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ワールドナウ

「アジア太平洋障害者の十年」
行動課題の目標改訂

高嶺豊

 去る11月22日から24日までバンコクにおいて、「アジア太平洋障害者の十年の目標達成とESCAP地域における機会均等に関する地域会議」が開催されました。この会議は1990年代を締めくくるアジア太平洋地域の重要な障害者に関する会議となりました。
 この会議をはさんで、21世紀に向けた障害児の教育に関する会議とアジア太平洋組織間委員会障害小委員会の第18回会議が開かれました。11月15日から25日までの長丁場でした。
 さて、十年の目標に関する会議の目的は、政府の障害者施策の担当上級役人、NGO、障害者団体の代表、及び国連の代表による、十年の行動計画を推進するための目標の達成状況を検証することでした。ESCAP地域の20の加盟、準加盟政府、四つの国連機関、25の障害者関係のNGOが参加しました。日本政府からは、総理府の障害者施策推進本部担当室そして厚生省の障害保健福祉部の代表が参加しました。
 あいにく、12月早々にキャンペーン会議‘99がクアラルンプールで開かれたため、日本のNGOの参加が少なかったのが残念です。会議の状況、結果、新たに改定された目標を中心に紹介しましょう。
 皆さんもご存知のように、アジア太平洋障害者の十年行動課題を推進するための73の目標が、1995年に開かれた地域評価会議で採択されました。あれからすでに4年以上の歳月が過ぎました。その間、アジア太平洋地域では、経済社会面でさまざまな変化がありました。1997年のタイ貨幣バーツの下落に端を発したアジア経済危機はその良い例でしょう。この経済危機の教訓から、経済のグローバライゼーション(世界化)への懸念が表明され、この問題を視野に入れた経済回復への取り組みが始まりました。またこの経済危機は、95年の世界社会開発サミットで貧困の撲滅への取り組みが世界の政府によって表明された束の間の出来事で、この間、社会開発への取り組みの一歩後退が余儀なくされました。
 しかし、経済危機の最中、危機で一番影響を受ける貧困者層や、社会で不利益を被る階層に対する施策の必要性が明らかになり、貧困の撲滅を目標にした社会開発施策を推進する動きが高まってきた時期でもあります。
 このような4年余の間に、世界やアジア太平洋地域の障害者問題でもさまざまな変化が見られました。インターネットの爆発的な普及とともに、情報の世界化が進み、情報が電子化され、障害者の情報へのアクセスが容易になりつつあります。しかし、それと同時に、電子化された情報ヘアクセスできる障害者とできない障害者の格差が広がることが懸念されます。
 また、社会の動きが急激になり、社会開発問題でも、政府だけの対応では不十分な面が多くなり、非政府団体、民間企業、当事者団体などのcivil societyと協力した取り組みが始まりました。
 さらに、障害者問題も他の少数者問題と同様、これまでの社会福祉的な取り組みから、貧困の撲滅を中心とした開発問題の一貫として取り組まれ始めています。このような中で、障害者問題は人権問題の一領域として認識されつつあります。

新たに改定された目標

 さて、11月の目標の達成評価会議では、過去4年間の特にアジア太平洋地域の変化を考慮し、12の領域で課題が討議されました。この討議された課題が今回の目標の見直しと強化の理念となりました。
 特に教育に関しては、11月15日から19日までに開かれた「21世紀へ向けた障害をもつ少年や児童の教育に関する地域会議」で、理念や実践が大きく変わったとの認識があり、その中で、教育に関する目標の大幅な改定が行われました。教育に関しては、これまでの特殊教育からインクルーシブ教育(包括的教育)への移行がうたわれています。
 目標達成評価会議では、まず政府やNGO、国連機関から、目標の達成に関する報告がありました。その後、参加者は小グループに分かれて、12の領域の目標の見直しに入りました。グループでは、一つひとつの目標を検討し、それがすでに達成されているものであれば、あるいは、時宜をすでに失していれば、削除することにしました。また、目標を達成するためには、残り3年間しかないこともあり、すべての目標の達成目標年を最終年の2002年とすることで意見が一致しました。
 さて、新たに改定された目標の具体的な紹介は、それが日本語に翻訳されるのを待たなければなりませんが、ここでは、12の領域の中で、改定の骨子となる項目を紹介したいと思います。この解説は、筆者の個人的な見解であり、ESCAPの正式な見解ではないことを前もってお断りしておきます。

