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体験
直接型メールが私たち
聴覚障害者のライフライン

大蔵智行

 近年、携帯電話やPHSなどの移動体通信機器に、メッセージやデータなどを送受信できる文字メールサービスに聴覚障害者の注目が集まるようになっている。新しい端末が出るたびに機能がアップしたり、何日か見ないだけで新しい情報サービスが始まっていたりと、予想以上のスピードで進化し続けている。しかし、自分たち聴覚障害に代わる部分を正しく捉えることでおのずと機種は絞られるので、健聴者が当たり前に利用する通話が、私たち聴覚障害者にもできることをここに紹介したい。
 これまで私たち聴覚障害者は、聴覚障害者の利用状況(表1)のように健聴者の「通話」をファクスで補う形であったため、相手が居るか居ないか確認できず、また外出などで公衆電話のようにファクスが使えず携帯性も容易でなかったこともあり、各キャリア(電話通信サービス提供会社)で始めた文字メールサービスに注目するようになったのはいうまでもない。各キャリア間で文字メールを送受信できない文字互換性問題もあったが、最近はEメールに対応しているのが現状である。しかし、文字互換性が解決されたとはいえ、健聴者と同じ立場の生活を得ることはできないことは確かだった。送受信方法比較(表2)に整理したように、相手と直接やりとりできることが健聴者と同じ生活を求めることであり、健聴者が災害や緊急時に当たり前に使う通信手段が音声通話であり、それによって相手の安否などを確認したり連絡が取れることを、私たち聴覚障害者もできるものが直接型メールであり、今のところDDIポケットのPメールDXという文字メールサービスの他にはない。

表1 健聴者と聴覚障害者の利用状況

  通話 FAX ポケベル E-mail
健聴者
聴覚障害者 ×


表2 送受信方法比較

  通話 FAX ポケベル E-mail D社 J社 DDI
ポケット
センター経由型
直接型

*FAXの相手は有無を確認できない

 「命にかかわるほど大切なことなのです」と、直接型メールを補聴器以上に大切に使う聴覚障害者は決して少なくない。こんな実例もある。聴覚障害者の妊婦が出産で陣痛が始まり、母(健聴)にメールを送ってきてもらおうとしたが通じない。実は母の端末がバッテリー切れであったため通信不能だった。彼女は即座に通じないことがわかったので、次の手段で友人に助けを求め直接型メールで送り、リアルタイムにメール受信した友人は彼女の所へ直行し、4時間後に赤ちゃんが無事産まれた。これがセンター経由だったら、相手が受信できたか確認する術がなく、またあてもなく待ち続けて、さもなくば母子共に危険な状態になるかもしれないほど命にかかわることをセンター経由では困ることが健聴者の通話と同じ立場で助かった例である。
 こうした背景によって得た聴覚障害者の生活向上が直接型メールであり、プラスヴォイス(*1)に集まった仲間約2500人(1999年12月現在)で親睦組織を1999年3月に結成し、各キャリアやメーカーに聴覚障害者にも確実に使えるようバリアフリーを求めた提案・要望の他に、全国レベルでの情報交換やネットワーク作り、プラスヴォイスを支援してみんなのための移動体通信を考えている。

 最後に、直接型メールとはいえ、片方向性であるため音声通話のように利用できない面もある。TV電話のように双方向性をもつ文字通信環境を早期実現させるために、私たちはこの直接型メールを大切にして訴えていきたい。そして、アメリカでは今やほとんどすべての公衆電話がTTY/TDD(Telecommunications Device for the Deaf/Teletypewriter)システムに対応可能だということを日本でもぜひ実現させたいと思っている。TTY/TDDのシステムは、今まで聴覚障害者が至難の通信手段だった寿司などの出前や注文をだれでも簡単にできるようになる。そのためにも、自分たち聴覚障害者が自由に、世の中のだれとでもコミュニケーションできるようなシステムをプラスヴォイスと共に作り上げていきたいと強く願っている。

(おおくらともゆき プラスヴォイス倶楽部代表)


*1(有)プラスヴォイス
 〒983-0833
 仙台市宮城野区東仙台3-13-61
 TEL 022-292-2516
 FAX 022-292-2517
 E-メール miura@plusvoice.co.jp
 代表 三浦宏之