障害分野についての国会請願(資料編付)
国際障害者年(1981年)以降18年間の国会請願の特徴
藤井克徳
選挙権や被選挙権と並んで、請願権は国民が政治に参加する重要な権利とされている。しかし、請願権は選挙権と比べてあまり知られておらず、署名に応じることはあっても個人や団体が自ら代表となってこの権利を行使することはそれほど多くはない。障害分野についても例外ではない。法律や制度の面でまだまだ多くの問題や課題を残している障害分野であり、その改善や改革にあたっては国会への請願をもっともっと重視してよいのではなかろうか。地方や地域にかかわる課題については、同様に地方議会、すなわち都道府県議会・政令指定都市議会・中核市議会、市区町村議会への請願が大切となる。
なお、本稿においては、わが国の障害分野にとって大きな節目をなした国際障害者年以降の約18年間における、障害分野関連の国会請願がどのように展開されてきたのか、これについて概観する。また資料として、1.国会請願に関する根拠となる法令等、2.国会請願・陳情の手続き(マニュアル風)についても付記しておく。
1 国際障害者年以降の国会請願
国際障害者年であった1981年から本年(1999年)10月までの約18年間について、障害分野に関する衆議院ならびに参議院への請願がどのように行われてきたのか、これについて調査を行った。国際障害者年以降としたのは、これを契機に民間団体の事業や運動が活発化したのに伴い、請願の取り組みにも新たな展開がくり広げられたと推測されるからである。ただし、それ以前のデータの掌握がならず、1970年代などと比較し、どのような傾向になっているのかについては定かではない。
約18年間で、第94国会~第145国会(1999年8月閉会)と合計52回の国会が開かれている。周知のとおり国会には通常国会、臨時国会、特別国会(首班指名)の3種類があり、臨時国会や特別国会にあっては短期会期のものもある。52回中、12回は短期会期のため請願は受理されていない(グラフ参照)。
グラフ 国際障害者年(1981年)以降の障害者福祉に関する国会請願付託状況
第94通常国会~第145通常国会
※ 衆議院における現行の厚生委員会は、第120国会(1991年)までは社会労働委員会と呼称されていた。
※※ 参議院における現行の国民福祉委員会は、第120国会(1991年)までは、社会労働委員会、第141国会(1997年)までは、厚生委員会と呼称されていた。
社会福祉に関する請願は、現在は衆議院では厚生委員会、参議院では国民福祉委員会(第120国会までは、衆参両院とも社会労働委員会と呼称され、社会福祉分野と労働分野の2分野が取り扱われてきた)に付託され、採択の可否が決められることになる。障害分野については、教育、労働、交通、建設、通信、科学技術など国会審議も多岐の分野に及ぶが、実質的には社会福祉分野に関する件数が多く、請願の圧倒的多くは厚生委員会(衆)・国民福祉委員会(参)に集中している。なお、厚生委員会・国民福祉委員会には、高齢者や保育、児童あるいは医療の分野が付託されるが、調査においては請願書表題から見て障害分野のみを抽出した(難病関連を含む。高齢者や保育、児童、医療にあっても障害分野に関連しているものは含めた)。
2 大半が厚生委員会・国民福祉委員会に付託
この結果、18年間で厚生委員会付託が638件、国民福祉委員会付託が659件となっている。これらの件数は、衆議院での他の委員会の同じく18年間の合計数256件(障害分野関連のみの請願)を大きく上回っている。
内容の特徴については紙幅の関係もあり、詳細については機会を改めたい。その一部を紹介すると、たとえば第94通常国会(1981年)では「障害者の所得保障制度確立に関する請願」や「無認可障害者作業所の助成に関する請願」が、また第95通常国会(1982年)では「精神障害者福祉法の早期制定に関する請願」が、それぞれ衆参両院の社会労働委員会に付託されている。これらについては、今日にしてなお重要かつ緊急度の高いテーマである。一つの制度の具体化というものがいかに容易でないか、深く痛感させられる。なお、採択の可否について見ると、厚生委員会付託分が638件中209件(32.7%)、国民福祉委員会付託分が659件中201件(30.5%)と、かなり低い採択率にあることがうかがえる。採択された請願については、内閣より請願書の紹介議員に対して処理経過が文書で送付される。むろん、国会(立法府)での採択はそれなりの重みがあるが、行政府の独自性という建て前からすんなりと行政施策に反映されるものではない。
3 厚生委員会関連以外の内容に見る特徴
