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1000字提言

これは一体、何だ

高田三省

 私が毎日利用しているJR中央線立川駅にエレベーターが設置されてもう1年にもなろうか。バリアフリーの一環として設けられたエレベーターだが、時がたつにつれ、それを利用しているのはほとんど普通の人、つまり健常者である。まあ、駅の利用客は障害者より健常者のほうが圧倒的に多いし、また、せっかくの設備を遊ばせておくこともなかろうと思うから、一般の人の利用もさして気にとめなかった。ところがある朝、ホームで電車を待っていた私はこんな光景を目撃した。
 電車が入ってきて停まる。どっと乗客が降りてくる。その中のかなりの人が階段に向かうのではなく、エレベーターに殺到する。せいぜい6、7人も乗れば満員になるエレベーターに、である。彼らは押し合いながら狭い箱へ繰り込み、やがて箱の扉が閉まる。その時である。みんなから弾き出され、エレベーターに乗りはぐれてオロオロしている1人の中年女性に私は気がついた。よく見ると彼女は足が不自由で、杖を手にしている。これは一体、何たることか。私はすでに動き始めたエレベーターを睨みつけていた。
 私の勤務する財団法人には、心身に障害をもつ大学生を対象にした奨学金制度があるが、その奨学金第1号は、東京・町田市のW大学に在学する視力障害者のU君だった。U君は講義内容の筆記など、友人らの無償の助けを借りて勉学を続けていた。私は奨学金の手続きのために同大学を訪問し、学生担当のA課長と会った。私は知人から聞いた話として「この大学には身体に障害をもった学生が多いそうですが」と言い、「設備面などで特に障害者の学生を配慮した大学運営がなされているんですか」と尋ねた。A課長は首を横に振り、「車いすの学生も何人かいますがエレベーターは一基だけ。ほとんど階段ですが、何とかなっているようです」。
 用を済ませて大学のキャンパスを出ようとしたら、1台の乗用車がスーと入ってきた。降りてきたのは車いすとそれを使う女子学生である。車はそのまま去って行った。手動の車いすが校舎に近づくと、どこからともなく数人の男子学生がおしゃべりしながら現れ、すごく当たり前のように車いすを持ち上げ、声を掛け合いながら建物の階段を上がって行った。
 JR立川駅で、障害者用のエレベーターから障害者を弾き出した人々に、W大学への1日留学をぜひおすすめしたい。

(たかださんせい 財団法人ヤマト福祉財団常務理事)