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[インタビュー]
アジアの障害者と文化

アンジェリータ・エバンジェリスタ
Ms.ANGELITA B.EVANGELISTA

フィリピン
TAHANANG WALANG HAGDANAN,INC(授産施設4か所で障害者の職業訓練とリハビリテーションを実施しているNGO)の広報・訓練及びプロジェクト研究アシスタント、募金活動責任者。

イ・ヴェスナ
Mr.YI VEASNA

カンボジア
全国障害者センター所長
カンボジアのパラリンピック委員会事務局長

聞き手 中西由起子

アジア・ディスアビリティ・インスティテート。
本誌編集委員

「文化」とは

中西(司会)

 今日は「アジアの障害者と文化」というテーマで、カンボジアとフィリピンから研修に来られているお二人にお話を伺いたいと思います。初めに「文化」と聞くとどんなことを考えますか。

ヴェスナ

 カンボジアは仏教国で、ほとんどが仏教徒です。人口の85パーセントは農村に住み、障害者も地域の中で暮らしています。障害者の文化活動の多くは、一般の人たちとほぼ同じような状況にありますが、障害者に対する差別もあります。たとえば宗教的な行事では、障害をもっていることは神から与えられた罰であるという考え方が見られます。
 一般の人たちは、障害をもっている人たちをどうやって仲間に入れようかと考えてくれてもいます。家族レベルでは、子どもや兄弟に障害があると、家の中に置き、地域や社会から隠そうとすることもあります。映画、テレビなどでは、障害はたいへんな問題だという否定的な面だけが強調されて、障害をもっている人たちが働いていることには触れられません。
 私たちは障害があるけれども、能力があり、社会の中で何かをなし遂げられるのだということを伝えて、人々の心を変えていきたいと考えています。

リタ

 農村では、障害者にはいつも汚名がつきもので、家族は障害のある子どもを隠そうとします。しかし、都市部では意識改革のプログラムがだんだん浸透してきて、障害をもっている人たちが家から出てきています。
 農村出身者の障害者が私たちのセンターに来たときは、スタッフの目を見て話すことができない状態ですが、1か月か2か月たつと自信をもつようになって、目と目を合わせて話すことができるようになります。
 フィリピンでは家族の結びつきが強いので、クリスマスなどの祝日には必ず家族が集まります。そのとき、障害者が除外されることはありません。センターにいる障害者も、クリスマスには故郷に帰ります。

スポーツ・レクリエーション

中西

 文化にはさまざまな活動が含まれますが、具体的にはどんな活動をしていますか。

リタ

 私たちのセンターのサービスの一つとして、障害をもつ人たちにスポーツやレクリエーションを提供しています。車いすバスケットボール、車いすテニス、車いすマラソンなどです。私は全国車いすマラソン大会で女性21キロの部で2位になりました。首都圏では、ロータリークラブがスポンサーとなった「ロータリンピック」という障害者のスポーツ大会があります。全国大会もあって、そこで優勝した人たちがフェスピックとかパラリンピックの選手になっています。

ヴェスナ

 カンボジアでは、車いすマラソン、視覚障害児の水泳、車いすバスケットボール、車いすバレーボール、車いすバドミントンなどが行われています。毎年8月末には全国障害者スポーツの日があります。
 今年初めに、タイで行われたフェスピックには42人が参加して、カンボジアは銀三つ、銅二つのメダルをとり、帰国すると国王が温かく歓迎してくれました。障害をもつ人たちにも能力があることを社会に知らせた重要な出来事だったと思います。

音楽と美術

中西

 フィリピンの人たちは歌が上手ですが、何か活動はしていますか。

リタ

 最近、センターの人たちをメンバーに聖歌隊が発足しました。歌が上手な人たちなので、専門家の指導のもと、活動しています。私は車いすダンスをしていますが、初の全国的なリサイタルを9月に行います。
 視覚障害者には優れた音楽家が何人もいて、音楽活動を主な収入源にしています。聴覚障害者はみんなダンスがとても上手です。二つのグループを知っていますが、いろいろな国で公演をしています。

ヴェスナ

 私自身はすごく忙しいので、文化活動はしていません。カンボジアにはダンスのグループはありませんが、10人以上の視覚障害者が音楽グループをつくって、カンボジアの流行歌とか英語の歌などを演奏しています。公的な行事などに呼ばれていますが、世の中の人たちは関心がないので、収入には結びついていません。このようなグループは結婚式で稼ぐことができますが、晴れの席が悲しい席になってはいけないと、障害のイメージゆえに招かれないという差別も見られます。障害者の結婚式では彼らに来てもらいますが、仲間なので謝礼は受け取りませんね。

中西

 美術ではどんな活動をしていますか。

リタ

 口や足で絵を描く「世界身体障害芸術家協会」のメンバーがいます。センターの絵の上手な人たちの優秀作品を、グリーティングカードにしています。作品を売って、版権でお金を得てもいます。

ヴェスナ

 絵を描いて、土産用の絵はがきにしたり、Tシャツにプリントするなどして売っています。NGOが革細工の指導をしています。障害をもつ女の人たちは、伝統的な絹織物の技術を身につけて、地域に戻って生計を立てています。また、職業訓練を終えた人たちが手工芸をしています。

文化活動で意識の向上を

中西

 最初に差別の話が出てきましたが…。

ヴェスナ

 文化は、人々の意識や態度を変えられる手段だと考えていますが、国の貧しい状況を見ると、文化プログラムを実現するのはたいへんです。スポーツも文化の一部だと思いますが、スポーツをするにもお金がたくさんかかります。お金が集まれば、いい競技大会を開いて、障害者も一般の人たちと同じようにできる能力があることを見せることができ、人々の差別意識を変えられると思います。
 政治家や理解者が、障害者のさまざまな活動に協力してくれて、社会の見方が前向きになることを期待しています。

中西

 センターでは、ミス車いすコンテストを開いたそうですね。よその国では女性差別だと言われますが、フィリピンではお祭りに必ずミスコンテストが行われ、メンタリティが違うんですね。

リタ

 1998年に、私たちのセンターの25周年記念に開催しました。全国大会を開いたら、障害者への意識の向上に役立つのではないかと考えました。フィリピンの女の人はみんなきれいですから(笑)。コンテストでは美だけではなく、知性やリーダーシップも評価します。私はその組織委員の1人ですが、2年に一度は開催したいですね。
 私は障害は、福祉の問題として考えられるべきではないと思います。私たちに必要なことは同情ではなく、機会であり、能力や技能を認めてくれることです。私たちは、国づくりという意味では、障害のない人たちとパートナーです。魚を食べさせてくれるのではなく、どうやって魚をとるかを教えてほしいのです。

ヴェスナ

 これができる、あれができると口で言うのは簡単ですが、私たちのことは、私たち自身が活動しなければなりません。「何事も、我々なしにはなし得ない」と思います。これから、文化活動をはじめ、いろいろな活動の仲間に加えてください。

中西

 時には遊びと見なされる文化的活動に、アジアの他の国々では真剣に取り組んでいるんですね。ありがとうございました。

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1999年8月号(第19巻 通巻217号)