国内調整

 これまで、多くの政府で国内調整機関が設立されていますが、その調整機能がまだ地方レベルまで及んでいないことと、そして、その機関の永続性、特に2002年を超えた継続的な調整機能の維持が必要であることが話し合われました。三つの目標が強化され、新たに五つの目標が設定されました。新たに設定された目標には、教育、雇用、スポーツ、芸術文化活動における、障害者の能力や成功例など、ポジティブな面を強調する広報活動の強化、また、障害者の完全参加と平等に関する達成度を計るための正確なデータの収集と配布を司る機関の設置を提案しています。

法律

 障害者の平等な社会参加を保障する基本法の制定に関しては、いくらかの成果が上がっているものの、結婚、相続に関する実質的法律や、手続きに関する法律の見直しに関しては、まだほとんど手つかずであるとの合意がありました。ここでは、旧目標2・1が削除され、新たに四つの目標が追加されました。その中に著作権に関する目標が加わったので、以下に紹介しましょう。
 「目標2・11 著作権に関する法律を修正し、教育、情報、レクリエーション資料への障害者のアクセスする権利、さらに、これらすべての資料の転写、移動、翻訳、及び再生する障害者の権利を保護する条項を設定すること」(訳責筆者)

情報

 障害者に関する統計の不十分さが障害者施策の設定の際に問題となっているとの認識があり、国の統計局の障害者に関する統計収集能力の強化、及び域内の障害者統計の比較を可能にするために共通な障害の定義の採用が、目標として加えられました。さらに、改定された目標を各国語へ翻訳し、国内でこれらの目標を浸透させることが加わりました。

広報

 障害者に対する否定的な態度がいまだ障害者の完全参加を拒んでいる要因であります。ですから、障害者が地域開発に平等に参加する権利をもっていることをすべての広報活動で強調する必要性があります。そのためには、障害者のスポーツ、芸術、芸能活動を促進することによって障害者の能力及び意欲をアピールすること、そして、政府公務員の訓練、研修プログラムの中に、障害者問題が開発問題であるという意識を高めるためのカリキュラムを加えることが新たな目標として加わりました。

アクセスとコミュニケーション

 アクセス分野では、アクセスに関する情報の交換や技能開発を促進するための域内ネットワークの構築と強化。また、働く場のレイアウトや障害者に使いやすくするための機械の改善などに関する研究開発の促進が新たに目標として加わりました。
 その他の分野では、訓練と雇用の領域が大幅な改定になりました。経済のグローバライゼーションや自動化、情報技術の発達、そして新しい福祉機器の開発により、障害者の雇用機会が向上しました。しかし、同時に、そのような発展の恩恵に属しない障害者にとっては、逆に格差が広がっています。また、これまで、公的部門が大勢の障害者に雇用を提供していましたが、今、公的部門が縮小され、民間への機能移譲が始まっています。障害者の雇用を確保するためには、今後、民間での雇用率を高めるか自営業の道を開拓することが急務になります。目標の改定は、このようなアジア太平洋地域の経済社会状況を考慮に入れて行われました。既存の目標が強化されたと同時に、新たに六つの目標が設定されました。

結語

 目標の達成評価会議において、障害者の十年の目標達成に、後3年しか残されていないことに、参加者の多くは、危機感を漂わせていました。果たして2002年までに、どれだけの目標が達成できるのか、との疑問が頭の隅にあったことでしょう。この会議後に開かれた組織間委員会の第18回会議においても、目標に関しての議論がありました。結論は、この改定された目標は、アジア太平洋障害者の十年終了後も、この地域の障害者施策の目標として継続してその達成を目指していくということでした。しかし、それは、今の目標達成の努力を弱めていくことではありません。逆に、残りの歳月を目標達成に全力を尽くすと同時に、十年終了後を見据えた長期的な展望をもつことなのです。
 改定されたアジア太平洋障害者の十年の目標が日本語に翻訳され、読者の皆さんの手許に1日でも早く届くことを願っています。

(たかみねゆたか ESCAP社会開発部障害者プロジェクト専門官)