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ワールドナウ

スリランカ
スリランカにおける国際協力と障害者事情

上野悦子

はじめに

 清水基金の奨学金制度で海外調査に出る機会を得、去る6月21日から7月3日までスリランカに滞在しました。調査の目的は、スウェーデンが障害分野での途上国援助をどのような考えのもとですすめ、スリランカではどのように実践されているかを調査することで、そのため関係機関や中心となる人々を訪ねました。スリランカでは北部、中央部、南部合わせて約1,200kmを車で走り、それぞれの地域で活躍する障害をもつ人々に会いました。スウェーデンの障害分野での国際協力の現状とともに報告します。

SHIAの活動

 SHIA(スウェーデン障害者国際援助協会:Swedish Organization of Disabled Persons International Aid Association)は、スウェーデンの19の障害団体で構成される、障害分野で国際協力を行っている民間組織で、1981年に設立されました。SHIAとはSolidarity(連帯)、Humanity(人道)、International Aid(国際援助)の英語の頭文字をとったもので、SHIAのめざすところを表しています。SHIAは途上国での障害当事者団体の組織づくり、組織の強化に援助の目的をおき、アジアではスリランカ、ラオス、ネパールなどで協力活動を行っています。
 予算は、国の政府開発援助機関であるSida(スウェーデン国際開発協力庁:Swedish International Development Cooperation Agency)から出ています。プロジェクト予算のうち90%はSidaから、残りの10%はSHIAの加盟団体がそれぞれ負担しています。予算の中にはスウェーデンの障害をもつ人たちが実際に途上国へ出かける費用や、そのために必要な経費についても負担しています。
 SHIAは、スリランカでどのような活動をしているのでしょうか。

スリランカの女性障害者団体

 首都コロンボから北へ車で約4時間のところにタラワという村があります。近くには、アヌダーラプラという仏教が初めてスリランカに伝わったとされる町があります。タラワの辺りは日本の農村を思わせるような風景が続く平原地帯で、女性障害者の団体がある近辺は、ほとんど家が見あたりませんでした。会長はカマラさんといい、1997年にJICA(国際協力事業団)が実施する障害者リーダーシップ研修に参加したことのある方です。
 彼女はごく最近まで、コロンボにある職業訓練校で宝石カッティングの指導員として働き、週末にタラワの地を訪れ、女性たちのグループづくりの活動をしていたのですが、なかなか活動が進まず、ついにタラワに移り住む決心をしました。現在、近隣の村々で障害をもつ女性のグループづくり、グループのリーダー養成セミナーの開催、縫製の訓練などを始めています。
 なぜ地方で、なぜ女性障害者なのか、カマラさんに聞いてみました。「都市に住む障害をもつ人が受けられるサービスは、地方までは届かない。また障害者団体の中でも女性は発言の機会が少ない。さらに特に地方では、障害をもつ女性は差別を受けることが多く、遅れた状況に置かれている」とのことで、女性障害者団体の設立にこぎつけたのでした。そして、調査の結果、北部の地域に多くの障害をもつ女性たちがいて、社会からも家族からも無視された環境に置かれていることがわかったのです。現在は、新たなプロジェクトとしてジャム作りに取り組んでいます。タラワの辺りは乾燥地帯で、フルーツが豊富で安く手に入ります。それを活かして、障害をもつ女性が自立できるよう訓練を開始すると語っていました。

SHIAのスリランカでの活動

 スリランカヘの協力に対しては、SHIA加盟の多くの団体が協調し、活動しています。基本的には政府の障害者施策の実施に協力する姿勢をとっており、中央・地方政府関係者、障害当事者団体、支援団体など60人以上が出席するプロジェクト委員会を年2回ほど開いています。SHIAは、傘下団体をもつ全国組織である障害当事者団体の組織強化を支援して、税制的支援やアドバイスを行っています。SHIAの支援は、特に女性障害者の活動促進に関する優先順位が高く、カマラさんの活動には注目していて、8人乗りの車を提供したり、小規模のグループづくりに協力したりしています。またスウェーデンから障害をもつ人たちがスタディツアーに訪れ、都市や地方で同じ障害をもつ人たちと交流を重ねています。
 スウェーデンの障害をもつ若い人たちのいくつかの団体が奨学金を集め、3人の障害をもつ人を選んで、タンザニア、ネパールとスリランカに1か月ずつ派遣しています。目的は、それらの国における障害をもつ人の困難さを体験してもらおうというものです。
 SHIAはまた、コロンボの少し南に現地事務所をもっており、現地での独自のプロジェクトも実施しています。それは南部州政府との共同プロジェクトで、CBR(地域に根ざしたリハビリテーション)を推進するための「地域に根ざした資源開発」と呼ばれる活動で、リソースセンターを地域に設け、発展させるものです。現在、南部州の2か所にリソースセンターをもっていますが、それを5か所に増やしたいそうです。そのうちのひとつを訪問しましたが、地方政府の既存の建物を使用して、聴力検査や視覚検査、その他、学校の先生を集めて手話の講習などが行われていました。
 南部州のインド洋に面したゴーラという町では、スウェーデンの知的障害団体の協力により建てられた、知的障害をもつ女性のためのホームを訪問しました。ホームでは、15人の知的障害をもつ女性が生活を始めていました。しかしそこでの問題は、訓練する人がいないということです。寮母さん的役割の女性が2人働いていましたが、訓練を行うための専門的訓練を受けていないため、何をどうしたらよいのかわからないとのことでした。
 また、SHIAは現地の障害者団体の連合組織をつくることにも協力しており、私は滞在中、南部地域の障害者団体の連合組織の発会式に居合わせる機会を得ました。地元の小学校のL字型の教室には約500人の障害をもつ人々、親のグループ、学校の先生などがびっしり座り、クーラーのない教室は熱気に包まれていました。発会式では連合組織の役員の選出が行われ、数人の役員が決まりました。連合体の設立は南部州政府によって行われましたが、今後は選出された役員を中心に、当事者の運営による連合組織が動き出します。
 長い経験をもつスウェーデンの関係者に、国際協力で難しいと思う点は? とたずねると、文化の違いという答えが返ってきました。
 国民の70%が仏教徒であるといわれるスリランカでは、仏教の行事をとても大切にします。そのひとつに象をきれいな布で着飾り行進するペラヘラという祭りがありますが、車に乗って移動中にペラヘラに出会うと、2時間くらいは渋滞で動けなくなります。しかし、地元の人は文句も言わずに行進が通り過ぎるのをじっと待ちます。国際NGOなど外国から開発目的で訪れる人は多いということですが、そのような外国人を見る目には厳しいものがあります。現地の人たちが大切にしていることを理解し、現地のニーズをもつ人のイニシアチブを尊重することが国際協力を進める中でいかに重要なことであるか、ということを思い知らされました。
 「まずわたしたちの文化を理解してほしい。それから協力事業を始めるなら歓迎する」という現地の人の言葉は印象的でした。

(うえのえつこ 日本障害者リハビリテーション協会)