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体験
リアルタイム字幕記念の日に寄せて

小川光彦

 3月27日午後7時、東京都障害者福祉会館(港区三田)に集まった聞こえない方々から歓声が起きた。「あっ!」「出た!」あちこちでわき起こる大きな拍手。NHKの「ニュース7」で、わが国で初めてリアルタイムでニュースの内容が字幕放送で伝えられた瞬間である。次いで、そこかしこで感激に涙ぐみながら字幕を一心に読み続ける方々が…。
 この会場で東京都中途失聴・難聴者協会が中心になって呼びかけた「NHKニュースのリアルタイム字幕を見る会」には、約100人の方々が詰め駆けた。仙台や高松など、全国各地でも同様の集会がもたれている。
 日本で字幕放送が開始された1985年11月からリアルタイムの字幕の開始まで15年近く、73年にニュースのリアルタイム字幕が始まったアメリカに遅れること27年。聞こえない人たちが待ち望んできた瞬間だ。だがリアルタイムと言っても、放送された音声と8秒前後、遅れて文字が表示され、ときどき表示しきれずにごっそり省略されてしまう。
 会館に集まった聞こえない方々にご意見を伺ってみた。
 「補聴器を使って聞こえる難聴者にとって、アナウンサーの話している内容と字幕のタイミングがややずれているのが気になる」「声の認識率が高いアナウンサーを中心にシステムを使っているためか、他のアナウンサーや、地方や国外の映像などを伝えるレポーターの音声については文字に変換していなかった」「話された内容をすべて文字に置き換えるようにしているため、文字が出てくるのが早く、読みにくい」などの意見があった。
 それでも聞こえない人たちが待ち望んでいたシステムである。まだ技術的には不十分な点があると承知していながら、聞こえない人の意見を聴いて実施を決断された海老沢NHK会長や当局者の勇断に感謝申し上げたい、という意見が大半だった。それはその夜、NHKに全国各地の聴覚障害者団体から寄せられた感謝のFAXの山にも現れている。
 もちろんニュースの字幕放送は現在も続いている。前に比べて文章の出てくるタイミングがいくらか早く、確実になっていると感じる。5月の連休中に起きたバスジャック事件などでは、通常、祝日は30分の放送時間を延長して、3時間以上字幕を付けていた。これも聞こえない立場では大変ありがたいことだった。
 伝え聴くところによると、今回の放送は試験のため、6月まででいったん終了することになっていたという。それがNHKに届いた感謝の声を伝えるFAXの山により、延長されたのだそうだ。聞こえない方の声に耳を傾けてくれたNHKの方々のナイスな判断に感謝し、今後も共に見守っていきたい。

(おがわみつひこ 『いくお~る』編集者)

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2000年9月号(第20巻 通巻230号)