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1000字提言

「働くこと」

西嶋美那子

 「働くこと」は特別なことではなく、元気であれば働くのが当たり前だと多くの人が考えている。もちろん働くことができない場合もあり、その理由としては自分自身の問題もあれば、周囲の状況がそれを許さない場合もある。働き方の選択肢としては近年かなり広がってきているので、それぞれの状況に合わせて選択ができればこれに越したことはない。その状況というのが多様であるのはいうまでもないが、いずれにしても「働きたい」という気持ちをもち続けることが、実現への第一歩と感じている。
 障害のある人の就労に関しては、本人の意思とは別に「そんなに無理して働かなくてもよい」とする考え方もあるが、本当にそうなのだろうか。施設の中で福祉就労をしている人も、いったん外の職場に出て行くと、やはり違いを感じて元には戻りたくないと言う人が多い。経験して初めて分かる良さと悪さがある。それを側からの決めつけで選択肢を奪ってはいけないと感じている。時には職場に適応できない場合も出てくるが、間に入って人間関係を取り持つ人がいれば企業就労も難しくはない。要は「その気」にさせることができるかにかかっているのではないだろうか。本人の「働きたい」気持ちも大切だが、家族や施設の方々が「やらせてみよう」とサポートする気持ち、そして「働いてもらいましょう」という企業の「その気」も必要だ。そんな「気持ち」が相まって「働くこと」を可能にする。
 知的障害者の雇用が義務づけられるのに先立ち、労働省に働きかけをして「地域支援ネットワーク」の構築についての研究会を設けたのも、企業や福祉サイド、本人など、それぞれの「気持ち」を無駄にしたくなかったからだ。労働省主催ではあったが、行政としても厚生省、文部省の参画も得られ、幅広い議論がなされ、今後の就労支援の対策の基礎的な考えが打ち出された。企業就労をめざす人ばかりではないが、福祉就労も含めてもっと幅の広い選択肢が求められており、それぞれに合った働き方が認められるような社会の仕組みが必要だ。
 立場上、障害のある方の就労についての考えを求められているので堅い話になってしまったが、私自身の問題に振り返ってみれば、そろそろ時間に追われる生活から、ゆったりと時間の流れる生活に魅力を感じているのも否定できない。「働く」ということを、自分の問題としてどんな選択肢があるのか、ゆっくり考えてみる時がきたようでもある。

(にしじまみなこ 日経連労務法制部次長)