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国際的に評価される内容での改正を願う

安藤豊喜

 全日本ろうあ連盟は、難聴者・中途失聴者団体、聴覚障害者・難聴児を持つ親の会、手話通訳・要約筆記問題研究会、聴覚障害教職員連絡協議会、ろう学生懇談会、ろう学校PTA連合会のみなさんと共に、「聴覚障害者を差別する法令の改正をめざす中央対策本部」(以下、中央対策本部という)を組織し、全国的な署名運動と、都道府県、市町村議会への「聴覚障害者の社会参加を制限する欠格条項の早期改正を求める意見書の提出を求める請願」の取り組みを1998年10月から開始し、現在200万人を超える署名と502議会での請願採択の成果を得ています。このような広範囲な国民の支持と地方議会での請願採択は、わが国における障害者観が「人間としての尊厳性の尊重と基本的人権の保障」というレベルの認識にまで高まっている証しと言えましょう。
 中央対策本部の「聴覚障害者を差別する法律改正」の目標は、基本的には、「完全撤廃」であり、この思いと願いが先述の全国的な取り組みの実績になっているのです。ただ、めざす法改正の中心が、医師法等の国民の生命・安全にかかわる法律の改正ですので、次善の方策として、「全面的な角度から客観的な検討の結果、欠格条項が必要な場合もあるかも知れないが、この場合は、客観的・合理的な根拠に基づき、必要やむを得ない場合」であって、たとえば「心身の重大な故障等により、その業務遂行が不可能であることが明らかな場合」とする形のものとすること。
 また、試験合格の力量を有しながら、なおかつ「職務遂行が不可能」な場合は考えられないため取得後の免許取り消し事由とはしても免許取得時の欠格事由とはするべきではなく、取り消し条項の内容も、航空法に定める航空士等の航空身体検査証明例のように、省令等により、視力・聴力等の程度について、具体的・客観的な基準を定め、ひいては、「その基準の可否につき検証ができるようにすべきである」というように考えています。その意味から、障害者施策推進本部決定の「障害者の欠格条項の見直しについて」については、「大きく踏み込んだ見直し方針」と評価しています。
 評価の第一点は、「対象者が厳密に規定」され、聴覚障害者を一律欠格事由とする非合理的な規定が改善されるとの期待です。「耳が聞こえない者・口がきけない者」を欠格事由とする規定は、聴覚障害者の個々の能力・学力等を一顧だにしない規定であり、「聴覚障害者=無能力者」との先入観に基づいたものであると指摘できますし、ここに、私たちが差別条項という根拠があるのです。
 第2の評価は、「絶対的欠格から相対的欠格への改正」です。「耳が聞こえない者・口がきけない者」に対する欠格条項は、その大部分が「絶対的欠格事由」であり、ここでも個々の聴力・言語力等が考慮されていませんので、相対的欠格に移行することによって、資格取得可能者が拡大される可能性が高いといえます。
 第3の評価は、「障害者を表す規定から障害者を特定しない規定への改正」です。これは、先述した次善の目標と一致するものであり、「障害を理由とした欠格条項」の完全撤廃に踏み込む内容をもっていると考えます。もともと、法律の冒頭で「耳が聞こえない者・口がきけない者」等と規定し、「法律間の整合性」を理由として、一線横並び的に障害者を表す規定としていることに問題の本質があると考えます。
 評価の第4点は、「補助者・福祉用具等の補助的な手段の活用、一定の条件付与等により、業務遂行が可能となる場合があることも考慮されるべき」ということです。私たちは、長年にわたる差別的な法律改正運動のなかで、「コミュニケーション」の壁の厚さを思い知らされてきました。手話通訳・FAX・Eメール・OHP・文字活用による携帯電話・補聴器使用による運転免許取得等は、聴覚障害者の情報・コミュニケーション・連絡、交通手段等を以前とは比較にならないほど発展させています。しかし、このように発展した社会現状が重要視されず、生命・衛生・安全等にかかわる職業資格取得者は「オールマイティ」であらねばならないとの頑迷な意識が法改正を阻んでいました。
 今、障害者の自立も「1人で立ちあがる」ものではなく、福祉用具・介助者・ボランティア・市民の理解などを資源として、「社会的な支援と理解に支えられての自立」が目標となっているのです。したがって、障害を補填する機器や介助者の存在が、「日常生活上の支援」に限定されるものではなく、専門的な知識の吸収や職業資格取得の挑戦にまでの拡大が当然と理解されなければならないし、それによって障害者の個人的な努力ではどうにもならない問題がサポートされ、より高い自立の道の選択が可能になるのです。今後、関係各省庁の検討が開始されるわけですが、国際的にも評価される内容として改正されることを期待しています。

(あんどうとよき 聴覚障害者を差別する法律の改正をめざす中央対策本部長・全日本ろうあ連盟理事長)