前述したとおり、社会福祉分野以外の請願についてはそれぞれ専門の委員会に付託される。衆議院における第94通常国会から第145通常国会までの厚生委員会以外の委員会に付託された延べ件数は257件、委員会数は14に及ぶものであった(ちなみに、第145国会時の委員会数は常任委員会20、特別委員会9の計29である)。
文教委員会が111件と群を抜いて多く、次いで建設委員会27件、運輸委員会26件、内閣委員会21件、地方行政委員会18件、逓信委員会16件の順で、残りの8委員会はいずれも一桁にとどまっている。なお労働委員会が7件と少ないが、これは第121国会で労働委員会が新設されるまでは、社会労働委員会において障害者雇用などの労働分野が扱われており、前掲の社会労働委員会に一定の件数が含まれる形となっている。
なお、厚生委員会以外の257件のうち、採択となった請願は48件(18.6%)であった。
(ふじいかつのり 共同作業所全国連絡会常務理事、本誌編集委員)
資料1 国会請願に関する根拠となる法令等
法律・規則等 | 条文 |
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日本国憲法 |
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第16条 | 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。 |
国会法 |
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(請願書の提出) | |
第79条 | 各議院に請願しようとする者は、議員の紹介により請願書を提出しなければならない。 |
(請願の議決) | |
第80条 | 請願は、各議院において委員会の審査を経た後これを議決する。委員会において、議院の会議に付するを要しないと決定した請願は、これを会議に付さない。但し、議員20人以上の要求があるものは、これを会議に付さなければならない。 |
(内閣への送付・内閣の処理経過報告) | |
第81条 | 各議院において採択した請願で、内閣において措置するを適当と認めたものは、これを内閣に送付する。 内閣は、前項の請願の処理の経過を毎年議院に報告しなければならない。 |
(請願の各院不干預) | |
第82条 | 各議院は、各別に請願を受け互に干預しない。 |
衆議院規則 |
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(請願者の住所氏名の記載) | |
第171条 | 請願書には、請願者の住所氏名(法人の場合はその名称及び代表者の氏名)を記載しなければならない。 |
(請願書の用語) | |
第172条 | 請願書には、普通の邦文を用いなければならない。やむを得ず外国語を用いるときは、これに訳文を附けなければならない。 |
(紹介議員の署名) | |
第173条 | 請願を紹介する議員は、請願書の表紙に署名又は記名押印しなければならない。 |
(請願文書表の作成・印刷配付) | |
第174条 | 議長は、請願文書表を作成しこれを印刷して各議員に配付する。 |
(請願文書表の記載事項) | |
第175条 | 請願文書表には、請願者の住所氏名、請願の要旨、紹介議員の氏名及び受理の年月日を記載しなければならない。 数人の連署による請願は、請願者某外何名と記載する。 同一議員の紹介による同一内容の請願が数件あるときは、請願者某外何名と記載する外その件数を記載する。 |
(請願の委員会付託) | |
第176条 | 請願は、文書表の配付と同時に議長がこれを適当の委員会に付託する。 |
(裁判官罷免の請願) | |
第177条 | 裁判官の罷免を求める請願については、議長は、これを委員会に付託しないで裁判官訴追委員会に送付する。 |
(請願の委員会審査報告) | |
第178条 | 委員会は、請願についてその審査の結果に従い左の区別をなし、議院に報告する。 1 議院の会議に付するを要するもの 2 議院の会議に付するを要しないもの 議院の会議に付するを要する請願については、なお、左の区別をして報告する。 1 採択すべきもの 2 不採択とすべきもの 採択すべきものの中、内閣に送付するを適当と認めるものについては、その旨を附記する。 |
(会議に付するを要しない請願) | |
第179条 | 委員会において、議院の会議に付するを要しないと決定した請願について、議員20人以上から休会中の期間を除いて委員会の報告の日から7日以内に会議に付する要求がないときは、委員会の決定が確定する。 |
(陳情書の委員会参考送付) | |
第180条 | 陳情書その他のもので、議長が必要と認めたものは、これを適当の委員会に参考のため送付する。 |
※ 参議院においても基本的には同内容であるが、詳細については「参議院規則第11章請願」を参照。