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フィンランドからの便り

フィンランド難聴者連盟の活動

柴田浩志

 フィンランドでは65歳以上の高齢者が人口に占める割合は年々増加し、1997年においては14.6%、2030年には25%になると予想されており、人口の高齢化とともに難聴者の数も増加してきています。今回はフィンランド難聴者連盟(以下、連盟という)の活動についてご紹介します。

難聴に関する社会啓発を推進

 フィンランドの聴覚障害者数は約30万人、そのうちろうあ者は8,000人、残りが難聴者です。連盟は1930年に設立され、現在17,000人の会員(うち青年は約800人)と90の地域組織を有しています。そして全国を8地区に分け、各々の地区に事務所を設置し、リハビリテーションを担当する難聴者の職員と組織担当職員等、2、3人の事務局員を配置しています。特にリハビリテーションを担当する難聴者の職員は、その地域の中心的な病院と連携し、補聴器の相談や難聴児・者の家族支援を行ったり、デイケアセンターや学校教員などに対して難聴児・者への正しい対応を指導しています。また連盟は文化、スポーツ、レクリエーション等の活動や月刊紙の発行、難聴者に対する公的サービスの補完として、聴力検査、補聴器のアドバイスを行っています。
 また国際活動の面では、ヨーロッパ難聴者連盟に加入し、ヨーロッパ各国との交流を図ったり、アフリカのザンビアにある難聴者協会(会員数2,500人)の聴力検査の支援等も行っています。そして連盟の財政は、スロットマシン協会の助成やサービス料、独自の基金によって賄われています。
 現在、連盟が重視している事業の一つに、難聴となる危険が広がっていることへの社会啓発があります。フィンランドでも若者が音楽などさまざまな騒音下に置かれる機会が多いので、学校を対象とした啓発ビデオを作成したり、ロックコンサートの主催者に啓発リーフレットの配布を行ったりしています。また耳鳴り患者やメニエール病患者の組織とともに、老人性難聴や耳鳴りに関する啓発も行っています。今回お話をうかがった連盟組織部長のミリャ・リイサ・ロントさんは、今日における難聴者福祉の課題として、難聴者のニーズに対応するリハビリテーション担当のスタッフが少ないため、難聴者が気軽に相談できる場が少ないことをあげていました。また現在、病院では30デシベル以上の難聴者には無料でアナログ補聴器が交付されますが、連盟としては難聴の程度のみならず、生活状況や就労状況なども併せて考慮し、必要な人には30デシベル未満であっても対応すべきだと考えているとのことでした。病院では補聴器のほか、アラームシステム(ドアベル、電話増幅器等)の交付も病院の判断でできることになっています。

聞こえの保障と人工内耳

 先日、ライトハウス(聴覚障害者総合センター)で開かれた連盟の理事会の様子を見学する機会がありました。会議では9人の理事がループシステムとタイプインタープリーター(キーボードで打ち込んだ文字情報がテレビに映し出されるシステム)を活用して話し合いが進められていました。
 ポンティエン連盟長によると、日頃の会議ではFM補聴器、赤外線補聴システム等各種の補聴援助システムを組み合わせて活用しているとのことでした。また通訳サービスについてうかがったところ、「手話通訳サービスを利用する難聴者は少ないものの、中途失聴者の中にはテキストインタープリター(コンピューターによる文字情報の表示)を利用する人がいます。難聴者の場合、テキストインタープリターは補聴器が使えるということから利用できず、中途失聴者のみ手話通訳サービスと同様年間120時間の利用が保障されています」とのことでした。
 ロント組織部長は、人工内耳の現状について「現在、フィンランドでは約100人が人工内耳の手術を受けています。成人の中途失聴者がまず手術を受け、その結果はいいようです。難聴児も増えてはいますが、まだいろいろ検討しなければならない段階です。この検討の中では、手術の決定が難聴児の親によって行われることから、親に対する情報保障をどうしていくかが重要な検討課題となっています。私たちとしては近く難聴児親の会とともに、人工内耳親の会の発足に向け話し合う予定です」と話していました。
 こうした連盟の活動に対し、連盟の地方組織の会員で、現在ヘルシンキ大学4年生のマリアリーサ・ポッカラさん(障害のある大学生組織の代表)は「私の聴力は右耳55デシベル、左耳110デシベルです。大学の授業では、主に読話とFM補聴器を併用していますが、最近セミナー形式による授業が増え、グループ討論が一番困ります。現在、大学に在籍する聴覚障害者は、私が知っている限り2人と他の障害者に比べ非常に少ないので、難聴者連盟には高等教育機関等への難聴者問題の啓発、他の障害者団体との情報交換や協力協同を期待します」と語っていました。

(しばたひろし 京都府聴覚言語障害センター)