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介護保険制度の評価について

妻屋明

もう一つの問題点

 全国的に準備不足のなか、いよいよ4月1日から介護保険制度が施行され、65歳以上の高齢者や40歳以上65歳未満の初老期痴呆などの加齢に起因する15の特定疾病による障害者を対象に、要介護度に応じて介護が受けられるようになった。
 しかし、期待していた若年障害者のための介護問題についての取り組みが後回しになってしまったことは残念でならない。
 国の医療費抑制策により、以前とは比べものにならないほど極端に入院期間が短くなっているため、高位頸髄損傷者をはじめとする65歳未満の重度障害者は、病院を退院しても自立支援策など社会の受け入れ態勢が十分整っていないため、行き場をなくしている現状がますます心配である。
 介護が必要になった高齢者を家族だけの負担にするのではなく、社会全体で支え合うというのが介護保険の趣旨で、それ自体大きな意義があると言えるが、公的な介護支援が必要なのは、高齢者やその他の15特定疾病の障害者だけではなく、若年障害者の自立のための介護も、高齢者のそれとは違うかたちで社会全体で支えるという介護制度が必要である。
 また、今回の高齢者のための介護保険制度の出現は、これまで身体障害者のための福祉制度を唯一頼りにしてきた私たちにとって、正直なところ、なかなかすぐにはなじめないという受け止め方をしている。
 その理由として、脊髄損傷者など重度障害者は、障害を負った時から死ぬまで一生重い障害を背負っていかなければならず、64歳までが身体障害者、65歳になったら即高齢者になるという、この線引きや加齢に伴って生ずる障害の区別が理解できない。また、これまでの身体障害者のための在宅介護サービスの利用者負担は、所得に応じた負担になっていたため、低所得者や所得のない障害者はほとんど自己負担はなかったが、この介護保険制度では、40歳以上は全員保険料を納めたうえ、さらに各サービスに応じて、原則1割の利用者負担となっていることについては、新たなる重い負担に耐えられるのかという不安がつきまとう。今後、この負担をなんとか軽減する方法を検討する必要があると思う。

 私たち脊髄損傷者が注目していた現行の障害者施策と介護保険制度との適用関係についてもすでに確定されている。その中で、特に身体障害者療護施設など6種類の施設に入所または入院している障害者は、介護保険のサービスに相当する介護サービスが提供されているなどの理由で、介護保険の被保険者にはなれないとされている。
 それならば、現在全国8か所で運営または建設されている労災被災者のための終身保養施設「労災ケアプラザ」に入所している重度障害者も、同様の理由により介護保険の被保険者にはなれないとするべきである。
 労災ケアプラザの入所者は、本人が受給している公的年金からそれぞれの割合に応じて、1か月当たり下は3万円から上は27万8千円もの入所費用を納めている。そのうえさらに所定の介護保険料を納めたとしても、ここに入所している限りは、生涯にわたり十分な介護サービスを受けることになっているため、介護保険制度の介護サービスを受けることはできない。つまり、介護保険料を納める必要がないと言える。もしどうしても保険料を納めなければならないとしたら、明らかに納め損となる恐れがあり、早急に改善することが求められる。

地域で普通に生活するために

 医学や医療、福祉機器の性能が飛躍的に進歩した今、病院の入院期間は障害がどんなに重くても3か月から半年間程度でしかなく、病院や施設から否応なくどんどん社会に押し出されている現実がある。しかし、その反面押し出された障害者を受け入れる社会環境の態勢は必ずしも整っておらず、病院や施設から出てきた障害者は困難な社会生活を強いられているという背景がある。障害者のための医療やリハビリテーションの目的も、わざわざ病院や施設で生活するためにあるのではなく、それぞれの地域や家庭に帰って自立した社会生活が送れるようにすることが、その主な目的であるはずである。
 一方、それを受ける障害当事者も病院や施設ではなく、できることなら地域で普通に生活したいと願っているはずである。
 また、障害者プランも障害者が自立した社会生活を送るための長期計画であり、その目標も「地域で共に生活するために」や「社会的自立を促進するために」など七つの具体的施策目標となっている。
 高齢者だけではなく、障害者の社会生活に欠かすことのできない介護制度を確立させ、これら二者の共通した目的を早急に達成させることが求められる。

(つまやあきら 全国脊髄損傷者連合会会長)