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障害のある子どもたちは、いま vol.15

障害児と地域生活
「夢すばる」の実践

長居由子

 ハンディがある子、支援する人、される人、一つひとつが小さな星なら、その集まりは光り輝く星の集団、昴(すばる)。
 人と人が結ばれる、夢が叶う、思いが結ぶ。
 こんな思いから会の名称が付けられました。重いハンディをもつ子どもたちが地域で豊かに暮らせるよう、私たちの活動が始まりました。
 個人的なことですが、私が横浜から群馬に越してきた時、ハンディのある子どもたちを取り巻く環境の落差に大変驚き、それはそれはショックでした。北欧の話はよく耳にしましたが、同じ関東圏内でのあまりの差にどうしたらいいのか途方に暮れたものです。
 人間として同じに生を受けながら、居住地域によって生活が変わってしまうことは、どうしても納得できませんでした。たまたま他市での生活を知っていただけのことですが、あまりの情報のなさゆえに、今の生活を受容せざるをえないことに気づきました。「知ることは力」そこで、数人の仲間と会報作りを始めたのが、活動のきっかけでした。とはいうものの、2月に原稿ができ上がり、バレンタインのイラストを入れましたが、実際に第1号を発行したのは紫陽花のイラストの入った6月でした。今までに、何の経験もない普通の主婦の集まりでしたから、記念すべき第1号を出せたことは、とても感激でした。けれどもそれ以上に、記事のネタがいつなくなるか、いつまで発行できるのか、不安のほうが大きかったと思います。それでもお蔭様で、今月は第40号の発送を終えたところです。
 私たち夢すばるの目的は、一つには社会啓発活動、そして卒業後の居場所づくりと、二つの大きな柱があります。会報作りは、前者の一つですが、まず知ってもらうこと、ハンディのある子どもたちにかかわるさまざまな情報提供と当事者の思いを綴っています。これまでに、就学の問題や医療的ケアを必要とする子どもたちのこと、障害が重い子の1日の生活の様子、施設見学の感想や勉強会の概要、制度のことや公共施設を利用しての感想、要望等を取り上げてきました。文字ばかりにならないよう、時にはマンガにしたり、取り上げ方も工夫してきました。
 発送先は約200人の賛助会員と、会員のかかわる市町村役場、社協や保健所、また今まで活動にかかわってくださった方々です。最初は、全県下70市町村の福祉課に送っていましたが、顔が見えないところでは無意味ではないかと考え、現在に落ち着きました。
 そして啓発活動の二つ目は、母親である私たち自身が社会資源になっていくことです。
 たとえば、乳幼児期のケアの場で母親をサポートすることは大切ですが、今現在、その体制は整っていません。そういったところで新米ママの話を聞いたり、最近では、前橋市内の小学校で、ハンディをもつ子どもたちと共に育つ同年代の子どもたちに話をする機会もありました。この時はなるべく低学年向きに、自前のマンガ、スライド、写真を用意し、飽きないように視覚に働きかけることを心がけ、言葉は補助的なものにしました。いつも何かをしてもらうばかりでなく、私たちにもできること、私たちだからこそできることを考え、少しずつ取り組み始めたところです。
 卒業後の居場所づくりは、具体的には何も進んでいないのが現状です。活動資金も含め、多少の資金稼ぎは必要だと考え、月に3回、子どもたちが学校に行っている間、パンを焼いて、身近な方々に買っていただいています。また、年に数回のフリーマーケットにも参加しています。
 いろいろな所で展開されている作業所づくりのように、より具体的に活動していくことも考えましたが、結局私たちは、地域に学校がないため、遠くの学校に通学しています。通学区域は広域にわたっているため、学齢期はそれぞれの地域でのかかわりが薄く、また仲間の年齢層も広いこともあり、一つのものをつくり上げることは難しいと考えています。しかし、諦めているわけではなく、間接的ではありますが、折に触れ、声にすることを意識しています。
 先日、「地域の暮らしを支える」というテーマでシンポジウムを開催しましたが(約250人参加)、そういった場においても、卒後の受け皿がないことを伝え、いろいろな立場の方々に話を聞いていただきました。
 私たちの今までの活動が実を結んだものに紙オムツ助成事業があります。仲間たちと関東一円の596市町村すべてにおける支給状況を調べ、群馬県と前橋市に要望書を提出したところ、現在では17市町村で助成が始まっています。仲間の「紙オムツどうしてる?」の一言から実際に助成が始まり、私たち一市民の声が行政を動かすきっかけになることを実感した出来事です。
 さて、これら親の活動を紹介しましたが、子どもたちと一緒の活動では、ディズニーランドツアーを企画したり、キャンプ、クリスマスコンサート、お泊まり会、最近では、音楽療法も始めました。重いハンディがあるからこそ、できないことに目を向けるのではなく、できることを見つけながらチャレンジしています。
 以上が、私たちの活動の概要です。通学区域は広域であり、地域でのかかわりをもちにくいことは先にも触れましたが、卒業と同時に「さあ、地域にお帰りなさい」と言われても、突然背中をポンと押されたように、戸惑うのが現実です。
 今、介護福祉サービスが市町村単位で動き始めている中で、活動そのものにも制約を受けることがあります。できれば、ハンディのある子どもたちが、「ここで暮らしているよ」と、地域の人たちに知ってもらう機会は多ければ多いほどいいと思います。そこで、一般校との交流などもできるよう働きかけていきたいと考えています。その際、特別行事への参加ではなく、音楽やホームルーム等さり気ないかかわりがもてることも希望していきたいと思います。
 こんな私たちの活動が、社会に大きな影響を与えているとは思いませんが、ちっちゃなちっちゃな石を投じていると自負しています。目の前の目標に向かって、直接アプローチしていくことは、広域性ゆえに難しいですが、地域の子どもたちや、社会に働きかけていくことの大切さにも気づきました。
 活動を始めたばかりの頃、夢すばるは何を目標に活動しているのかと尋ねられ、私たち自身にもそれが見えていませんでした。通学の広域性、異年齢、ハンディがあるということ以外に共通のものが見えませんでした。しかし、それが今の活動を生み出してきたことは、紛れもない事実です。自分たちの子どものところには、すぐ返らないかもしれないけれど…と、会員一人ひとりが考えるようになりました(そうは言っても、卒後の問題は深刻です)。これが、都会にはない地域性というか夢すばるの特性といえるかどうか分かりませんが、少なくとも、活動を始めた頃と今とでは、会員の意識が変わりつつあるように思います。不安をいっぱい抱えながら、でも、こんな活動があってもいいかなあと思っています。
 今後、どんなふうに展開していくのか、未知の部分(可能性)を秘めながら、できれば小さな石ではなく、中くらいの石になれたらいいですね。
 だれもが地域でふつうに、欲を言えば、豊かに暮らせる社会をめざして!

(ながいゆうこ 夢すばる代表)