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1000字提言

レスパイトケアは優しさの源

日浦美智江

 ある朝のこと、お母さん方のひと際にぎやかな声が聞こえてきた。朋の玄関を見ると、おしゃれをしたお母さん方4、5人が大きな笑い声をたてながら興奮してしゃべっている。「ああ、今日はあの人たちのレスパイトの日だな」とこちらもそのにぎやかなおしゃべりの仲間に加わる。「今日はどこへ?」「伊豆に梅を見に行こうと思って」「そこに決めるのが大変だったんですよ」「カメラは持った?」などしばらくしゃべると、「ではお願いしまーす」と華やかに、軽やかにお母さんたちは出発して行く。次の日の午後、彼女たちはお土産をもってさらににぎやかに帰ってくる。「楽しかった。命の洗濯をしてきました」「笑った笑った。お腹が痛くなるほど」と口々に報告をしながら、にこやかにわが子の顔をのぞき込み、手早く帰り支度をするお母さんたち。話の続きはきっと夕食の席なのだろうと想像しながら「ありがとうございました」と帰っていく親と子を見送りながら、たった1泊の小旅行をこれほどまでに喜ぶお母さんたちの日頃を思って、ふと涙ぐみそうになってしまう。
 障害のある人たちの地域生活は今、日本の障害者福祉の世界では当たり前になってきた。だが、この地域生活はそのほとんどを家族に依存して成り立っている。街の中で生き生きと楽しそうに生活するわが子を見れば見るほど、この生活を消したくないと親は思う。身体が成長し、障害が次第に重度化するなかで、自身は高齢となり、介護力が落ちていく親の方たち。そのジレンマを救うものとしてレスパイトケアが言い出されて久しい。
 レスパイトは、子どもの日中の生活を変えないで親が休養をとるという形のナイトケアである。朋では常時、医療的ケアの必要な人たちも5人がひとグループになって、小児科のドクターに当直をお願いし、設備の整っている朋の休養室を用いてレスパイトを行っている。重症の人たちは、体調を見ながら実行に移すこととなるが、「今なら大丈夫」とレスパイトが決まると、お母さん方の顔がパッと輝く。日頃のケアの緊張から、たとえ1泊2日であれ解放され、その時間をリフレッシュに使えるとしたらどんなにうれしいことかと思う。夫婦や、仲のよい母親同士の小旅行という話もよく聞かれるようになった。
 横浜市にはこのレスパイトケアのためのナイトケア事業がある。これは通所施設、作業所等に適用され、1泊27,500円が付けられている。気持ちにゆとりがあって初めて人は他の人に優しくなれる。家族が家族として和やかに生活できるために、1日も早いレスパイトケアの制度化が望まれる。

(ひうらみちえ 「訪問の家」専務理事)