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1000字提言

点訳・音訳版市報を考える

佐藤由紀子

 私の住むH市は人口約十九万、県北部の中核都市でありだれもが知る某大企業の企業城下町である。市の公聴広報課では月に二回、約七万戸の全世帯に市報を配布し、市民はこれを読んでいろいろな行政サービスやイベント情報を知る。私のように普通文字が読めない重度の視覚障害者には、委託を受けた市内のボランティアグループが作成した点字版・カセットテープ版の市報が、県庁所在地の点字図書館を経由して送られてくる。
 税金の納期・市が行う健康診断・ゴミ出しのルール、ここで生活していくうえで欠くことのできないこれらの情報に直接アクセスできる点字版・テープ版市報は、日常なくてはならない存在ではあるが、両市報のあり方にいくつかの問題があるのも事実である。
 そのひとつは両市報の内容が普通文字版の抜粋であり、情報量が原本に比べ少ないことだ。どの記事を掲載するかはボランティアに任されているが、必要な情報というのはそれぞれに異なるので、選ぶ彼らもいつも頭を悩ましている。必然的に前述したような生活に密着した情報が優先され、イベント情報や各種講座の参加者募集等はあまり掲載されない。
 市報の全文を点訳・音訳できない理由の中で、私が疑問に感じざるを得ないのは、そもそも最初から全文掲載に必要なだけの予算が計上されていないことだ。
 現在、点字版・テープ版市報の利用者はおのおの約三十人、市財政逼迫の折とは言え、全文掲載を前提に経費を試算してみてもそれほどの予算増にはなり得ない。また誌面の関係で詳述は避けるが、この件についての担当課が本来の公聴広報課でなく障害福祉課であることが、事態をより複雑にしている。
 たとえ障害者であっても私たちは地域住民の一人として行政サービスを受ける権利と、日常生活のうえで果たすべき義務の両方を有している。そしてそれらを遂行するためには、市報全文の点訳・音訳がどうしても必要だと私は考える。
 社協だよりや各小学校区ごとのタウンニュース等、市報と共に全戸配布されるこれらの印刷物は、まったく点訳・音訳されていない現状を考え合わせ、せめて市報の全文に視覚障害者が直接アクセスできるように、そしてそのための予算が、本来の担当課である公聴広報課の予算として計上されることを強く希望してやまない。

(さとうゆきこ 茨城県在住・主婦)