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ワールドナウ

マレーシア 2
進む障害者の参加と機会の均等化

久野研二

教育

 マレーシアでは公教育の無償は保証されているが、義務教育制度ではなく、いまだ多くの障害者が公教育を受ける機会を奪われている。1981年の障害者福祉に関わる4省庁による省庁間責任境界検討会議において、教育省の役割は「聴覚・視覚障害者、及び教育可能な(educable)知的障害者の教育」とされ、身体障害者、及び大多数の知的障害者が公的な学校教育から排除されてきた(注1、表1)。しかし近年、この分野も徐々に整備されつつある。

表1 省庁間責任境界検討会議による各省庁の役割(1981年) 1)

教育省:聴覚障害、視覚障害者、及び教育可能な(educable)知的障害者の教育

福祉省*:身体障害者、中・重等度の知的障害者、脳性麻痺者の教育

国家統一社会開発省*:学齢期(19歳)以上の障害者の登録、経済的支援、自助具の購入支援、地域社会に根ざしたリハ(CBR)の実施

保健省:早期発見、診断、検診

*:1990年に統合される。

教育省の障害者教育

 視覚障害者の学校教育は1926年に、聴覚障害者のそれは1954年に始まる。前述の会議に基づき知的障害者の学校教育は取り残されてきたが、1988年に最初の小学校数育、1995年に中学校教育が始まる。教育省は特殊学校(Special School)、普通校における特殊学級(Integrated Education)、そして同じ教室で学ぶ統合教育(Inclusive Education)の三つの方法を行い、10,249名の障害者が教育を受けている(表2、3)。しかし、いまだ身体障害者の教育は保証されておらず、1999年3月、福祉局を管轄する国民統一社会開発省大臣が、全学校のバリアフリー化を推進する旨の演説を行った。

表2 教育省障害者学生数の変化(1992年8月) 2)

  1992 1998
視覚障害者 589 726
聴覚障害者 3,521 3,663
知的障害者 870 5,860
4,980 10,249


表3 教育省による障害者教育(1998年) 2)

  視覚障害 聴覚障害 知的障害
学校数(小学) 13 [5] 51 [23] 232 296
(中学) 13 [1] 28 [2] 61 102
学級数(小学) 60 [40] 351 [246] 722 1,133
(中学) 36 [16] 158 [50] 150 344
児童数(小学) 353 [270] 2,369 [1,968] 4,837 7,559
(中学) 373 [107] 1,294 [553] 1,023 2,690
教師数(小学) 124 [98] 592 [437] 1,068 1,784
(中学) 58 [17] 241 [93] 227 526

[ ]内は、その内の盲・ろう学校における数。知的障害者の養護学校はない。

 教育省特殊教育局は1964年、学校局下に特殊教育部として設立されたが、1995年に昇格し局となった。これは、障害者教育の重要性が認められてきた結果といえるだろう。1997年度の特殊教育局の事業予算は約10億円で、省総予算の0.36%を占める。第7次開発計画(1996~2000)では、11の特殊教育校の新設やコンピューター教育の導入、特殊・統合学級の農村地域への導入などが盛り込まれている。
 教員養成は1962年にチェラス教員養成校において視覚障害者教育のための教員養成が、63年に聴覚障害者教育の教員の養成が始まる。現在、1994年にできたクバンサアン大学の特殊教育学・学士コースを含め長・短期四つのコースで行われており、教員養成校の必須科目としても特殊教育を入れるべく検討されている。また、1998年度から教員養成校に視覚及び聴覚障害者の入学が許可されるようになり、1998年12月現在で31名が3校で学ぶなど、大学を含む高等教育に進む障害者も増加している。

マレーシアにおける日本政府の協力

 国際協力事業団(JICA)の障害分野での協力は、狭義のリハ分野でのボランティアの派遣と研修の受け入れが中心であったが、バリアフリーのまちづくり調査など新しい動きもある。以下の数値は特記しない限り1998年末のものである。
 青年海外協力隊(注2)の障害分野の隊員は79名(作業療法士21、理学療法士20、養護36、職業訓練2)で、マレーシアへの総派遣数1,011名の7.8%を占める。シニア海外ボランティア(注3)も2名(職業訓練、DAISY)派遣されている。障害分野の集団研修(注4)は11コースあり、マレーシアからは57名が参加している(表4)。

