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障害者に係る欠格条項の見直しについて

冨澤正夫

1 はじめに

 障害者施策推進本部(本部長:内閣総理大臣、以下「本部」という)は、平成11年8月9日、「障害者に係る欠格条項の見直しについて」として、対象となる63の制度について一斉に見直しを行うこと及び見直しの方針を決定した(後記資料参照)。
 「障害者に係る欠格条項」は、資格・免許制度等にある欠格事由を定めた条項の一部であるが、欠格事由は、それぞれの資格・免許制度等において、その資格や免許に基づいて行われる業務が適正に行われるよう、さまざまな観点から形式的に資格や免許の付与を行うべきでないと判断される事由を掲げているものであって、社会制度として意義のあるものである。
 「障害者に係る欠格条項」の問題は、障害があること、障害者であることを一般的に欠格事由としているところにあり、障害者の能力開発、障害により相対的に低下した身体や精神の機能を補完する機器や技術等による障害者の能力の向上を考慮していないところにある。このため、資格や免許を取得するに必要な知識や技術をもち、業務を行うに問題のない障害者をもその資格や免許から排除することになり、障害者基本法の定める「障害者の自立とあらゆる社会活動への参加」という理念を損なうことにもなりかねないと考えられる。
 その意味で、平成5年の「障害者対策に関する新長期計画(以下「新長期計画」という)が言う、障害者の社会参加に関する「制度的な障壁」の一つとなりかねないものである。

2 見直しの経緯

 障害者に係る欠格条項については、新長期計画において、「障害者の社会参加を不当に阻む要因とならないよう」見直しについて検討することとされている。
 一部の制度については、この計画以前から逐次見直しが行われてきており、例えば「アマチュア無線従事者免許」については、身体障害者はすべての免許を取得できるようになっている。また、この計画策定の後、栄養士等の制度について従来絶対的な欠格事由であった障害者関係規定が相対的欠格事由に改正される等の見直しに伴う措置がとられている。
 しかし、平成9年に総理府が行った調査の結果、障害があること、障害者であることを理由とした欠格条項を有し、見直しが行われていない資格・免許制度等が相当数あることが判明したため、本部として、この問題に取り組むこととなった。
 障害者基本法に基づいて設置されている中央障害者施策推進協議会(以下「中障協」という)は、本部と連携してこの問題を検討し、平成10年12月「障害者に係る欠格条項の見直しについて」とする報告を内閣総理大臣に提出した。この報告書は、障害者に係る欠格条項を見直す際の視点、考え方及び留意点を整理したもので、今回の本部決定の基盤となっている。
 中障協は、さらにこの報告を受けて政府部内で取りまとめられた本部決定の案について審議し、本部決定後の関係各省庁における見直しに当たり、1.できる限り障害者に係る欠格条項が廃止される方向で検討すること、2.障害者等の意見を十分に聞くことを会長及び企画調整部会長連名の文書で政府に要請した。

3 本部決定の概要

(1)基本的考え方

 本部決定は、基本的考え方として、まず、障害者に係る欠格条項のすべてについて、中障協報告の視点、現在の医学や障害補完機器等科学技術の進歩及び先進諸外国の状況等の社会状況の変化を踏まえ、制度の趣旨に照らして、その必要性を見直し、必要性の薄いものは廃止すると述べている。そのうえで、真に必要なものについて、具体的な改善の方向を定めている。
 これは、障害者に係る欠格条項が定められている制度は比較的古い時代に制定されたものが多く、かつて、障害者施策や障害者の能力開発が十分な水準になかった時代の考え方を基礎としていると考えられることを踏まえたものである。すなわち、現在の社会環境を前提に判断すれば資格・免許等を与えるうえで、障害があることが問題とならないものがあることを想定し、一方で、一定の障害または障害者には資格・免許等を与えないこととせざるを得ない制度もあることを想定しているものである。

(2)真に必要と認められるものについての具体的な対処方針

 本部決定は、廃止できない障害者に係る欠格条項を改善する具体的な対処方針として、次の四つの方向を示している。

1.対象の厳密な規定への改正

 これは、現在の障害者に係る欠格条項に、幅広く障害者全体を欠格とするような規定があることから、制度の目的に照らして真に資格・免許を付与できないものを特定することを求めるものである。

2.絶対的欠格から相対的欠格への改正

 これは、障害者を一律に欠格とすることの問題を改善するものであり、資格・免許等を受けようとする者の具体的状況に応じて取得を可能にする道を開くことを求めるものである。

