フォーラム’99
安心と安全のデイサービスを
―ゆう工房の10か月―
小仲邦生
はじめに
身体障害者デイサービスセンター「ゆう工房」は、地域に暮らす障害者の総合的な支援を目指す社会福祉法人ライン工房の拠点施設として昨年6月、熊本市より事業委託されました。それまでは市内の中心地に「入浴中心型」のデイサービスセンターが1か所しかありませんでした。本稿では「ゆう工房」開所後10か月の事業運営の中から感じたことを述べさせていただきます。
デイサービスセンター「ゆう工房」の誕生
社会福祉法人ライン工房は、平成7年7月、授産科目2科(情報処理科・食品加工科)、利用定員20人の身体障害者通所授産施設を開設しました。その後、平成9年4月に定員を10人増員し、今日に至っています。また、平成8年4月より熊本市在宅障害者自立支援センター「ライフ」の事業を受託し、16人の仲間が食事の宅配、アパートの片付け、買い物等の生活の支援を受け、独立した生活を営んでいます。
これらの実践の中から「授産施設での作業は無理だが、創作活動やリハビリテーション、人々との交流をしたい」と思っている人々が多くいることが分かりました。身体障害者デイサービス事業運営要綱によれば「身体障害者の自立の促進、生活の改善、身体機能の維持向上を図ることができるよう、通所により創作的活動、機能訓練等の各種サービスを提供することにより、身体障害者の自立と社会参加を促進し、もって身体障害者の福祉の増進を図ることを目的とする」とありますが、事業は連続的な流れの中でその必要性が生じてくるものです。法人第3の事業である身体障害者デイサービスセンター「ゆう工房」はこのような経緯から誕生しました。
「ゆう工房」の現状
開所後10か月間で利用登録をした身体障害者は1級が23人(74.2%)、2級が7人(22.6%)です。また、2人の療育手帳A1保持者が利用しています(資料1参照)。50歳以上の利用者のうち半数は脳血管障害者です。末の子どもがやっと自立するかしないかの時期に、病で夫や妻が倒れ、配偶者の戸惑いと苦労が、利用回数が増えるに従って分かってきました。また、障害が年々進行していく難病の方の身体的・精神的支援の難しさも面接では把握できないものです。日々の実践を通して、デイサービスの重要性や課題が徐々に明らかになってきました(資料2~5参照)。
その実態の一端を事例で紹介したいと思います。
事例1
DNさん(50歳 男性)
家族構成
妻 40歳
長女 16歳
長男 14歳
次女 10歳
既往歴
平成9年4月、クモ膜下出血発症により両上肢および両下肢機能全廃。発作が時々あり医療管理が必要な状態ではあるが平成10年5月、リハビリテーションがプラトーの状態となり自宅退院となる。退院後微熱傾向にあるものの、かかりつけ病院による訪問看護サービスを受けながら、8月より週2回「ゆう工房」の利用開始となる。
デイサービス利用の状態
言語障害および高次機能の障害により意思疎通が図れず体調の把握に困難をきたしている。排せつは事前に声かけをしてトイレヘ誘導。食事は特別食(きざみ)を介助により摂食。毎月1~2回てんかん発作があった。長時間の発作の場合はかかりつけ病院へ搬送し、ケアを継続してきた。
事例2
MMさん(40歳 男性)
家族構成
ひとり暮らし
既往歴
疾患名はエーラス・ダンロス症候群。両網脈膜萎縮。障害程度は、四肢体幹機能障害および視野の狭窄等の視力障害がある。養護学校卒業後授産施設を転々とし、平成元年より印刷会社へ就職したが体調を崩し、平成10年3月退職。その後自宅療養となる。週2回のホームヘルプサービスを利用しながら平成10年12月より週2回「ゆう工房」を利用することになった。
デイサービス利用の状態
車いすの操作はなんとか自力で可能。衣服の着脱及び入浴は介助が必要。疾患の特徴として、皮膚が弱いためちょっとした打撲やひっかきで皮膚に傷がつきやすく、また皮下出血を起こしやすい。4月中旬、本人も気づかない程度の打撲を右下肢に受けたことが原因で内出血が止まらず、救急病院にて危うく一命をとりとめた。
以上の事例をみてもわかるように、デイサービスセンターでは、生命にかかわるような緊急の判断を要する場面が多々あります。当法人のように、医療職員の配置義務がない施設を運営しているところでは、医療職員の配置が緊急の課題と言えます。医療と福祉が連動していることを考えると、身体障害者の在宅福祉の核となるデイサービス事業に医療関係者の採用が可能となるような、委託費の上乗せが考慮されてもよいのではないでしょうか。
医療制度改革は、機能別に明確な線引きをしてきました。昨年10月からの「平均在院日数」の“シバリ”は、医療機関が護送船団方式から競争原理の中に放り込まれたことを意味しています。顧客管理という経営面からも、退院後の継続医療を受ける障害者が増加してきたように思います。「ゆう工房」利用者の訪問看護やホームヘルプサービス等の利用状況は資料6のとおりです。
資料1 月別登録者障害等級別
6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 1月 | 2月 | 3月 | 計 | ||
男 | 身体 | 3 | 1 | 2 | 3 | 2 | 2 | 2 | 1 | 1 | 2 | 19 |
