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列島縦断ネットワーキング

「全国地域生活支援ネットワーク」の展開

根来正博

 昨年6月20日、霞ヶ関の全国社会福祉協議会の灘尾ホールにおいて、「全国地域生活支援ネットワーク」(以下、ネットワークという)の設立総会が行われました。会場には全国から500人以上の人々が集まり、熱気の中で設立記念の式典を行いました。
 最初に記念講演が行われ、昔、フォーククルセダースというバンドで活躍し、「あのすばらしい愛をもう一度」「戦争を知らない子どもたち」などの名曲を作詞した北山修さんにお話をいただきました。北山さんは現在は精神科医として九州大学で教鞭をとられています。
 講演の内容は、「ケアする心の形」と題して、夕鶴のおつうの話を引き合いに出して、身を粉にして働くことなく自分自身の心の健康に努めてほしいとして、福祉現場に従事する職員だけでなく障害のある人を支える家族にも示唆を与えるお話でした。
 次いで行われたシンポジウムでは、シンポジストに「全国宅老所連絡協議会事務局長」の池田昌弘さん、「ネットワーク」の代表として「藤沢育成会」の筆者、「しがらき福祉会」の北岡賢剛さん、ネットワーク副代表で「サポートセンターぴっころ」の安井愛美さんが登壇し、聞き手として厚生省大臣官房審議官の辻哲夫さんを迎え、ネットワークのめざすものについて語り合いました。
 ネットワークは、一人ひとりが自分の意志に基づいて、望む場所で、望む生活を送ることができるようなサービスの提供をそれぞれの地域で実現していくために、情報交換を行う仕組みを整えることが設立の大きな動機でした。そのためシンポジウムでは、各地のネットワークがそれぞれに形成されれば全国のネットワークは発展的に解消されることをめざしつつ展開していくことや、会の名称に障害や年齢の区分をあえて設けなかったこと等が話として交わされました。
 設立の際の趣意書には、ネットワークの行う事業として、1.情報の収集と提供、2.相談、3.研修、4.研究、5.社会的な提言、6.情報誌の発行、を掲げました。
 会の構成は地域生活を支えるサービス提供の促進を願う個人の集まりとしています。

ネットワーク設立の経緯

 ネットワーク設立に至るまでの経緯としては、次の二つの流れがあります。
 一つは昨今、知的障害のある人の地域支援として注目を浴びている事業にレスパイト事業というものがあります。レスパイトサービスとは、共に暮らす家族に何らかの事情があった時に本人の生活基盤が大きく左右されないように、いつでも即座に支援する体制を具体的なサービスとして届けようというものです。安心とゆとりを家庭にもたらすために、理由を厳しく問わずに即応性をもって対応することと、本人の日常生活を大きく損なわないようなかかわりを信条とするものです。この事業は北米(カナダ、アメリカ)を中心に1980年代から急速に広まったサービスです。
 国内でこのサービスに着目するきっかけとなったのは、レスパイトサービスについて厚生省の心身障害研究と、全国社会福祉協議会の中に置かれた心身協によって研究チームが組まれたことにあります。そのメンバーによってレスパイトの考え方を広めるために「ファミリーサポートネットワーク」という組織がつくられ、「R-ネット」という機関誌が作られました。4年の間に6号という遅々とした歩みでしたが、着実にこの事業に関心のある人の輪を広げてきました。
 もう一つの流れは、全くの自主グループとして地域福祉を考える勉強会がつくられたことによります。名称は「平成桃太郎の会」(「へいもも」)です。思いとしては、地域福祉の阻害要因となる鬼を退治し、地域福祉推進の流れを育もうというものでした。ユニークな名前ですが、まじめな思いを胸に秘めた若手の職員たちによる集まりでした。
 「へいもも」設立の折には、当時の厚生省の障害福祉課課長の私的な懇談会として開催されていた人権懇談会のメンバーが核になっていたため、歴代の障害福祉課長である浅野史郎さん、吉武民樹さん、田中耕太郎さんにもご支援をいただきました。浅野さん、田中さんには発足の設立会への参加もいただきました。その折に浅野さんから、会の趣旨について「鬼退治という不毛な方向に向かわず、全国の桃太郎を探しに行ってはどうか」という示唆をいただき、そのことを目的として、東京、秋田、北海道、山口と平成桃太郎の会を開催し、多くの仲間の参加をいただき展開してきました。
 その後、この平成桃太郎の会は名称と形式を変え、毎年滋賀で行われている「アメニティフォーラム」としてリニューアルしました。
 「アメニティフォーラム」は毎年2月頃、滋賀県の大津市で地域福祉の推進を願う人たちが集う、今年で3回目の開催となるものです。内容は地域福祉に関しての国の動向と併せて全国各地で展開している小さな事業所の取り組みを紹介するものになっています。毎回500人から700人もの参加者で盛況に執り行われています。
 ネットワークは、この二つの取り組みの経緯の中から生まれました。
 昨年の12月18日と19日の両日には、ネットワークの最初の事業としてセミナーを行いました。セミナーは神奈川県藤沢市の湘南工科大学の協力を得て、シンポジウムと講演の形式で開催されました。
 記念講演は「自己決定と地域で生活を支える仕組み」と題して財団法人全国精神障害者家族会連合会常務理事兼顧問弁護士の池原毅和氏に「自己決定権とは何か」ということを中心に、自己決定できない人はいないという前提で、できないと思われる人たちの意思の確認の方法の確立を探る努力をすべきだというお話をいただきました。
 シンポジウムは初日の午前と2日目の午後の2回に分けて行いました。初日は、「選びたい、選ばれたい、役に立ちたい地域支援サービス」として、事業所と利用者、行政の立場から三者の方にお話をいただきました。
 2日目は、「どこまで行けてる地域生活支援」と題して北海道、京都、神戸で実践をしている方に千葉の障害のある方のお母さんが加わり、得意なかかわりの分野と不得意な分野をお話しいただき、利用者の立場からの望ましいサービス等もお話いただくという形式で進行しました。
 今後のネットワークの活動予定は、冊子の発行(全国130か所の事業所紹介を掲載)、セミナー付き総会(6月18日の予定)、ニュースレター発行(年4回の発行予定)、機関誌の発行(2000年度の取り組み)、インターネットによる情報提供(準備中)などです。
 これからはケアマネジメント、地域生活支援センターの展開につなげる地域療育等支援事業の模索、具体的なサービス展開をめぎすホームヘルパーのあり方について取り上げていきたいと思います。関心のある方はご連絡ください。

(ねごろまさひろ 藤沢育成会)


問い合わせ
 全国地域生活支援ネットワーク事務局 藤沢育成会 サービスセンターぱる内
TEL 0466-28-0909
FAX 0466-28-0959