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大阪後見支援センターの活動を通じて
1 はじめに

野村龍太郎

 知的障害や精神障害そして痴呆症状などによって判断能力に低下のある人に対する権利擁護機関として当センターが、開設後2年間で受けた電話相談2368件の内容は、財産管理や金融・消費契約トラブルの対応、病状に対する不安、家族等の人間関係の悩み、今後の生活設計等多岐にわたっています。精神障害者本人や知的障害者の家族からの相談もさることながら、関係機関職員からの問題解決への法的アドバイスを求める相談も多く、全体の約3割を占めています。また地域の関係機関と連携して財産の保全や管理といった活動を「経済生活支援サービス」として、開設以来独自に実施してきましたが、これが国の制度である「地域福祉権利擁護事業」として現在、衣替えをして活動しています。

2 大阪の地域福祉権利擁護事業

 大阪では、単独制度の時代から市町村を単位としたサービス提供機関の配置に努めてきた経過があり、そのため現在でもこの方法を継続しています。平成11年度は、大阪府内10の市で実施されていますが、今年の4月以降はかなりの市町村で事業が展開される予定であり、きめ細かさという点で優れていると思います。平成12年2月末現在、単独制度からの累積で契約件数は100件。高齢者がほとんどですが、精神障害者11人、知的障害者10人が契約をしています。

3 地域福祉権利擁護事業からみて

 これら21人は、一部グループホーム入居者を除いて、全員が単身か障害者同士の夫婦、親子とも障害者などの世帯です。経済的には資産も無く、年金か生活保護での生活がほとんどです。夫の死亡によってアパートに1人残されてしまった知的障害のある妻、母親が要介護となり老人ホームに入所したために親の家に1人残った精神障害者、母子ともども知的障害のある世帯等がみられます。中には、全く親族のいない人もいます。これらの人は、ある日突然地域に放り出されたといっても過言ではありません。もともと家族のだれかに頼って生活してきたので、少ない収入をやり繰りして生活するというようなことは不得手で、月末はパンばかりかじるか、つけ払いを重ねるか、サラ金に手を出すなどの例がみられます。みかねた施設職員や民生委員が金銭管理をしていたことも多くあります。
 こうした中で、契約を結べるだけの判断能力が残されていない場合や、重要な法律行為を代わって行う場合には、成年後見制度にゆだねざるを得ません。事実、過去に少数ながら判断能力が残されていないとして、契約を締結できなかった場合があります。
 また、知的障害のある人がたびたびキャッチセールスの被害にあい、その結果、多額の借金を背負ってしまったという相談が寄せられることもあります。今の制度では、過去の問題の対処はできても、今後の予防的措置がとれません。往々にして、被害にあう人は、中軽度の障害者で、これも新しい補助・保佐類型に期待したいところです。

4 おわりに

 成年後見制度を効果あるものにするためには、地域住民や関係機関との連携によるニーズの発見と制度への橋渡しが重要です。当センターには、運営協議会という当事者団体の意見を反映する会議をもっており、業務への助言をいただくとともに、各団体の力を借りてPRもお願いしています。こうしたチャンネルからの相談も増えてきました。
 一般市民は、細かな法律等を意識せずに日々の生活を送っています。また、福祉と司法の接点が今までほとんどなく、そのため福祉関係者も成年後見制度の理解は不十分です。そうした実情を考える時、都道府県の権利擁護センターの役割は非常に重要です。住民や地域の福祉関係団体が判断能力の不十分な高齢者や障害者の生活困難を発見した時、地域の諸機関と協力して成年後見制度の活用も視野に入れた助言をしなければなりません。その受け皿となるのが都道府県権利擁護センターではないかと考えます。
 当センターは、権利擁護相談を受けており、司法との協力(注)も大阪弁護士会を通じて深まっています。また地域の福祉関係者との日常的業務を通じた機関同志の信頼関係の確立も欠かせません。連携がないところほど「連携! 連携」と言うのが世の常と思いますが、3割にのぼる関係機関からの相談がもっと増えることが、その連携の一つのバロメーターと考えています。
 最後に、高齢者や障害者の地域支援体制の希薄な現状を考える時、新しい成年後見制度の自己決定尊重の理念を支えきれないのではないかという危惧を感じています。後見人に社会が事実行為としての介護まで押しつけ、その結果、後見人が青息吐息となるような事態とならないよう、厚みのある地域福祉支援体制を築いていかねばなません。

(のむらりょうたろう 大阪後見支援センター“あいあいねっと”所長代理)


〈注〉大阪弁護士会は高齢者・障害者総支援センター「ひまわり」を平成10年5月に開設しました。権利擁護相談と財産管理等を総合的に提供しています。