1級 | 2 | 2 | 2 | 1 | 2 | 1 | 2 | 12 | ||||
2級 | 1 | 1 | 1 | 1 | 4 | |||||||
3級 | 1 | 1 | 2 | |||||||||
4級 | 1 | 1 | ||||||||||
療育 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | |
A1 | 1 | 1 | ||||||||||
登録抹消 | 1 | 1 | 2 | 4 | ||||||||
小計 | 3 | 1 | 2 | 4 | 1 | 2 | 1 | 1 | 1 | 0 | 16 | |
女 | 身体 | 1 | 3 | 0 | 1 | 2 | 1 | 1 | 2 | 1 | 2 | 14 |
1級 | 3 | 1 | 1 | 1 | 1 | 2 | 1 | 1 | 11 | |||
2級 | 1 | 1 | 1 | 3 | ||||||||
3級 | 0 | |||||||||||
4級 | 0 | |||||||||||
療育 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | |
A1 | 1 | 1 | ||||||||||
登録抹消 | 0 | |||||||||||
小計 | 1 | 4 | 0 | 1 | 2 | 1 | 1 | 2 | 1 | 2 | 15 | |
合計 | 4 | 5 | 2 | 5 | 3 | 3 | 2 | 3 | 2 | 2 | 31 |
資料2 障害名・疾患名
男 | 女 | 合計 | 割合% | |
脳血管障害 | 9 | 5 | 14 | 45.2 |
脳性小児麻痺 | 1 | 5 | 6 | 19.4 |
水頭症 | 1 | 1 | 2 | 6.5 |
脊髄性小脳変性症 | 1 | 1 | 2 | 6.5 |
頚随損傷 | 1 | 0 | 1 | 3.2 |
筋ジストロフィー症 | 1 | 0 | 1 | 3.2 |
パーキンソン病 | 0 | 1 | 1 | 3.2 |
その他 | 2 | 2 | 4 | 12.9 |
合計 | 16 | 15 | 31 | 100.0 |
資料3 補装具使用状況
男 | 女 | 合計 | 割合% | |
車いす(電動含む) | 10 | 12 | 22 | 71.0 |
短下肢装具+一本杖 | 3 | 2 | 5 | 16.1 |
一本杖(白杖含む) | 1 | 1 | 2 | 6.5 |
なし | 2 | 2 | 6.5 | |
合計 | 16 | 15 | 31 | 100.0 |
資料4 年齢別内訳
男 | 女 | 合計 | 割合% | |
20~30歳 | 1 | 1 | 3.2 | |
31~40歳 | 2 | 2 | 6.5 | |
41~50歳 | 4 | 6 | 10 | 32.3 |
51~60歳 | 7 | 5 | 12 | 38.7 |
61歳以上 | 3 | 3 | 6 | 19.4 |
合計 | 16 | 15 | 31 | 100.0 |
資料5 介助内訳
男 | 女 | 合計 | 割合% | |
要食事介助(特別調理含む) | 7 | 9 | 16 | 17.2 |
要入浴介助(更衣介助含む) | 12 | 13 | 25 | 26.9 |
要移動介助 | 7 | 8 | 15 | 16.1 |
要排泄介助(衣服の着脱含む) | 11 | 11 | 22 | 23.7 |
要創作介助 | 9 | 6 | 15 | 16.1 |
合計 | 46 | 47 | 93 | 100.0 |
*重複データ
資料6 在宅サービス等の利用内訳
男 | 女 | 合計 | 割合% | |
ホームヘルプサービス | 8 | 9 | 17 | 27.0 |
訪問看護等サービス | 4 | 4 | 8 | 12.7 |
ショートステイサービス | 5 | 4 | 9 | 14.3 |
医療機関外来通院 | 15 | 14 | 29 | 46.0 |
なし | 0 | 0 | 0 | 0.0 |
合計 | 32 | 31 | 63 | 100.0 |
*重複データ
ケアマネジメントサービスの時代へ
「ゆう工房」では、2人のソーシャルワーカーを中心に利用者の個別ニードから課題の分析を行い、援助計画を立案しサービスを提供しています。参考までに、現在の利用者の介護状態を介護保険の要介護度認定基準に当てはめてみました。
この結果から言えることは、次のことがらです。
(1) 今後、在宅介護をより必要とする利用者の増加が見込まれる。
(2) 医療制度改革の変化で“医療を必要とする”障害者が「ゆう工房」を活用する率が高まる。
デイサービス事業も単に送迎、入浴、食事サービスの提供をすればいいという時代から“どのように在宅支援するか”といった「ケアマネジメント」の時代に移行したと言えると思います。
おわりに
「ゆう工房」は、これらの状況を踏まえ、地域に密着したデイサービスを提供し、新たな在宅支援サービスのあり方を地道に探っていきたいと考えています。
(こなかくにお 社会福祉法人ライン工房・身体障害者デイサービスセンターゆう工房センター長)