3.障害者を表す規定から障害者を特定しない規定への改正

 これは、障害者に係る欠格条項が、現実に障害者の資格取得とそれによる社会参加を阻む効果を有するとともに、障害や障害者であることを欠格事由として法令に定めることが障害や障害者への偏見・差別を助長する可能性があることに鑑み、こうした法令の規定をできる限り排除するよう求めるものである。

4.資格・免許等の回復規定の明確化

 これは、資格取得後に欠格事由に該当するに至り、資格・免許を取り消された者の欠格事由がなくなった場合の資格等回復の手続きが定められていない制度が多いため、こうした場合への対応を求めるものである。
 以上の四つの方向での措置がとられれば、真に必要であるため、廃止することはできない障害者に係る欠格条項であっても、障害者の社会参加への「制度的な障壁」としての問題点は、多くが解決されると考えられる。
 本部決定では、63の制度を別表で特定し、本部決定に基づく一斉見直しの対象としているが、前記の具体的な対処の方向の検討課題を、制度の特性に応じた三つのグループごとに割り当てている。
 第1グループは、典型的な資格・免許制度であり、すべての方向を検討することを求めている。
 第2グループは、期間の定まっている業の許可であり、資格回復規定になじまないものであるので資格回復に関する前記4.の方向を課題から除外している。また、資格・免許・業の許可以外の制度のうち、絶対的欠格を定めている制度についても、資格回復規定になじまないので、このグループに含まれている。
 第3グループは、資格・免許・業の許可以外の制度で相対的欠格を定めている制度であり、すでに実現している相対的欠格への改正と資格回復規定に関する課題を除外している。

(3)見直しの促進

 本部決定では、最後に、この見直しの目標時期を新長期計画の計画期間内と定め、同時にこの間の見直しの進捗状況を定期的に明らかにするための方策を定めている。

4 おわりに

 本年8月9日の本部決定以降、対象となる63の制度を所管する各省庁において、本部決定の方針に従った見直し検討が開始されている。この見直しには、障害に起因する個人の機能・能力の低下と、さまざまな手段によるその補完、業務に必要な人の機能・能力の関係を整理することが必要で、その過程ではさまざまな論点が出てくるのではないかと考えられる。
 しかし、平成9年の調査以後、本部決定に至る過程ですでに廃止され、または廃止の手続きに入っている制度もいくつかあり、できるだけ早く見直しの結論を得て、障害者に係る欠格条項の廃止または改善が図れるよう取り組んでいきたい。

(とみざわまさお 総理府障害者施策推進本部担当室長)

資料
平成11年8月9日 障害者施策推進本部決定

障害者に係る欠格条項の見直しについて

1 基本的考え方

 資格・免許制度又は業の許可制度において、資格・免許又は業の許可等の欠格事由として障害者を表す身体又は精神の障害を掲げている法令の規定、特定の業務への従事、公共的なサービスの利用等に当たり障害者を表す身体又は精神の障害を理由に一般と異なる制限を付している法令の規定、その他障害者を表す身体又は精神の障害を理由としてこれらの障害を有するものに一般と異なる不利益な取扱を行うことを定めた法令の規定(以下「障害者に係る欠格条項」という。)については、障害者が社会活動に参加することを不当に阻む要因とならないよう「障害者対策に関する新長期計画」(平成5年3月障害者対策推進本部決定)の推進のため、対象となるすべての制度について見直しを行い、その結果に基づき必要と認められる措置をとるものとする。
 見直しに当たっては、平成10年12月、中央障害者施策推進協議会より出された「障害者に係る欠格条項の見直しについて」を踏まえ、現在の障害及び障害者に係る医学の水準、障害及び障害者の機能を補完する機器の発達等科学技術の水準、先進諸外国における制度のあり方その他の社会環境の変化を踏まえ、制度の趣旨に照らして、現在の障害者に係る欠格条項が真に必要であるか否かを再検討し、必要性の薄いものについては障害者に係る欠格条項を廃止するものとする。
 上記再検討の結果、身体又は精神の障害を理由とした欠格、制限等が真に必要と認められるものについては、次項に掲げるところにより対処するものとする。

2 真に必要な欠格条項に係る具体的対処方針

 欠格、制限等が真に必要と認められる制度については、次に掲げるところにより対処する。

(1)対処の方向

1.欠格、制限等の対象の厳密な規定への改正

 ●現在の医学・科学技術の水準を踏まえて、対象者を厳密に規定する。
 ●本人の能力等(心身の機能を含む)の状況が業務遂行に適するか否かが判断されるべきものであるので、その判断基準を明確にする。

