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障害のある子どもたちは、いま vol.21

障害児福祉の課題(1)
医療・福祉の連携

-「宮城福祉夢プラン」から-

諸根彬

ぴゅあすまいる

 「ぴゅあすまいる」は経管栄養の子をもつお母さんのサークルです。「わが子が経管栄養という独特の食事方法をとらなければならないと知った時、戸惑いや不安がとても大きく、同じような悩みをもつお母さん方と少しでも話し合え、その不安を解消していけたら…」との思いで、1人のお母さんが拓桃医療療育センターの外来に置いた一冊の大学ノートからその活動が始まりました。
 平成7年3月の第1号会報に、「子どもの笑顔、それは何にも替え難いすばらしい子どもからの贈り物。そんな純粋な子どもの笑顔を大切にしたい-ちょっときざだったかなあ。そんな気持ちをこめてサークル名をぴゅあすまいるとしました」と、記されています。反響は予想以上に大きく、外来に通院するたびにお母さんたちの悩みや思いを記述したノートはすでに8冊を数えています。
 毎月1回の会報の発行と勉強会、講演会を会の活動としていますが、特に対外的な活動としては、会の代表が「こども難病シンポジウム」や「日本発達障害学会」のシンポジストとして『重度障害児の学校における医療的ケア』の問題を繰り返し主張してきました。

学校における医療的ケア

 ノーマライゼーション理念の実現に向けた福祉の新しい流れの中で、どんなに重度の障害をもっていても、地域・家庭で生活したいとの願いが当然のこととして受け入れられるような社会状況が徐々に整ってきました。
 養護学校さらには地域の学校には、従来は訪問教育(養護学校の訪問籍)の対象とされていたであろう、重度障害児が数多く通学しています。これらの子どもたちの多くは、たんの吸引、導尿、酸素吸入、経管栄養などの医療的ケアを常時必要とします。
 横浜市や東京都のように、「学校における医療的ケア」の問題に早くから取り組んできた地域もありますが、全国的には地域による対応に極めて大きい差があり、他県の学校に転校する際に、学校の受け入れに大きな混乱が生じることがあります。
 宮城県においては、「医療的ケアは医療行為である」とされ、教職員による行為が禁止され、あくまで親の付添介護を前提として、通学(通学籍)が認められてきました。
 重度の障害をもつ子どもを通学させ、そして親も一緒に学校に待機して、毎日子どもの医療的ケアを続けることは、親にとっては身体的に、また経済的にも本当に大変なことです。
 「医療的ケアの必要な子どもも、親の付き添いなしで通学できるようにしてほしい」と「ぴゅあすまいる」の会、多くの障害児の親の会の主張と熱心な活動が県行政を動かしました。さらには浅野宮城県知事の英断があって、平成9年4月から宮城県では、県独自の「要医療行為通学児童生徒学習支援事業」が開始されました。

「要医療行為通学児童生徒学習支援事業」

 この事業では、養護学校に通学する児童の学校における医療的ケアを、保護者に代わり訪問看護ステーションの看護婦が行い、その利用料金の一部を県が保護者に助成します。平成10年度からは、さらに訪問看護婦の交通費も助成の対象となりました。利用者は年々増加し、平成12年度は予算額として6300万(26人分)が計上されています。
 教育の場にPT、OT、看護婦などを採用し、重度の障害児の訓練や医療的ケアを担当させることが本来の障害児教育のあり方と考えますが、いまだに実現しません。教育制度の改革にはまだまだ時間がかかりそうです。
 宮城県が始めたこの事業は、その助成対象が養護学校に通学する児童生徒に限定され、養護学校以外の学校に通学する児童生徒が除外されているなどの問題がありますが、親の介護負担を軽減させ、重度障害児の養護学校通学を可能にした、現実的な対応として大きく評価できるでしょう。

子ども病院の整備

 障害のある子どもたちの医療が、生活する地域の医療機関で十分対応されない、時には拒否されるといった実情があります。
 また、本県の小児医療は、そのほとんどが成人中心型の大規模病院の小児病棟として、少ない病床の中で提供され、特に入院期間の長い子どもや家庭にとってストレスの多い環境となっています。
 多くの県民、障害児・小児難病の親の会、さらには小児医療関係者らの熱心な要請、支援活動が実を結び、待望久しい「子ども病院(県立、民営)」の設立がようやく決定しました。いま平成15年の開設に向けた準備が着々と進められています。
 子ども病院は、子どもの人権に配慮し、子どもを主役として、高度で専門的な医療を提供する周産期・小児専門医療施設です。既存の一般医療施設では対応が困難な患児に対して、高度で専門的な医療を集約的に提供する中核病院の役割を担います。

宮城県小児総合医療整備

 子ども病院の整備と並行して、子ども病院の開院に合わせて速やかに総合的な小児医療システムが稼働するように、「宮城県小児総合医療整備」基本計画が策定されました。
 この計画は、基本理念を「すべての子どもにいのちの輝きを」とし、この理念を基に、具体的に推進するため、以下の三つの指針を設定しました。
●子どもや家庭の視点の尊重
●子どもの成長に応じた総合的な医療(成育医療)の提供
●子どもが子どもらしく生きる社会の創出
 この「小児総合医療整備」は、3次医療圏(全県域)において中核となる機能を担う、既存の施設と子ども病院をシステム・ネットワークの核と位置付けるとともに、2次医療圏における地域の中核病院をサテライトとして位置付け、全県的な周産期・小児医療ネットワークを構築するものです。
 拓桃医療療育センターは、このネットワークの小児リハビリテーション(療育)の核としての役割を担いますが、子ども病院と地域・家庭をつなぐ通過施設、障害児の療育施設としての役割がますます大きくなると考えています。

おわりに

 障害のある子どもたちが地域の中で安心して生活ができるためには、なによりも健康の保障が基礎となります。医療は十分保障されているだろうか。診療拒否はないだろうか。入院が簡単にできるだろうか。子どもの成長に応じた総合的な医療・療育が提供されるだろうか。
 次代を担う子どもたち、障害のある子どもたちが、地域で自分らしい生活を安心して送れる社会、生きる喜びを感じ、いのちを輝かせることができる社会、この「宮城福祉夢プラン」の理念の実現に向けた取り組みが着々と進められています。

(もろねあきら 宮城県拓桃医療療育センター院長)