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障害者施設とボランティア活動

-ボランティアを受け入れる立場から-

板倉幸夫

 清松園は昭和58年5月に開園した身体障害者療護施設で、開設当初より多くの人たちに支えられ、本年17周年を迎えました。現在50人の方々がここで生活をされ、また20数人の方が年間1,300日程度のショートステイを利用されています。
 当施設には幼稚園児から大人まで、いろいろな人が常に出入りしています。
 ボランティアの受け入れは基本的にいつでも行っていますが、特に夏休みが地元の中学生を中心に多く、施設内は大変にぎやかです。ほかに福祉コースの学生や高校生ボランティアグループ、その他不定期ですが、行事の前の清掃や草刈り、バス遠足の付き添いなどに参加してもらっています。
 施設がボランティアを受け入れる意味は、二つの視点があると考えています。
 一つは利用者自身の生活をより豊かにするためです。施設の役割としての基本的生活保障(日常の介護等)は、ボランティアなしで利用者に保障しなければなりません。しかし、一人ひとりの生活をより豊かにする活動は、現状の職員体制では限界があります。ボランティアを受け入れることで、施設内では不可能なことが可能となり、利用者自身の生活圏が拡大され、より豊かな個人の生活をつくり上げることができます。買い物、個人の趣味を生かす活動(美術館や音楽会への参加など)が一つの例です。
 施設内では人間関係が限られてしまう傾向があります。しかし多くの人の出入りにより、利用者自身もさまざまな考え方の存在を理解でき、社会的有用感の確認が可能となります。人間関係をつくり上げていく過程で多くの経験を積むことは、利用者自身の成長につながり、地域に一歩踏み出すきっかけづくりになります。
 すべての利用者の個別ニーズを100%保障することは、現状ではなかなか難しい課題です。しかしボランティアを受け入れることにより、個別のニーズに対応することが可能となります。
 もう一つの視点は施設の運営上の問題です。ボランティア活動でいろいろな人が施設に出入りすることは、施設の閉鎖性を打開し、施設の透明性につながります。
 職員も自分たちと違った考えや視点を学ぶことによって、自分たちの役割のあり方を再構築し、職員自身の資質向上を図ることができ、利用者の生活環境の改善や生活の質の向上が実現できます(職員以外の目で常にチェックすることは大変重要なことです)。
 またボランティアは施設利用者とのふれあいを通じ、障害や老化の正確な知識を得ることは、偏見や差別をなくすこととなり、同じ地域に住む仲間としての理解が深まると考えています。
 ボランティアを受け入れることは、法人や施設のあり方や考え方を伝えることができ、今後の事業展開をスムーズに進めることができると考えています。また、職員だけではできない行事運営も可能となり、利用者へのサービス向上にもつながります。いろいろな人に活動を通して施設を見てもらい、一緒に考えることにより施設の生活はよりよい方向に進みます。ボランティア活動は、いろいろな風を施設内に吹き込む大きな役割をもっています。
 施設はボランティア活動の場のひとつで、受け入れることのみに目がいきがちです。しかし、利用者がボランティアを受け入れることは、利用者自身もボランティア活動をしているとも考えられます。自分の生き方や考え方を伝えることは、「人として生きる」「自分らしく生きる」ことなどを考えさせ、現在、社会が抱えているさまざまな問題解決の糸口となると思います。
 たとえ障害をもったとしても人としての可能性は、健常者と変わりないはずです。利用者自身もさまざまな場でボランティア活動をすることは、自分自身をより豊かにし成長する糧となります。
 今後、施設はボランティア受け入れのコーディネートをすると同時に、利用者のボランティア活動参加のコーディネートをも考えなければなりません。
 ボランティア活動は、施設を大きく変えていく「爽やかな風」であると言えるでしょう。

(いたくらさちお 身体障害者療護施設清松園園長)