2.絶対的欠格から相対的欠格への改正

 ●客観的な障害程度の判断、補助者、福祉用具等の補助的な手段の活用、一定の条件の付与等により、業務遂行が可能となる場合があることも考慮されるべきであり、その対応策として絶対的欠格事由を定めているものは相対的欠格事由に改めることを原則とする。

3.障害者を表す規定から障害者を特定しない規定への改正

 ●欠格事由として「障害者」「○○障害を有する者」等という規定から、
 ア 「心身の故障のため業務に支障があると認められる者」等の規定への改正。
 イ 視覚、聴覚、言語機能、運動機能、精神機能等身体又は精神の機能に着目した規定への改正。(機能の程度について、点字、拡大器、手話等の機能補完技術・機器の活用及び補助者の配置の可能性を考慮する。)

4.資格・免許等の回復規定の明確化

 ●資格・免許等を取得した後に欠格事由に該当したことをもって、資格・免許等の取消、停止等を行う規定を有する制度にあっては、当該事由が止んだ時の資格・免許等の回復に関する規定を整備する。

(2) 制度ごとの対処

  別表に掲げる制度につき、下記の区分により具体的な対処の方向を検討し、その結果に基づき必要と認められる措置を行う。
1.個人に対して資格・免許等を付与する制度であって、障害者に係る欠格条項が真に必要な場合には、2の(1)の1.、2.、3.及び4.の内一又は複数の対処の方向
2.個人又は法人に対して業の許可を行う制度及び絶対的欠格事由を定めている資格・免許・業の許可以外の制度であって、障害者に係る欠格条項が真に必要な場合には、2の(1)の1.、2.及び3.の内一又は複数の対処の方向
3.前記1.及び2.に掲げる以外の絶対的欠格事由を定めていない制度であって、障害者に係る欠格条項が真に必要な場合には、2の(1)の1.及び3.の内一又は複数の対処の方向

3 見直しの促進

 本方針に基づく見直しは、可及的速やかに行うものとし、遅くとも「障害者対策に関する新長期計画」の計画期間内に必要な措置を終了するものとする。
 見直しの進捗状況を明らかにするため、総理府は、定期的に関係各省庁から見直しの進捗状況についての報告を求め、障害者施策推進本部に報告するとともに、一般に公表するものとする。

〈別表〉

「2 具体的対処方針」の(2)1.に該当する制度

警察庁

警備員等の検定資格/警備員指導教育責任者・機械警備業務管理者/鉄砲又は刀剣類所持に係る許可/指定射撃場の設置者及び管理者/自動車等の運転免許

環境庁

狩猟免許

厚生省

薬剤師免許/栄養士免許/調理師免許/理容師免許/美容師免許/製菓衛生師免許/医師免許/医師国家試験・予備試験/歯科医師免許/歯科医師国家試験・予備試験/診療放射線技師免許/臨床検査技師・衛生検査技師免許/理学療法士・作業療法士免許/視能訓練士免許/言語聴覚士免許/臨床工学技士免許/義肢装具士免許/救急救命士免許/あん摩マッサージ指圧師、はり師又はきゅう師の免許/柔道整復師免許/歯科衛生士免許/歯科技工士免許/保健婦、助産婦、看護婦又は准看護婦免許

農水省

家畜人工受精師免許/獣医師免許

運輪省

動力車操縦者運転免許/海技従事者国家試験(一般船)/水先人免許/通訳案内業免許/地域伝統芸能等通訳案内業免許

郵政省

無線従事者免許

労働省

衛生管理者・作業主任者・クレーン等の運転免許

建設省

建設機械施工の技術検定


「2 具体的対処方針」の(2)2.に該当する制度

警察庁

警備業の認定/警備員の制限/風俗営業の許可/風俗営業の許可基準に係る調査業務/風俗営業の営業所の管理者

科技庁

放射性同位元素等の使用、販売等の許可/放射性同位元素又はこれに汚染された物の取扱い並びに放射線発生装置の使用の制限

厚生省

薬局開設許可/医薬品等の製造業等許可/医薬品等の一般販売業等の許可/麻薬の輸入等に係る免許/けしの栽培許可/毒物劇物取扱責任者/特定毒物研究者の許可

法務省

検察審査員/外国人の上陸制限

通産省

火薬類取扱い

運輸省

船舶乗務のための身体検査基準


「2 具体的対処方針」の(2)3.に該当する制度

人事院

国家公務員の就業禁止

防衛庁

海技試験制度(自衛艦)

運輸省

航空機乗り組のための身体検査基準

労働省

一般労働者の就業禁止

建設省

公営住宅への単身入居/改良住宅への単身入居