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障害の経済学

雇用促進施策の現状

京極高宣

はじめに

 わが国の障害者施策で、雇用促進に関する施策は極めて多様です。前回に引き続き、専門家の方々には常識だとしかられるかもしれませんが、さしあたり障害者の雇用促進に関する施策を概観してみることにしましょう。
 わが国の障害者雇用促進施策は、必ずしも体系的に整理されたものではありませんが、『障害者白書(平成11年版)』(総理府、1999年)では、次の8本の柱から成り立っています。

障害者雇用率制度の運用

 障害者雇用促進施策の第1の施策は、前回も触れたように何といっても、障害者雇用率制度の運用です。それは、「障害者の雇用の促進等に関する法律」に基づき、民間企業、国及び地方自治体は、一定の割合以上、身体障害者または知的障害者を雇用しなければならないものとされています。
 特に一般の民間企業に対しては、従来雇用率の低い企業に対し、国(労働省)が雇い入れ計画の作成を命じ、計画に沿って雇用率を達成するように指導しています。こうした実務を怠り、改善がみられなかった企業の名称を公表するなどの措置(平成7年から現在まで4企業の事例)が講じられました。
 また事業主に対しては、企業の規模別に「障害者雇用推進者」(56人以上)や「障害者職業生活相談員」(5人以上)などが努力義務として設置されています。

雇用納付金及び就職援護措置

 第2の施策は、障害者雇用納付金制度です。この制度は大変賢く設計されたゼロサムゲームのシステムです。常用被雇用者300人を超える企業で、障害者の雇用率未達成の企業から、不足数1人につき月額5万円を納付してもらったもの(いわゆる障害者雇用納付金)を財源とし、この財源に基づき、次の二つのタイプの企業に雇用促進策として助成金を出す仕組みです。すなわち、第1のタイプは、優等生型で、雇用義務を超えて雇用する障害者(ただし、精神障害者は除く)を雇用する企業に対して、ノルマを超えて雇用する障害者1人につき月額2万5千円を支給します。これは主として大企業を念頭に置いています。第2のタイプは、苦学生型で、一定水準を超えて障害者(ただし、精神障害者を除く)を雇用する企業に、その一定数を超えて雇用する障害者1人につき月額1万7千円を支給します。これは主として中小企業を念頭に置いています。これらについては行政的な専門用語で、前者を調整金と呼び、後者を報奨金と言います。いずれにしても、この制度の運用においても日本障害者雇用促進協会が極めて重要な役割を発揮しています。
 また第3及び第4の施策は、各種助成金・融資や適応訓練などによる援護措置で、事業主に対する措置(第3の施策)と障害者に対する措置(第4の施策)とに分かれます。これらは、詳細に説明しますと、紙幅を大きく超過してしまいますので、あえて以上にとどめます。

障害種類別の施策

 第5の施策としては、障害種類別の施策があり、これは、大きく身体障害者施策と知的障害者施策と精神障害者施策とに分かれます。ここで、精神障害者施策がはじめて入ってきます。そこで身体障害及び知的障害のある人には触れず、精神障害者施策に限定すれば、以下のようになっています。
 精神障害のある人には、従来、厚生省サイドの各種の授産型施設のほかに、労働省サイドの職場適応訓練及び一般の職業能力開発校における訓練がありました。それに加え、障害者雇用促進法の改正等により、平成10年度から、精神障害を有する人で短時間働く人をも支援対象としています。また、すでに平成5年度から公共職業安定所の当該相談体制が充実されてきましたが、平成10年度からは全国に精神障害者担当相談員117人、ジョブカウンセラー47人が配置されるようになりました。私は画期的な精神障害者雇用施策の前進だと評価しています。でももう少し注文を言わせていただければ、これらの職種に、平成11年度から誕生した精神科ソーシャルワーカー(いわゆる精神保健福祉士)の国家有資格者をどしどし採用していってほしいと願っています。そして、未資格者には精神保健福祉士をぜひとも取得していただきたいと思います。

その他の施策

 その他の施策に関しては、もう説明するスペースがなくなりましたので、本稿では名称のみをあげてみます。
 第6の施策としては、先の『白書』で障害者の雇用の促進等に関する法律等の一部改正があげられています。ただし、これを施策の一つに数えることに私としては疑問なしとは言えません。一連の施策群がそこに含まれるからです。
 第7の施策は、障害者雇用対策基本方針の策定です。これも施策というよりは、政策理念に基づいて施策を方向づけるものです。
 第8は、最後になりますが、情報通信機器・システムを活用した就労支援施策です。さまざまな創意工夫が盛り込まれており、昨年、糸賀一雄記念賞の栄誉に輝いた調一興さんが理事長の社会福祉法人東京コロニーが研究調査を行い、分かりやすいマニュアルを作って好評を博しているなど、話題に豊富です。
 いずれにしても障害の経済学を考える際にも、こうした実態を踏まえなければ抽象的空論になりかねません。

(きょうごくたかのぶ 日本社会事業大学学長)

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2000年5月号(第20巻 通巻226号)