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シリーズ 働く 52

寧楽ゆいの会を訪ねて

臼井奈留実

はじめに

 寧楽ゆいの会は、奈良市内にある精神障害者の作業所の事務運営の統括や地域の拠点づくり、精神障害者の自立と社会参加を推進する活動を広がりをもって行うことを目的として平成10年に設立され、現在は市内で3か所の作業所を運営しています。今回は、それぞれの作業所を紹介し、そこで精神障害者がその人に合った形で働いている様子を紹介したいと思います。

寧楽ゆいの会

 寧楽ゆいの会には「さわやぎ作業所」「ピアステーション・ゆう」「スペースTAKU」の3作業所があり、それぞれに19人が利用登録をしています。しかし、その日のスケジュールにより、登録作業所以外のプログラムに参加することも自由に行うことができます。基本的な流れは「日々の活動(掃除や食事作りなど)」「作業」「クラブ活動」「ミーティング」から成り立っています。
 また「仕事さがしクラブ」をつくり、自分に合った仕事や生き方を考える活動もしています。この仕事さがしクラブは、ハローワークや職業センターからの支援を受けながら、過渡的雇用や企業就労をめざすことを目的としており、毎日の作業所のプログラムに参加できる人で、ハローワークに障害者登録をしている10人程度で構成されています。
 活動としては、「喫茶たく」(スペースTAKUで運営)で実際に働きながら労働習慣の確立をめざし、職業についての話し合いをしたり、ハローワークの相談員から講義を受けたりということをしています。「病気をコントロールしながら働く生活を考えていくことが大切だ」という視点に立った活動です。

さわやぎ作業所

 さわやぎ作業所は、主に内職仕事と外勤作業を行っています。内職仕事は乾燥こんにゃくの袋詰めや着物のリサイクルの下準備等で、作業を行うことで精神的に落ち着いたり、慣れた作業を繰り返すことでリラックスしていくメンバーが多いようです。また、外勤作業は、作業所近辺のマンションの清掃や地域情報誌の配達などを行っています。
 このマンションの清掃はマンションのオーナーとの契約で仕事を請け負っています。週に2回程度、2~3人でグループを組んでマンションの共同スペースの清掃作業を行うもので、清掃作業の前後にミーティングをして作業分担の確認、反省点などの話し合いを行います。私が訪問した際にも、てきぱきとそして丁寧に清掃を行っていました。また、住人の方と自然にあいさつをしたり言葉を交わす機会などもあることから、メンバーがいろいろな力をつけたり、住人の理解を得る、さらには社会とのつながりをもつという効果もあり、大変良い職務内容となっています。
 また、作業所内の管理として掃除をしたり、昼食を作ったりということも行っています。訪問した日は「レディースデー」ということで、ふだんはどうしても食事作りや洗濯などは女性が多く担当しがちなので、すべて男性が行う日を月に1日決めているそうです。どんな昼食にするか、スーパーのチラシを見ながら和気あいあいと検討していました。

ピアステーション・ゆう

 ここでは、デイサービスプログラムとして食事作りや清掃、作業所にかかってくる電話の応対といったさまざまな用務をメンバーとスタッフが共に分担しています。この担当はミーティングで決めますが、なかには「今日は気分が優れないのでゆっくり休みたい」という人もいるので、それぞれの体調に合わせて、できる人がお互いに助け合いながら活動をしています。
 また、グループ活動として、マンションの清掃や墓地の草刈りなどを行っています。
 ピアステーション・ゆうは、生活リズムをつくったり全員が安心できる場であったり、自分を表現できる人間関係づくりの場として活動をすすめており、月に一度メンバー会議を行って運営しています。

スペースTAKU

 ここは「喫茶たく」を運営しており、喫茶店でのさまざまな行動が主な作業となっています。定刻に出勤して身だしなみを整え、清掃を行い、接客、調理補助、会計といった喫茶店を運営していくために必要な作業をすべて行いながら、労働習慣の確立や社会参加、そして労働収入を得ることを目標としています。
 勤務形態は、仕事さがしクラブのメンバーが3時間の交代制で行っています。
 地域の中で、一般的な喫茶店として運営していくためにPRは欠かせないとのことで、作業所のクラブ活動として行っている人形劇を、子どもや高齢者を対象に行ったりしています。
 コーヒーも本格的で店内のインテリアも凝っており、とても気持ちのよい喫茶店です。現在は午前9時半に開店、午後4時半の閉店で平日のみの営業ですが、モーニングサービスなどもできるようになりたいと考えています。居心地のよい喫茶店をめざしています。

これからについて

 寧楽ゆいの会では、作業所の枠を取り払い、現在の自分にとって一番居心地のよい場所に所属し、自分の目標に向かっていろいろな形態で仕事を行っています。スムーズに活動できるように、作業所内の清掃や洗濯、昼食代の計算や管理等を行う人、作業所内で内職作業を行う人、また、外勤に出たり、店舗業務を行う人などいろいろです。時にはのんびりと気持ちを休めるために作業所を活用する人もいます。しかし、どの人も自分が今できることをできる形で行っており、これが、病気とうまくつきあいながら毎日の生活を送ることの基本となっているようです。
 作業所での仕事が自分にとって一番合っている、という人もいれば、企業就労をめざしたいという人もいて、それぞれが毎日の活動を通して自分のライフスタイルをつくり上げています。仕事さがしクラブでも目標は企業就労ですが、必ずしもそれのみを追い求めているのではなく、企業で働くためにはどんなことが必要かという学習をしながら、自分らしい生き方を探すことが最終日標なのではないか、と感じました。
 また、スタッフの方との話の中で、「精神障害者も利用できる就労援助サービスがかなり増えてきた。しかし、それを活用しようにも本人が力をつけていなかったら、せっかくのチャンスを生かせない。だから、いろいろなメニューを用意して、それぞれに合った形で活動しながら働くための底力をつけることが大切だ」という言葉が大変印象的でした。
 寧楽ゆいの会は、今回紹介した3作業所の活動、地域との交流を目的にしたクラブ活動などを通じて、地域に暮らす精神障害者にとって大事な「場」となっています。今後は、昼間の活動だけではなく、夜間も気軽に集える場として、午後から夜にかけて営業する食堂の経営を主とした第4作業所の設立が大きな動きとなりそうです。
 ゆいの会の「ゆい」とは、結=ネットワークという意味です。メンバー同士が一緒に働くことで安心しながら毎日を生活し、また、作業所の中だけにとどまるのではなく、地域に積極的に入り込むことで、地域の一員として地域で暮らすネットワークを結んでいく。寧楽ゆいの会の活動が、精神障害者のさまざまな生活を支え、発展していくことを願ってやみません。

(うすいなるみ 奈良障害者職業センター)