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自己決定の尊重を図る新たな権利擁護の動き
-権利擁護センターすてっぷから-

青山登志夫

1 新たな施策・制度

 自分の身のまわりのことや財産・金銭管理など、自分の意思で決定したり、実行することが困難な知的障害者、痴呆性高齢者、精神障害者への権利擁護に関する施策・制度が整備されつつあります。
 その一つは、平成11年10月から全国一斉に事業を開始している「地域福祉権利擁護事業」で、都道府県社会福祉協議会が実施主体となり基幹型市区町村社会福祉協議会等及び協力市区町村社会福祉協議会と協働して取り組んでいます。福祉サービスの利用援助を基本に、日常的金銭管理サービス及び書類等の預かりサービスを社協との契約に基づきサービス提供を行う事業です。
 また、「民法等の一部改正」による新たな成年後見制度で、判断能力が十分でない人々の財産管理と身上監護を、現行の禁治産・準禁治産の制度を改め、後見・保佐・補助の三類型とし、それぞれの後見人を家庭裁判所が選任する法定後見制度と、新たに任意後見制度の導入を骨子とする成年後見制度が平成12年4月から開始されます。
 これらは判断能力が十分でない痴呆性高齢者、知的障害者、精神障害者が安心して地域生活を送れるように支援するものであり、自己決定の尊重と残された能力の活用などを基本的な視点に据えた制度です。

2 地域福祉権利擁護事業の概要

 東京都社会福祉協議会の権利擁護センターすてっぷは、平成3年10月からこうした人々の財産侵害の予防と救済及び日常生活などに関し、法律と福祉の両面から専門的な助言を行う相談機関として事業展開をしています。そして、東京においては、すてっぷのこれまでの専門相談ノウハウを活かし、地域福祉権利擁護事業との一体的な運営を行っています。
 この事業の対象者は、在宅で生活している判断能力が十分でない知的障害者、痴呆性高齢者、精神障害者であり、契約によるサービス提供であること、利用したサービスの種類、頻度、利用料の額などの内容を説明して合意できる人との契約となり、サービスの提供が行われます。しかし、基幹社協において契約する内容について本人の意思確認ができない場合には、東京都社協が設置する契約締結審査会での審査となり、より専門的な見地から調査を行い、契約可能かどうかの結論を出します。そして、契約可能との審査結果がでれば、この事業の利用契約を締結し、サービスの提供が始まります。
 しかし、本人が契約内容を理解できないと審査結果がでた場合は契約できないことになり、契約締結審査会のアドバイスとして、成年後見制度への申立てなど他の社会資源の活用などを付して基幹社協に連絡することになります。

3 地域福祉権利擁護事業と成年後見制度

 判断能力が十分でない人々の権利を擁護する地域福祉権利擁護事業と成年後見制度が、どのような関係となるのか、具体的事例を想定して考えてみましょう。

〔在宅介護支援センターから相談〕
 身寄りがないひとり暮らしの高齢者で記憶力が衰えはじめ痴呆症状も見られ、日常生活、財産管理に不安がある。賃貸中の不動産や多額の定期預金がある。だれかの援助がないと在宅生活の継続、日常の金銭管理と財産管理は無理なケース。


 このようなケースの場合は二通りの方法が想定できます。一つは、地域福祉権利擁護事業における契約締結判定ガイドラインで契約内容が判断できると審査結果がでれば契約締結となります。もう一つは、地域福祉権利擁護事業との契約ができない場合は成年後見制度の利用が想定されます。この場合では、身寄りのないひとり暮らしの痴呆性高齢者で、申立人はだれになるのかが問題になりますが、本人や四親等内の親族などによる申立てができない場合、制度は市町村長に法定後見の開始の審判の申立権を与えています。これを活用し、本人にふさわしい後見人の選任が行われ、後見人が財産管理と身上監護を行うことになります。しかし、この4月から市町村長の申立てへの取り組みについては状況把握ができていません。
 なお、成年後見人・保佐人・補助人がすでに選任されている場合の地域福祉権利擁護事業の契約はだれと行うのかとなると、成年後見人は本人の財産に関するすべての法律行為に代理権があることから、成年後見人と契約を締結できると考えられます。一方、保佐人・補助人が有する代理権は、本人が同意し、申立ての範囲内で家庭裁判所が定めた「特定の法律行為」についてであり、原則的には本人との契約となると考えられます。

4 今後に向けて

 現在、判断能力が十分でない人々の権利擁護及び日常的な生活支援などに、家族、地域住民、関係機関等がそれぞれの立場から取り組んでいます。しかしながら、新しい施策・制度が整備されたとはいえ、個々の権限の制限や社会資源の不足のため、問題解決に至っていない場合が少なくありません。情報交換や連絡・協議を通して相互に密接な連携を図りながら、各々の機能に応じた役割分担に基づく援助を行い、全体として本人に対して総合的なサービスを提供していく地域社会を基盤とした社会的権利擁護システムの構築が強く望まれています。

(あおやまとしお 権利擁護センターすてっぷ副所長)