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介護保険とろうあ者利用の問題

財団法人全日本ろうあ連盟・福祉基本政策プロジェクトチーム

介護保険とコミュニケーション

 他の障害を併せもつ重複障害のろうあ者の場合はまた事情が異なってくるが、一般のろうあ者にとっては、高齢者介護サービスは、あくまで高齢者に対するそれとなる。障害者施策との共通面はほとんどなく、二重適用・相互補完の問題となる-、いや、それだけでは解決にならず、障害者福祉施策の考え方を介護保険のなかに全面的に取り入れ、両者を統一させた新しいシステムが必要となる。
 65歳以上の高齢者とは、介護保険制度が発足する今年度はもちろん、ここ当分の間は昭和1ケタ以前に生まれた人が中心である。ろう学校中学部の義務化が昭和28年のことだから、受けた教育が不十分で音声語を獲得できなかったろうあ者も多いし、全く教育を受けられなかった人もいる。コミュニケーションの中心は昔の手話、それも個人個人で表現方法が微妙に異なる手話が中心である。
 教育を受けられず、手話に触れる環境にも恵まれなかった結果、音声語も手話もどちらも獲得できなかった人もいる。その人特有の方法によるほかは、声はもちろん文字でも一般の手話でも意思疎通ができない。第三者からの意思や情報を理解できず、自己の意思を相手に伝える方法ももっていないのである。身体動作に不自由がなくても単独で社会生活を営むことができず、特別な「介護」が必要となる。
 ろうあ者にとっての介護保険の問題は、高齢ろうあ者が制度を利用するにあたって、一般の高齢者の場合と同じように自由なコミュニケーションが保障されるかということと、高度のコミュニケーション障害の結果としてのいわゆる社会的障害をもつ人たちの問題をどう考えるかということが中心となる。

最初の問題

 この問題は、申請主義を基本とする介護保険では、制度の周知・理解といういちばん最初の段階で表面化することになる。音声や文字によって情報を伝達できない人には手話で伝える方法をとらなければならないし、手話も理解できない人には個人にあわせた特別な配慮が必要となる。
 訪問調査という次の段階では、介護支援専門員が、ろうあ者についての正しい理解をもち、自由に話ができるかが問題となる。専門員に理解がなく、手話での会話もできない場合は、手話通訳保障をどうするのかという問題になる。それが解決されない限り、調査が正しく行われることはないのである。
 手話に熟達した介護支援専門員を確保すること、それができない場合は、制度についての理解をもつ熟練した手話通訳者が同行することが不可欠であり、それを介護保険のなかで公的・制度的に保障することが必要となる。
 特に、手話を知らない高度のコミュニケーション障害をもつ人たちの場合の問題は大きい。

提供サービスの問題

 これらのことは、提供される介護サービスについても全く同様である。
 たとえばホームヘルパーの場合、利用者との間でコミュニケーションができないホームヘルパーでは、本来のホームヘルプとは言えない。ここでも、手話に熟達したホームヘルパーが必要であり、あるいは熟練した手話通訳者の同行が必要となる。
 ろうあ者自身または手話通訳者が、介護支援専門員やホームヘルパーになれるよう、その養成が重要な課題である。
 デイサービスやショートステイなどは、サービス担当者が向き合う形ではなく、利用者同士が集まり、交流する場でもある。担当職員についてろうあ者の理解や手話が要求されるだけでなく、高齢者集団の中でのろうあ者のコミュニケーション保障が問題となる。
 聞こえる高齢者の中に1人放りだされる形では、ろうあ者は、周囲での会話に参加できない。こうしたサービス利用は孤立感をいっそう強く意識させる結果となるだけである。
 解決のためには、高齢ろうあ者を対象とする専門的な場を保障する必要がある。少なくとも10人前後の高齢ろうあ者を集団的に受け入れる場が必要となる。
 施設介護の場合は、毎日の生活の拠点という意味で、この問題はより切実になる。第1に、ろうあ者専門の老人ホーム、少なくとも十数人単位のろうあ者集団を保障する老人ホームが必要となる。第2に、高度のコミュニケーション障害をもつ人たちについては、1人では社会生活を営むことに困難があるという事実を正視し、ろうあ者が集まる老人ホームでの専門的な介護支援とろうあ者集団(コミュニケーション集団)が保障されることが重要である。
 これらが介護保険で解決できないときは、障害者施策での補完・補充が必要不可欠である。
 そして、利用者の選択権をうんぬんする以上、これらすべての場は、複数で準備されなければならないのである。