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障害のある子どもたちは、いま vol.13

自主訓練会
―地域での仲間づくり―

中畝常雄 

横浜の訓練会

 横浜の地域自主訓練会は1973年、障害児通園施設の対象からはずれた子どもたちに自分たちで療育の場をつくろうとした親とボランティアによって始められました。
 会員は、主に保健所の乳幼児検診で問題ありとされた子が紹介されて入会しています。知的障害の子が中心ですが、障害の種類も程度もまちまちで、肢体不自由児も参加しています。障害別の会ではなく、地域と繋がりが深いのが特徴です。各区に二つ以上のグループがあります。
 幼児のうちは身辺自立を目的とした保育が中心です。学齢期になると、会によって内容は違いますが、体操・水泳・絵画・書道・陶芸・調理・リトミック・機織などがあり、その他に遠足・山登り・宿泊・夏祭り・クリスマス会などの活動があります。
 地域のボランティアの協力を得て活動してきた歴史もあり、夏祭りやバザーを地元町内会の協力を得て運営する会も多く、訓練会が地域住民に認知されていると言えるでしょう。

訓練会での仲間

 毎週の活動で顔を合わせていると、自ずと親しみが育ち、休んだりすると「○○ちゃんはどうして来ないの?」といった質問が出て、子どもの仲間意識を感じさせられます。仲間を気遣う心に能力差はないと聞いています。
 年齢が進み学校に通い出してもこの関係は続きますが、年月の長さに合わせて関係が深まるかと言えば、そうとばかりは言えません。電話をかけて遊ぶような友人関係をもっている子どもは、ごく一部とも聞きます。
 週に一度会う訓練会の仲間より、毎日会う学校の友人に親しい関係が生まれるかと思えば、これもそうとばかりは言えず、相性の問題らしいとも聞いています。

親が子に求めるもの

 訓練会に子どもを入れる親は、親自身の仲間を求める気持ちであったり、子どもの障害を治したい、障害を軽くしてやりたい、といった気持ちだったりします。10歳を過ぎる頃から多くの親は、障害を治すより「この子なりに豊かな人生を送ってほしい」という気持ちに変化し始めます。訓練会のメニューが盛りだくさんなのも、その現れだと思います。
 学齢期から入会してくる子どもの中には、学校教育で足りない余暇的な活動内容に魅力を感じたり、普通学級や特殊学級で得られなかった仲間を求めて来る場合があります。仲間としては、緩やかなリズムをもつ気のおけない人を求めているわけです。
 一方、私たち親の心理の中に、集団行動を重んじて人と同じようにすることに価値を置いたり、人に迷惑をかけないことに気を配り過ぎ、子どもを制止したり制限したりする傾向があります。人より劣った者は一人前ではなく、人様の指図を受けながら迷惑にならないように過ごすべきという考えも、まだはびこっています。
 そのような考え方ばかりだと、友達と共に生活を楽しむことより、親やまわりの大人の言うことを聞き、言われたとおりに行動するのが良い子(良い障害児)でそれが大切なことになってしまいます。果たしてそれだけでよいのでしょうか。

アンケートで明らかになった子どもの実像

 自主訓練会をまとめている「横浜障害児を守る連絡協議会」が発行した報告書『私たちが願うふつうの暮らし』の中に「障害のある本人が感じるストレス」という項目があり、アンケートには親が答えていますが、子どもたちの様子や置かれている状況が良く現れています。
 まず“意思表出”等について、次のような記述があります。
●意思を伝えられない。
●感情を伝えられない。
 自分の意思や感情を言葉や態度にうまく表現できない。だから相手にも理解してもらえないということになります。
 また“人とのかかわり”の難しさも、次のように記されています。
●コミュニケーションがうまくとれないので、状況判断で行動する。
●ニコニコうれしそうに見えるが、常に周囲の状況にアンテナを張り巡らして、神経を使っている。
●友達とトラブルがあった時、親の私には分かるが友達には通じない。
 「コミュニケーションがうまくとれない」に象徴されるように、他人との意思や感情のやり取りの難しさがあげられています。
 続いて、親や大人の存在についての記述は次のようです。
●どこに行くにも、親と一緒。
●親から離れたいが、1人では行けない。
●いつもだれかに見張られているという思い。
●自分でできることを介助されたり、強制されたりした時、とても嫌がる。
●用意されたものに、自分を当てはめられ、自分の選択がない。
●本人の自由意思での行動が制限される。
●自分のペースでやりたいのに、それが制限される。
 自分の考えで思うとおりにやりたいのに、必ず指図されます。しかし、その親に頼らざるを得ないこともあり、逆らうことが難しい状況です。つまり、“失敗する体験”をさせてもらえないのです。その他にも、次のようなことがあります。
●他の子とかかわりたいが遊び相手がいない。
●家にいることが多く、体力の消耗がない。
●刺激を受けやすく、いろいろな場に行くのが想像以上にストレスを感じているようだ。
●することがなくのんびりしているのが苦手。
●せっかちで、待つことが苦手。
●床をドンドン踏み鳴らしたり飛び跳ねることを禁止される。
●スケジュールに振り回されていて、ゆったりしたいようだ。

 

大人になるための仲間づくり

 私たち親は、あれこれ考えて体験の場を設定していますが、子どもにしてみれば“連れて来られてやらされている”という印象だけかもしれません。
 仲間と一緒に何かしようとするとき、「自分はどうしたいのか考え、仲間に伝え、仲間の反応や意見を聞き、やりとりしながら行動に移す」という体験がないと大人になれないように思います。思うようにいかず、イライラした気持ちを自分で立て直しながら終わりまでやり遂げる体験が、自分を育て、仲間意識を育てるのではないでしょうか。
 このことが場を共にしている仲間から、共に経験を積み重ねた仲間へと一歩進むと考えられ、心の繋がりも喜びも深まっていくことと思えます。

実際の活動から

 このような考えのもとに、実際に活動を始めた友人がいます。
 集まったのは訓練会を通して知り合ったグループで、障害の内容も年齢も違いますが、話を聞いて重要だと感じるのは次の点です。

●親同志が同じ考えであること
 自分で考え、それを伝え、意見の食い違いや葛藤を自分の力で乗り越える体験を積む必要性を認識している。

●実際の活動に親は入らない
 ボランティアに任せる。子どもに近い年齢の若いボランティアほど、指図を受けるのではなく相談する意識をもつことができる。ボランティアは親たちの考えを理解し、指図せず、援助しすぎず、見守る姿勢をもつ。

●少人数での活動
 4人の活動に3人のボランティア態勢。

 項目だけを並べると、特別目新しくもありませんが、親とボランティア全体が意思統一され、“失敗をしてもいい体験の場”を用意したのは、新しいと言えるのではないでしょうか。同じ場に居るというだけでなく、気配りされた援助がないと仲間づくりは進まないと思います。

(なかうねつねお 横浜障害児を守る連絡協議会副会長)