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中途失聴・難聴者の就労について

高岡正

 昨年末、日本障害者雇用促進協会が「中途障害者の継続雇用」を促進するビデオの制作事業を企画し、中途失聴者もその対象になっていることから、社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会にも多数お問い合わせをいただいた。中途失聴者の就労問題は、私が現役のサラリーマンであるだけに、他の同障害者同様とても切実な問題である。
 近年は、ストレスやウイルス性の疾病などで失聴する人も多いと聞く。しかし、仕事をしている最中に聞こえなくなった場合、本人も勤務先の同僚も家族ですらどう対応してよいか分からない。見た目には元気そうに見えても、電話もできない、会議にも参加できない、話しかけられたのも分からないで、本人がいたたまれなくなって退社する例がほとんどであると言われても仕方がない現状である。先のビデオのコンペでも、好事例として、失聴後も職場の理解を得て同じ職場に勤務している人を取り上げることになっていたが、まずこういう人はいない。先のビデオ制作会社も該当する人を見つけるのに苦労されたと推察する。
 わが国には、中途失明者に対するような体系的なリハビリテーション・プログラムが中途失聴者にはない。それだけ中途失聴者は、障害者就労対策の谷間にある。
 職場で一番問題になるのは電話である。難聴者用の電話があるだけでもかなり助かる。欧米で普及している電話リレーサービスが実現すれば、聴覚障害者の職域はかなり広がると思う。会議に手話が使えない中途失聴者は、要約筆記やワイヤレスマイク等の補聴援助システムが求められる。労働省の平成10年度の障害者雇用基本施策に、聴覚障害者の就労には手話通訳と要約筆記が必要と、初めて要約筆記について記述された。しかし、障害者雇用促進法による聴覚障害者への対応は手話派遣しかなく、要約筆記や指点字通訳者の派遣は受けられない。
 政府が欠格条項のある法律の見直しを進めているが、聴覚障害者は医師や看護婦、衛生検査技師、その他の職業の国家資格が試験すら受けられない。全日本ろうあ連盟を中心とする広範な関係団体が差別法令改正署名運動に取り組み、180万人もの署名を集めて政府に提出することになっている。資格を取るための試験が受けられるようになれば、次は職場にどういう環境整備が必要かが議論になる。要約筆記者の養成や電話リレーサービスの実現など課題は多い。

(たかおかただし 社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会理事長)