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ハイテクばんざい!

オストメイトにより快適な装具を

五島本也

オストミーとは

 直腸がんや膀胱がんなどの手術によって腹壁に作られた排せつ口(ストーマと呼ばれています)、すなわち人工肛門・人工膀胱の保有者をオストメイトと呼びます。もともとストーマ造設の術式やストーマ用補装具の技術や知識が欧米からの導入、輸入ということもあって、またオストメイト自身も人工肛門・膀胱という漢字の4文字よりも聞こえがよい、ということでカタカナ語がよく使われています。
 人工肛門・人工膀胱というと、何らかの医療器具を体内に埋め込んで排便・排尿を操作するように想像される方が多いのですが、実際は、腹壁に作られたストーマから出る便や尿を受ける袋(パウチ)と、パウチを腹壁に固定する粘着材とでできている補装具を装着して日常生活を送るというものです。当社が皮膚保護材を発売して以来20年余りになりますが、今や粘着材としての皮膚保護材は、オストメイトのストーマ周囲の皮膚を守るものとして主流になってきました。
 補装具にはワンピースタイプとツーピースタイプがあります。ワンピースタイプは皮膚保護材とパウチが一体になったものです。1~2日で交換して手軽であることで好まれています。ツーピースタイプは、腹壁に3~4日貼付しておくフランジと呼ばれる土台にパウチをはめ込むものです。パウチだけを交換すればよく、また頻繁に剥がして皮膚を刺激することが少ないことで好まれています。両タイプは、現在ほぼ半々の割合で使われています。
 排便を管理する方法には、自然排便法と洗腸法の2通りがあります。自然排便法とは、ストーマから排せつされる便を、パウチを付けて処理する方法を言い、洗腸法とは一定量の温湯をストーマから注入し定期的に排便を促す方法です。どちらの方法を選ぶかについては、ストーマが腸のどの部分に造設されたか、発病前の排便習慣はどうだったかなどを考慮する必要があります。
 装具が現在のように進歩する以前、特に皮膚に優しい皮膚保護材の開発以前はこの洗腸法を選んでいたオストメイトが50%を超えていましたが、画期的な皮膚保護材の登場と共に減少し、現在は30%程度となり、今後、病院の指導の状況からすると10%程度になっていくものと思われます。

オストメイトは

 日本のオストメイト人口は正確な統計がないため把握されていませんが、ある調査会社の調査では11万から12万人のオストメイトがいると推定されています。ストーマ造設の原因となる病気はさまざまですが、多くは悪性腫瘍(がん)であり、疾患のある部位によってストーマの位置が変わります。
 もっとも多い下行結腸、S状結腸がんの場合には腹部左側にストーマが造られ(コロストミー)、大腸全摘手術の場合は腹部右側に回腸人工肛門(イレオストミー)、膀胱がん等で尿路変更術を行った場合は(ウロストミー)回腸の一部を導管として利用した回腸導管、または尿管を体表面に直接導く尿管皮膚瘻等のストーマが造設されます。そしてコロストメイトが全オストメイトの75%(8万4000人)、ウロストメイトが20%(2万2400人)、イレオストメイトが5%(5,600人)で計11万2000人が日本のオストメイト人口と推定されます。
 アメリカでは、コロストメイトが67%、イレオストメイトが21%、ウロストメイトが12%(オストメイト合計76万人)となっています。イレオストメイトの比率では日本が5%、アメリカが21%と大きな差があります。さらにアメリカの人口は日本の人口の2倍ですが、アメリカには日本の約8倍のオストメイトがいることになります。人口当たりのストーマ造設率が約4倍にもなりますが、これは人種による差であるのか食習慣等による差であるのか議論のあるところです。
 しかし、日本も急激な食生活の欧米化によって大腸がんの発生率が上昇しており、肉、脂肪の摂取量増大が大腸がん等の発生率と関係があることは疑いないことと言われています。一方、最近では手術方法(低位前方切除術等)の進歩により肛門括約筋直近の腫瘍でも摘出し、腸管を繋ぎストーマを造設しない術式が普及しています。毎年1万5000から1万8000件のストーマ造設術が行われていますが、最近のデータで大腸がんと診断された患者のうち、ストーマ造設を余儀なくされるのは15%以下との報告があります。

