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シリーズ 働く 44

「おりづる共同作業所」を訪ねて

春口真一郎

はじめに

 広島市の代表的な繁華街八丁堀からバスで10分、市のど真ん中と言っても言い過ぎではない立地条件に恵まれたところに、今回紹介する「おりづる共同作業所」はあります。
 中心地というと高層ビルに囲まれた喧噪なイメージがありますが、幹線道路より若干離れた場所にあたるためか、市電や車の騒音とは無縁の落ち着いた、どこかのどかな雰囲気が残された住宅街の一角にあり、通所者が作業に頑張る声が聞こえてきそうな環境の中で運営されています。
 広島障害者職業センターとのかかわりは、離職経験のある通所者の1人が作業所に通所する中で生活、作業面とも安定度が増し、再就職の相談をセンターに申し込んだことから始まりました。ハローワーク(職安)を通じて事業所が紹介され、小規模作業所との連携による職域開発援助事業(対象者の通所している作業所に事業所での実習における生活支援を委託して行う事業)を活用して就職をめざしました。結果として、6か月の就労で作業所に戻りましたが、この間の取り組みが他の通所者を啓発し、作業所内に一段と活気が出るという効果をもたらしたとのこと。就職希望者はその後は出ていませんが、職業センターがかかわっているケースの通所を依頼したりと連携が続いています。

おりづる共同作業所のあゆみ

 おりづる共同作業所が設立されたのは、1996年4月。広島市立広島養護学校に1993年4月に高等部が設置されました。これまでは中学部を卒業すると、近隣の養護学校高等部へ進学していましたが、高等部ができたことで卒業後の進路をどのように保障していけばよいのか、以前にも増して切実な問題となってきました。この解決に向けて、高等部第1期生が3年生になった1995年5月に「市立養護学校の充実をめざす会」の呼びかけで、進路保障や作業所運動についての学習会が始まり、「作業所作りを考える会」を開催し、作業所についての夢や希望の話し合いを重ねました。
 同年9月から作業所づくりの活動の一環として、第1、第3土曜日の放課後に、作業教室を始めるとともに、「作業所準備会」を組織し、作業所開設に向けての寄付金やカンパ活動を積極的に開始しました。11月には作業所の名前を公募し、おりづる共同作業所と命名されました。作業所の場所の確保に向けては、新聞をはじめとするマスコミやビラの配布で広く社会に呼びかけ、広島市に対しても陳情を行うなどの活動の結果、中区平野町にある空いている市公務員官舎を借り受けることができました。
 このように保護者、学校、支援者が本人たちに合った内容をめざして、自分たちの思いが反映される作業所をつくりたいとの熱心な活動が実を結び、第1期生の卒業に開所を間に合わせることができました。古い木造の一戸建てですが、3DKの広さで、庭・駐車場も備わっており、使い勝手は上々とのことです。
 指導員2人、通所生6人でスタートしました。交通機関が便利で、数少ない広島市中心地にある作業所として、年々存在感が大きくなり、希望者が増加しています。このニーズに対応するため、この4月、徒歩2分のごく身近な場所に「おりづる第2作業所」を開所しました。現在は2か所合わせて、男性10人、女性10人の計20人が通所しています。二つの作業所が至近距離にあるメリットを生かした運営を心掛けており、たとえば第2のほうに導入された機械を使ってのクッキー作りを両方の通所生が一緒に行うなど、常に連帯意識をもち、両方の機能、スペースを有効に活用できるよう工夫しています。
 通所生の大半は知的障害者ですが、重複障害のある身体障害者も数人含まれ、車いすの人も2人います。今では指導員5人、常時手伝ってくれているボランティア1人での体制で、作業や生活面の指導に取り組んでいます。

おりづるではたらく

 おりづるのモットーは、「明るく、楽しく、元気で、互いに切磋琢磨しながら、働き、生活する」です。高等部卒業後の受け皿の確保が厳しい中、障害者にとって共に“はたらく”ことが“いきがい”につながる場を提供することが設立の大きな目的でした。このため、どんな障害の方でも通所が可能であれば受け入れる方針をとり、作業を細かく工程分けし、各人の特性に合わせた作業工程をつくり出せるよう努力しています。
 作業種目は受注作業として、郵便局の粗品となるタオル、おしぼりを折ってビニール袋に詰める作業や書店の雑誌袋にチラシを入れる作業、クリアシートの箱詰め作業を取り入れています。ただ、一製品あたり80銭~3円程度と低い単価が、悩みの種となっています。単価の高いものとなると質を要求され、従事できる人が限られるジレンマがあります。
 また、自主製品にも力を入れており、箸袋、コースター、ポプリ、クッキーやマドレーヌのお菓子類などがあります。今年の5月から大手シティホテルに販売コーナーを提供してもらい、好評を博しています。テレビや新聞にも取り上げられ、追加注文も舞い込み、うれしい悲鳴を上げています。作業手当のアップのためにも販路の拡大を、これからも図っていきたいとのことです。作業手当は平均月5000円程度。1日の工賃は平等で、支給額の違いは出勤日数に連動する方法をとっています。

地域への情報発信をめざして

 作業所の運営は「おりづる共同作業所運営委員会」が行い、19人の委員がいます。保護者や教師に加え、弁護士、大学助教授、医師等の多士済々が委員として支えています。これまでも作業所を知ってもらうことや地域への接点を求めて、バザーやコンサート、餅つき大会を催し、大きな成果を上げてきました。今年度からは単なる交流にとどまらない、より地域に根ざした開かれた作業所として、作業所のもつ人的資源を活用することで、広く市民の方々に社会福祉のさまざまな課題について情報を発信し、共に考えていく機会を提供していくことを企画しています。題して「おりづる共同作業所社会福祉公開セミナー」です。
 第1回は、「これからの社会福祉=社会福祉基礎構造改革について」で、講師は運営委員の1人で広島大学助教授、第2回は「私たちの人権=権利擁護と成年後見制度について」で、講師は運営委員長で弁護士、第3回は「介護保険制度について」で、講師は広島女子大学助教授、第1回は6月に開催されて好評でした。この新しい試みが成功し、支援の輪がいっそう広がっていくことを期待しています。

最後に

 知的障害者を中心としたさまざまなニーズに対応していく中で、規模、内容とも充実してきています。しかし、無認可ゆえに限られた予算と人員体制に限界を感じていることも事実のようです。垣尾所長は「より重度の人の働く場の提供をどうするのか、生活支援の充実をどうするのか、親亡き後の不安にどう応えるかなど、作業所開設以来肌で感じてきた問題を少しでも前進させるため、2002年をめどに法人化に向けて懸命に取り組んでいきたい」と抱負を述べています。
 養護学校の重度重複化が進み、福祉的就労の重要さはこれからますます認識されてくると思います。多様化している障害者に幅広く応える環境づくりをめざした“新たな夢”の実現を願いつつ、おりづる共同作業所をあとにしました。

(はるぐちしんいちろう 広島障害者職業センター)