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障害のある子どもたちはいま vol.17

障害児と家族(3)
-地域ボランティアとの協働-

比嘉貞子

「エンゼルの会」のめざすもの

 「障害」という言葉を忘れ、自ら楽しいことを見つけ、作り、演出し、それぞれの思いで精一杯に時を過ごそう、そのために、子どもにしてあげられることは、何だろう。
 子どもの障害を告げられてから、現在までもその親の思いは変わりません。
 私たちの会は、発足してから20余年、今年度「エンゼルの会」に改名し、東京都板橋区を中心とした養護学校在学中(6歳から18歳まで)の子どもたちと親の会で、現在の会員は子ども8人です。
 日頃、社会から閉ざされがちな障害のある子どもたちに外の社会や地域へ飛び出し、いろいろなことを体験し、幸せのひとときをたくさん見つけようとの思いで、結成されたエンゼルの会は、何より地域とのつながりを大事に考えています。
 会の目的は、次のとおりです。
●年間の活動を通して、地域行事などに積極的に参加し、地域社会との交流を深め、子どもの社会性を養う。
●四季折々の季節感溢れる行事を取り入れ、心身共に豊かな子どもに育てる。
●活動を通し、ボランティアや地域の人々など、親以外の人たちとのかかわりをもち、社交性、協調性を養う。
●学校の週5日制の実施にともない、休日を有意義に過ごすことができるよう企画、運営する。
●訓練士を招き、訓練指導を受けながら、さまざまなコミュニケーションを行い、親自身の相談の時間を設ける。

活動内容

 会は月2回、土曜日または日曜日に主に地域の公共施設を利用して、活動しています。
 年度始めに、年間計画をもとに活動運営の仕方、場所の検討などを話し合います。
 主な活動は、4月の区主催「たこあげ大会」への参加、5月「ふれあい祭り」への参加、6月「ハイキング」、7月「夏期合宿」、9月「障害者スポーツ大会」への参加、10月「区民まつり」への参加、12月「クリスマス会」、1月「もちつき」、2月「節分豆まき」、3月「ひなまつり」「進級・卒業を祝う会」などです。
 これをみてもお分かりのように、地域主催の行事に積極的に参加するようにしています。その他、親同士が交流を図りながら情報交換やそれぞれの悩みを話し合い、親にとっても心のリフレッシュを図る場も設けています。
 会の運営資金は、区からの補助金と会員の手づくり作品による、区主催のお祭りや他の団体のバザーヘの出店による収益を当てています。

ボランティアとの協働の重要性

 会の活動をすすめるにあたって、ボランティアはなくてはならない存在です。会でも、20年来のベテランのリーダーを中心に、地域の私立短大の学生さんや近所の方々に協力をお願いしています。
 学生のボランティアについては、あらかじめ大学へ出向き、大学のボランティア情報コーディネーターの面接を受け、学生の紹介をお願いしています。短大なので、在学期間は短いのですが、最低1年以上は続けてもらいたいと思っています。そのため、会でもオリエンテーションを開き、会の目的を理解してもらうとともに、子どもとの信頼関係を築き、子どもの気持ちに入っていけるようになってもらいたいと考えています。
 ボランティアについては、会の活動に参加してもらうだけではない、会としてのもう一つの重要性を感じています。
 障害のある子どもの生活は閉ざされがちであることは先にも書きましたが、特に親と子どもの関係は密になりがちです。もしも、親が病気になったり、用事ができて代わりの人が対応する時に、「親以外はダメ」では困ります。そのために、日頃から親以外の人との接触の機会をつくり、信頼関係をつくっていくことが重要になってきます。そこで、日頃の活動をボランティアの方々と協働していく中で、親のほうも少しずつ「子離れ」に慣れていければと思っています。
 私たち親とボランティアとの関係は、ここからここまでと線引きをするのではなく、日常的な「遊び」というこころが開放される場を利用して、お互いに確認しあいながら、子どもの気持ちを開いていけることが大切です。そして、子どものほうも「親以外の人でも大丈夫だよ」という気持ちがもてるような機会をつくっていきたいと思います。そうすれば、「親離れ」も徐々にすすんでいくのではないかと考えています。

夏期合宿

 さて、活動の中で、会の一大イベントである「夏期合宿」を紹介します。昨年の7月27、28日の1泊2日で、参加者は34人(会員外も含む)でした。4月の活動開始の時期と同時に目的地、内容、参加者数、役割分担などを最初は親のみで話し合い、その後にボランティアをしてくれる学生さんと話し合いました。
 「身も心もフレッシュに、笑い一杯、ハンディを忘れ、思う存分楽しもう。初めての出会い、新しい出来事に喜びを感じ、温かい心の触れ合いに幸せを!」を合言葉に、行先は日光方面に決定しました。
 宿探し、観光バスの交渉や手配は主に親側で行い、合宿期間中の過ごし方については、ボランティアの方々にも考えてもらいました。移動の時の協働に始まり、バスの中でのレクリエーション、お風呂介助まで合宿がより楽しく過ごせるよう創意工夫された活動が用意されました。
 宿泊は「和楽荘」。鬼怒川の清流に面した景勝の地にあり、閑静にして、川面に映える山々の景観がとても素晴らしいところでした。
 バスの中では、参加者全員の自己紹介に始まり、楽しいゲーム、歌、手遊びなど、子どもの状態に合わせた内容で、しばし時間を忘れる程の楽しさでした。高速道路のサービスエリアには、重度の障害者が利用できる設備がなく、一部我慢をする場面もありました。
 宿に着くと、子どもたちは少々緊張気味。部屋に荷物を運び入れ、ゆったりと体を休ませているうちに、落ち着きを取り戻してきました。
 夕食前にお風呂タイム。合宿ではボランティアの方々に風呂に入れてもらいました。これも子どもたちにとっては、一つの試練となります。
 夕食は、子どもたちの食形態を考慮して、おかゆも準備していただきました。
 夕食の後は、事前にボランティアの方に購入していただいた夏の風物詩、花火を楽しみました。鮮やかな火花を散らし、パチパチと小さい音、空が割れんばかりの爆音。手に花火を持たせてもらい、全身で楽しむ子、恐がって玄関から出て来られず、耳を塞いでただ眺めているだけの子。みんなでキャッキャッと騒ぎながら、真夏の夜のひとときを楽しく過ごしました。
 花火の後は、部屋でビンゴゲーム。包みの中の景品が何といっても一番の楽しみで、子どもも大人も真剣そのもの、一喜一憂しながらの興奮の時間となりました。
 2日目は、いよいよ「日光猿軍団」の見学です。会場には4段程の階段があり、10台の車いすを持ち上げるのに、係りの方が待機してくれていました。周囲の方にも手伝っていただき、人の温かな善意にも触れた瞬間でした。愉快な猿の芸にすっかり引き込まれ、あっという間の45分間でした。みんな興奮覚めやらぬまま、グッズを買い込み、帰路につきました。

おわりに

 全介助を必要とする子どもの活動には、多くの支援が必要となり、必然的にボランティアとの協働となります。今後もボランティアの協力を得ながら住み慣れた地域で、障害者に対する理解を深めていくことと社会啓発を担いながら、障害者にとって住みよい社会を願って活動を継続していきたいと思っています。

(ひがさだこ エンゼルの会)

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2000年2月号(第20巻 通巻223号)