オストメイトに対する福祉制度

 オストメイトに対する福祉制度としては、身体障害者手帳取得者への補装具の交付、障害者年金制度、地方自治体独自の補助などがあります。各制度によって認定基準があり、また、年金の種類や所得によっては補助の対象とならない場合があります。
 まず、身体障害者手帳の交付を受けた後、補装具の給付を申請します。居住地の福祉事務所に相談し指定医に診断書を作成してもらい、指定業者に補装具の見積書の発行を依頼します。通常、障害等級4級に認定されたコロストメイト、イレオストメイトのパウチ(蓄便袋)に対しては8,600円を、またウロストメイトのパウチ(蓄尿袋)に対しては1万1300円を月額限度に助成金が交付されます。全オストメイトの50%強が助成金の交付を受けているものと推定されますが、これを96年度の厚生省統計報告にみると、5万人のオストメイトに47億円の助成金が交付されています。

装具(皮膚保護材)開発の歴史

 装具開発の歴史はすなわち皮膚保護材開発の歴史と言っても差し支えありません。1969年にオーストラリアの外科医ヒューズ博士がスクイブ社開発の歯科用オラヘーシブバンデージをストーマケアに使用しました。1970年にはオーストラリアで商品化された最初の皮膚保護材ストーマヘーシブ(日本名バリケアウェーハー)が発売されました。
 日本では1978年にコンバテック社がバリケアウェーハーを上市し、その粘着持続力と低皮膚アレルギー性とで急速にオストメイトに受け入れられるようになりました。それまでの日本の装具はアクリル系の粘着材(糊)のみを使用していたため、多くのオストメイトがかぶれに悩んでいました。このため皮膚保護材の普及に時間はかかりませんでした。当時、アクリル系の粘着材仕様のパウチが40円、50円の時に1枚780円の皮膚保護材は高価なものでしたが、品質のよさと粘着持続力とで1987年の補装具の助成金交付開始とともに、ストーマの粘着材と言えば合成系とカラヤ系の皮膚保護材となりました。

ストーマケアの啓蒙、普及

 ストーマ装具の正しい選択と使用方法についてその啓蒙、普及に貢献した人、団体を挙げると、ストーマ療法士(ET:Enterostomal Therapist)と日本ストーマリハビリテーション学会が挙げられます。日本ET協会のメンバー130人は主にアメリカ・クリーブランドクリニックのETスクールで学んでETの資格をとり、ストーマケア草創期のリーダーとして各地で活躍しオストメイトのQOLの向上に貢献しました。また、ストーマは外科医、泌尿器科医によって造設されますが、その手術方法と社会復帰後のストーマ管理の関係は大変重要で、日本ストーマリハビリテーション学会の熱心な医師により研究され、その知識、技術は多くの外科医へと普及していきました。さらにその過程で、ETナースと医師がストーマリハビリテーション学会を活動の場として一体となり、オストメイトの社会復帰に大いに貢献したことはだれしもが認めるところです。それは看護協会認定のWOC(創傷、オストミー、失禁看護専門看護師)の育成へと進み、すでに80人の認定専門看護師が誕生し、オストメイトの指導に当たるようになりました。

日本オストミー協会

 全国組織としての社団法人日本オストミー協会は、約1万3000人の会員を擁して活動をしています。会員に協会入会のメリットについてアンケートしたところ、次のような結果になりました。
1.同憂者のなかでの安心感
2.同憂者の姿等で励まされる
3.補装具等の知識、情報が得られる
4.経験談が参考になる
5.排せつ処理等の指導が得られる

オストミー協会の会員のボランティアによるオストメイトへのアドバイスはオストメイトの社会復帰に大いに役立っているものと思われます。 特に、各支部役員のボランティア精神には頭が下がる思いです。

より適切な装具をめざして

適切な装具とは、具体的には下記の条件を満たしたものと言われています。

1.皮膚炎を予防できるもの
2.定期的に交換できるもの
3.防臭効果が確実なパウチ
4.日常の活動を制限しないもの
5.衣服の上から装具が目立たないもの

私どもは、皮膚に優しく、より快適で安心感があり、より簡単に 着脱できて日常の活動を制限しない装具を開発し、オストメイトに 提供し続けていきたいと、装具メーカーとして常に心掛けています。

(ごとうもとなり ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社コンパテック事業部)