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てんかんを理由とする欠格条項の撤廃を

吉田勧

 中央障害者施策推進協議会は「欠格条項の見直しについて」において、障害を理由とする欠格条項の原則廃止を打ち出しました。このことは、日本てんかん協会においても、長年要望してきたことであり、大いに評価されるべきことです。
 しかし、中央障害者施策推進協議会は、同時に、障害を理由とする欠格条項を存続させる場合の検討方針をも併せて提示しています。これは、原則として打ち出された欠格条項廃止方針をあいまいにさせるものであり、大いに問題と言わざるを得ません。
 そもそも、欠格条項の存在は職業選択の自由の重大な制約であり、合理的な理由のない限り許されないことは改めて指摘するまでもないことです。しかし、一定の障害があったとしても、その身体能力や精神能力に対する影響は人それぞれです。にもかかわらず、一定の障害があることによって、当然に一定の身体能力あるいは精神能力がないとすることは、到底許されないことと言わなければなりません。障害を理由とする欠格条項は、その存在自体が違憲の疑いのあるものであり、当該免許や資格に必要な身体能力・精神能力の有無から具体的に定められるべきです。
 免許・資格にかかわる各種の欠格条項のうち、「てんかん」と明示されている欠格条項は、原則として廃止されるべきです。てんかんと言っても、その発作症状や発作間歇期の精神・神経症状は千差万別であり、これを一律に欠格とすることは違憲と言わざるを得ません。「てんかん」という診断名だけで、その人の身体能力・精神能力を判断することはできないのです。
 しかし、たとえば自動車運転中に意識を喪失するてんかん発作を起こした場合、運転者によるコントロールを失った自動車が暴走し、交通秩序を乱し、ひいては交通事故を惹起する危険のあることは言うまでもないことです。したがって、自動車運転中に、何の前兆もなく、突然に意識を喪失する発作を起こす人は自動車を運転するべきではない、というのも理解できないことではありません。しかし、その場合でも、具体的にそのような危険のある人だけが自動車を運転できないものとすべきであり、すべてのてんかん患者が自動車を運転できないとすることは、許されないことと言わなければなりません。
 したがって、仮にそのような具体的な理由があって「てんかん」を有する人の一部について欠格事由を定めるとする場合には、次のようにすべきです。
 第1に、その欠格条項は必ず相対的欠格条項とされるべきです。「てんかん」は症候群名であり、一口にてんかんと言っても、その具体的な症状は人それぞれだからです。これを一律に規定することは実際上、不可能と言わざるを得ません。
 第2に、そのような相対的欠格条項とは言え、てんかんに関連して欠格条項を存続させるとする場合には、てんかんを欠格条項としなければならない具体的理由を明示するとともに、そこで想定されているてんかんの具体的な症状がいかなるものであるのかを明らかにすべきです。これを明らかにできない以上、てんかんを理由とする欠格条項が真に必要なものとは言えないというべきです。
 また、欠格条項の中には「精神障害」や「精神病」を欠格事由として規定しているものが数多くあります。てんかんは伝統的に3大精神病に挙げられていたのであり、この規定をそのまま存続させるときは、てんかんがこれら欠格条項に該当するのか否か不明確とならざるを得ません。てんかんは、現在では神経疾患に分類されており、「精神障害」や「精神病」という欠格事由には該当しないことを原則として明示されるべきです。仮に、これらの欠格事由にてんかんが含まれるものとする場合には、誤解を避けるために「てんかん」と明記するとともに、てんかんを欠格事由としなければならない具体的理由、及びそこで想定されるてんかんの具体的症状を明示すべきことは、前述したとおりです。
 てんかんを理由とする欠格条項の見直しをするに当たっては、単に精神科の医師の意見を聞くだけではなく、てんかんを専門に診療・研究する医師の意見をも十分に聞くべきです。てんかん患者が精神科で受診していることも多いのは事実ですが、精神科の医師が常にてんかん専門医であるとは限らないからです。
 また、てんかんの患者が具体的にいかなる症状を有するかは、患者・家族、及びこれらによって組織されている日本てんかん協会が最もよく知っています。したがって、関係省庁においては、てんかん専門医のみならず、日本てんかん協会、及びてんかんの患者・家族をも含めた検討会を開催し、てんかんを理由とする欠格条項が真に必要であるか否かを検討すべきです。

(よしだすすむ 日本てんかん協会常務理事)