表4 JICA障害分野集団研修生数累計(1998年度まで)

コース名 マレーシア参加者
知的障害者福祉 12
補装具製作技術  12
リハ専門家  10
障害者リーダー  10
身障者スポーツ指導者 
喉頭摘出者発声指導者養成
ろう者のための指導者
視覚障害者技術支援
障害者自立支援技術
医学リハ専門家研修
音楽療法(国別特設)
合計 57

注 マレーシア国別特設を含む

 また、平成10年度在外開発調査案件として、「クアラルンプール歩行者空間整備計画:障害者のアクセスと設備」がクアラルンプール市役所と協力して行われる。本案件は高齢者、子ども、そして障害者を含めた交通弱者に配慮した「人に優しい都市づくり」の具体化を促進するための調査であり、市中心部のアクセスを調査するものである。マラヤ大学建築学科でバリアフリー建築等を教え、自身も障害者であるナジアティー氏と、スターという日刊紙に毎木曜日、「Wheel Power」という障害に関するコラムを書き、自身も車いすに乗るアントニー氏の2人が、障害者代表として調査に加わっている。このように調査される対象としてではなく、調査実施側に障害者が加わるのは画期的なことといえる。
 また外務省が行う「草の根無償資金協力」では、1998年度までに41団体が約1億4000万円の助成を受け、うち障害分野は13団体である。

終わりに

 マレーシアでは、障害の予防やCBR(注5)の実施によるリハは進んでいるものの、法律の整備の遅れなど、「アジア・太平洋障害者の十年」の目標である参加と機会の均等化を目指すには、なおいっそうの努力が必要であろう。
 また、日本の協力も、治療や訓練などの狭義のリハ分野が中心であり、「十年」の12の課題を見据え、生活支援やアクセスの保証など、より広い分野での協力が効果的と思われる。障害当事者の参加に関しては、JICAが平成7、8年度に「障害者の国際協力事業への参加」に関する調査を行っており、今後はピアカウンセラーなど、障害当事者の派遣もより積極的に進められることを期待している。

(くのけんじ 国際協力事業団・専門家〈社会開発・福祉〉)


【注】

1 教育可能なという表現は、1996年の(新)教育法を元に1998年に施行された教育(特殊教育)規約の中においても依然用いられている。
 序文において、規約の対象となる障害児(特別な支援が必要な児童:Pupils with special needs)とは、「視覚、聴覚、または学習障害のある児童」と定義され、身体障害者が排除されている。そして“教育可能な”障害児とは「介助なしで生活が自立し、医師、教育省および福祉局の担当官より成る委員会によって国定カリキュラムに従うことが可能と判断された児童」とある。
 そして、「以下の(1)と(2)を除く“教育可能な”障害児が、政府および政府助成を受けている学校の特殊教育プログラム(本文中の三つの方法)を受ける権利を有する。(1)学習能力に問題のない肢体不自由児、(2)重複障害児や重度の身体障害か精神遅滞(mental retardation)を有する児童」としている。
 つまり、これに当てはまらない障害児については、公的教育機会が保証されないことになる。

2 40歳以下のボランティア派遣事業

3 40歳以上のボランティア派遣事業

4 途上国から研修生を日本に招聘し行う研修事業

5 マレーシアの障害者福祉政策概要、地域社会に根ざしたリハビリテーション(CBR)については「リハビリテーション研究No.99、マレーシアのリハビリテーション:CBRの現状と課題」に詳しい。

【参考・引用文献】

1 Kamariah Binti Jalil(1996)Policies and Plans for Provision of Library and Information Services for Visually Impaired Persons(VIPs),in National Library Malaysia(ed.)Proceedings of The National Seminar on Vision for VIPs:Access to Information,Kuala Lumpur:National Library Malaysia

2 Sharifah Maimunag Syed Zin(1997)Country Report:Malaysia,paper presented at The 17th APEID Regional Seminar on Special Education,in Yokosuka,Kanagawa,Japan,on 9-14 November 1997.

3 Special Education DePartment(1997)Buletin Pendidikan Khas,Kuala Lumpur,Author.

4 Education Act 1996(Act550)& Selected Regulations(1998)International Law Book Services,Kuala Lumpur,pp.339-342.