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1000字提言

見ないものは思わない

日浦美智江

 今年もにぎやかに4町内会合同の夏祭りが終わりました。祭り会場の桂山公園では例年のように、老若男女、茶髪の青少年、かわいい浴衣姿のちびっこたちに混じって、車いすやストレッチャーに乗った「朋」のメンバーたちがあちこちでかき氷を食べ、ヨーヨー釣りをし、盆踊りの輪に入り、地域の人たちと楽しい一時(ひととき)を過ごしました。
 この地域では当たり前なこの光景も、たまたま訪ねてきた人にとっては珍しい光景らしく、車いすの多さもさることながら、メンバーの人たちと街の人たちがお互いに笑顔を交わしたり、話をしたり、自然に解け合っているのにもっとびっくりしたと話す人がいます。町内の運動会、祭り等の行事に全員で参加して今年で13年になります。
 「朋」は、重度・重複障害の人たちの学校教育終了後の日中活動の場です。通所施設として1986年に開所しましたが、新聞に予算が発表されると直ちに建設予定地の町内会から、自治会長名で建設反対の陳情書が市長宛に出されたという経緯があります。開所後、「朋」のメンバーたちは、積極的に街に出ました。公園や区民プール、ショッピングにと、チューブ栄養の人たちも出掛けて行きました。
 “障害者”という人はいません。皆それぞれに個人としての名前があり、個性があります。その個性を活かして生きていきたいと願っています。そのために、私たちは多くの人たちとメンバー個々の出会いを大切にしてきました。建設反対という意見の中に「障害者施設に反対しているのではない。それがここに建つことを反対している」という意見がありました。障害者という言葉から、決して実感ではなく、一般的に作られているイメージから「暗い、うっとうしい」と推察し、そばにきてほしくないと言う人たちを前に、個人を知ってもらう大切さを痛感していたからです。
 「朋」には年間延べ3,000人余りのボランティアさんたちが手助けにきてくださいます。そんな中で、個人と個人というお付き合いが広がっています。先日も、今年もまた、メンバーのひでこさんとその一家が、ボランティアさんの長野県の別荘で夏の数日を過ごしたと聞きました。
 デンマークに「見ないものは思わない」という諺があるそうです。まずお互いが見えること、そして個人同士の人間の関係が生まれること、それがノーマライゼーションの最初の一歩である、そのチャンスを施設職員は積極的に作っていきたいと考えています。

(ひうらみちえ 訪問の家“朋”施設長)