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介護保険とケアマネジメント
ケアマネジャーの現実

石渡和実

 4月から、介護保険制度がスタートした。先日、介護保険のケアマネジャー(介護支援専門員)をしている友人から、貴重な話を聞く機会があった。危惧されていたことではあったが、ケアマネジャーの作るケアプランにおいては、自らが属する事業所のサービスを組み合わせる傾向が顕著である。これは事業所の利益を優先するということ以上に、サービスについての情報不足、地域の社会資源を知らないために、結果として自分の所のサービスをつなぎ合わせるだけになってしまうのだという。「マークシート方式のペーパー試験に合格しただけのケアマネジャー」などという批判が出されていたが、実際、その弊害がすでに随所に現れてきている。
 そして、もう一つ興味深い話を聞いた。彼は介護保険のケアマネジャーであるとともに、試行事業として行われている障害分野のケアマネジャー(介護等支援専門員)でもあり、高齢者と障害者のケアマネジメントの違いを身をもって体験したという。介護保険のもとでは、1人のケアマネジャーが1か月に50人ほどのケアプランを立てなくてはならない。ところが身体障害者のケアマネジメントでは、1か月にどう頑張っても7人のプランしか立てられなかった。単純に高齢者の7倍の時間をかけていることになるが、それでも納得できる十分な検討ができたわけではなかったという。
 このような話からも、介護保険下のケアマネジャーまかせのサービスには問題が多く、これまでの生活の維持はとうてい困難となってしまうことが予想される。

障害者と高齢者のケアマネジメントの違い

 わが国にいち早くケアマネジメントの概念を導入した白澤政和氏は、障害者と高齢者のケアマネジメントの違いについて、次のような点を強調している。第1は「寝たきり・痴呆」など、患者としての側面に注目しがちな高齢者に対し、障害者では雇用や地域活動など、社会参加のニーズが大きい。第2に高齢者は「介護」中心で、サービスの決定は家族にゆだねられがちだが、社会参加をめざす障害者ではそれぞれの自己決定を尊重する。第3に高齢者は「問題解決」というマイナス面に目を向けがちだが、障害者では将来の展望や可能性に着目し、「エンパワメント」の視点で支援が検討される。それ故第4として、ケアマネジャー中心の高齢者に比べ、障害者は自らがケアプランを作成・実施する「セルフ・ケアマネジメント」が重要となる。このような指摘からも、障害者のケアマネジメントでは高齢者以上に緻密な検討が必要であり、障害者自身が主体的にその過程にかかわっていくセルフ・ケアマネジメントが求められてくる。

これからの介護保険と障害者福祉

 この4月からこれまで障害者福祉サービスを利用していた人も、65歳以上、あるいは15種類の「特殊疾病」では40歳から介護保険サービスを利用することになった。この介護保険と障害者福祉サービスとの関係については、昨年10月27日の厚生省障害保健福祉部による事務連絡で基本的な方向性が示された。そして、介護保険では提供できない障害者施策に固有のサービスは、引き続き障害者福祉の枠の中で提供されることとなった。手話通訳やガイドヘルプサービス、「濃密な」ホームヘルプサービス、市町村障害者生活支援事業の利用などである。すなわち、これらのサービスは障害者の「自立と社会参加」のために欠くことのできない支援である。これをうまく使いこなすことによって、介護保険制度下でも自分らしい、尊厳をもった生活が可能となる。そのために、まさに障害者自身によるセルフ・ケアマネジメントの重要性がクローズアップされてくる。
 筆者は介護保険が動き出そうとしている3月に、ある障害者団体の学習会に参加した。65歳以上となって介護認定を受けた方々を中心に、若い障害者も交じって、介護保険をいかにうまく利用するかを検討する場であった。地域の社会資源や人材活用なども含め、実にたくましく、「巧妙に」とさえ言える暮らしぶりを貫いている人々に接して、障害当事者によるこのような場こそ、本来のエンパワメントだと実感した次第である。
 5年後の介護保険の見直し、そして3年後の障害者福祉の利用制度化、このような変革期にあって何より重要となってくるのは、生活主体者としての当事者の連携だと考えている。そのような場に行政担当者や研究者も加わり、どのようなサービス提供システムを築き上げていくかを、その地域性を考慮しながら検討していくことが求められる。現状の介護保険には多くの課題が山積しているが、国民全体が福祉に注目している今、まさに「権利としての福祉」を確立する絶好の機会でもある。あらゆるサービスを「巧妙に」セルフマネジメントして、自分らしい生活を築き上げていく障害者の生き方が、これからの社会を変えていくことになると確信している。

(いしわたかずみ 東洋英和女学院大学人間科学部教授)


〈引用文献〉
白澤政和「障害者ケアマネジメントの必要性と課題」『月刊福祉』、第82巻第8号32~39、1999年

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2000年5月号(第20巻 通巻226号)