要なサービスを受けられること、②障害種別により縦割りとならないようなサービス体系の確立、③市町村におけるサービス体制を支援する観点から市町村、広域的圏域、都道府県の役割分担の明確化 ①身体障害、精神薄弱、精神障害の3つの障害種別に係る施策の総合化、②介護保険制度の導入を踏まえ障害者施策の再整理、③戦後50年を経て21世紀を迎えようとする中での社会経済の変化、国民意識の変化への対応
基本理念 ①地域における自立と社会参加の支援、②障害種別を超えた総合的な施策展開、③医療と福祉の充実と連携、④市町村中心のサービス体系、⑤ニーズの適切な把握と計画的推進 ①障害者の自立と社会経済活動への参画の支援、②主体性・選択性の尊重、③地域での支え合い
ノーマライゼーション論 ノーマライゼーションの具体的実現のための地域における障害者の生活を支援するためのサービスはなお、質、量ともに不十分であり横断的・総合的な取り組みが必要 先進諸国の例をみると、障害者が普通に地域で生活できるようにするというノーマライゼーションの観点から、地域から切り離された大規模施設ではなく、施設を小規模なものとして地域社会に根づいたものとすべきであるとの考え方に基づき、重度の障害者施設等についても地域生活援助事業(グループホーム)のように小規模化してこれを身近な地域に配置し、そこから訓練施設に通所したりその他の地域の様々な資源を活用していくという流れがある。わが国においてはこのような仕組みをただちに取り入れるべきか否かについては慎重な検討を要する
地域生活支援と施設との関係 かつての障害者に係わる行政施策においては、障害者を地域の一員としてとらえるよりも、地域から離れた収容施設において、障害を克服するための専門的処遇を行うことに重点がおかれてきた。また、精神障害者についても、かつては、大型の精神科専門の病院を増設して収容医療を図ることが施策の中心をなしていた 障害者施設が「地域の宝」としてその資源が地域で活用されるようにするため、訪問介護事業(ホームヘルプサービス)、日帰り介護・活動事業(デイサービス)、短期入所生活介護事業(ショートステイ)、地域生活(療育)支援センター等の様々な機能を備えることが必要である(別々の項目で3回同趣旨のことが述べられている)
市町村生活支援事業
(当事者の役割)
身近な地域において、障害者に対し総合的な相談・生活支援・情報提供を行う事業を、概ね人口30万人当たり概ね2ヶ所ずつを目標として実施(要綱の中でピアカウンセリングが必須事業となる) 障害保健福祉圏域内の中核的役割を担う入所施設や通所施設等においては、障害種別ごとに地域生活(療育)支援センターを付設する等、施設機能を生かした専門的な相談を行う
障害者観 「共生」の障害者観、「障害は個性」の障害者観を提起(『平成7年版障害者自書』) 「在宅福祉サービスを利用しても地域生活が困難な者」、「行動障害を有するために常時監護を必要とする者」。たびたび出てくる「行動障害」「施設入所待機者」
障害者観と重点施策 地域で生活し、行動する市民としてとらえ、地域での住まいの場、働く場や活動の場、社会参加の機会確保を中心軸に。障害者が可能な限り家族や市民の生活する地域社会の中で生活できるようにしていくため、住まいや働く場などを提供するとともに介護サービスを含め地域での生活を支援する各種サービスを充実する方向で施策全体の見直しを提起 基本理念では「保護の対象ではなく一人の生活者」と述べているが、具体的記述では障害特性による差異化が目立つ(障害者観の通り、「地域生活が可能な者と不可能な者」の二元論が暗黙の前提となっている。)施設の再編成が中心であり、地域生活支援は、施設の活用と一体の文脈で述べられている。
「生涯を通じた各段階において、予防、早期発見、早期療育、治療、リハビリテーション、在宅保健福祉サービス、施設福祉サービス、社会参加促進事業といったサービス」といった施策体系のくくり方は、1993年の障害者基本法以前の水準
全体的な特徴
(筆者の印象)
「障害は個性」の障害者観を前提に、障害をもつ市民が地域で生活することを基本視点として、これまでの施策・供給システムの問題点を指摘。地域での生活支援が質量ともに不十分との認識から施策方向を提示 施設を中心とした既存の供給主体側から見た障害者観を前提に、介護保険導入を見据えた供給主体側の再編成を基本視点として、施設体系の再編成と「施設は地域の宝」論に基づいて施設併設型の地域生活支援を提起

(おのうえこうじ 駅にエレベーターを!福祉の街づくり条例を!大阪府民の会事務局長)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1998年5月号(第18巻 通巻202号)19頁~22頁