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列島縦断ネットワーキング

宮城
「バリアフリー国体」の推進

庄司剛

「バリアフリー国体」の提唱

 宮城県では、「みやぎの福祉・夢プラン」で日本一の福祉先進県に至る道筋を著しました。その中で、今までにない新しい考え方や取り組みにより全国に誇れるような施策を示しており、バリアフリーをテーマとする「あたたかいまちづくりの推進」もその一つです。
 折しも二〇〇一年に第五十六回国民体育大会と第一回全国障害者スポーツ大会が宮城県で開催されることになり、全国から選手、役員、観客などをお迎えするために宮城県内各地の宿泊施設、飲食店、観光地の受け入れ体制の整備をする必要性が出てきました。
 宮城大学の久恒啓一教授から、「福祉のまちづくりと二つの大会の受け入れ体制整備を結び付け、『バリアフリー国体』と銘打って、バリアフリー社会づくりの契機とし、県民の方々にバリアフリーのあり方を再認識していただくとともに、全国に宮城県らしい一味違うメッセージを発信しよう。」と提唱していただきました。

「バリアフリー国体」のめざすもの

 基本方針としては、障害のある人もない人も、だれもが第五十六回国民体育大会と第一回全国障害者スポーツ大会において不自由なく参加、観戦、移動し、また、快適に観光、宿泊ができる環境を整えることを目標に取り組んでいくものです。具体的な取り組みについては、競技会場の整備、移動経路の整備等に併せて、ボランティアなどの人的支援策の構築、県民の意識啓発などを組み合わせて、バリアフリー化を達成しようとするものです。
 高齢者や身体の不自由な方々が、二つの大会へバリアを感じることなく出かけやすい条件を整えて社会参加の促進を図るとともに、バリアフリーのまちはすべての人にとって住みやすいまちになるという考えを一般県民にも広く浸透を図ることにより、バリアフリー社会への大きな流れにしたいと考えています。

国体競技会場の整備

 だれもが不自由なく競技に参加したり、観戦できるよう、国体競技会場となる九九会場のうち、国体開催中に特設する会場等を除き、八六の会場の状況についてバリアフリーの点検調査を行っています。
 この調査に当たっては、県職員が各施設に出向き、市町村担当者、車いすを利用している方々などの協力を得て、大会当日に「車いす利用者が乗用車で会場まで来て、一般観客として観戦する」ことを想定しての問題や視覚障害者用誘導床材の敷設状況、移動経路での問題やトイレなどの設備の状況を点検しています。不具合箇所は、車いす用駐車場が確保されていても、その幅が十分でないものや、車いす用トイレがあっても手すりや水洗ボタンの位置などが適切ではなく使い勝手が悪いなどでした。これまで問題がある箇所を順次改善してきており、今後、予定している改修や仮設設備での対応により問題が解消されるものが九〇パーセント以上となることが分かりました。一部の比較的大規模な改修が必要なものについては、仮設設備で対応するもの、ボランティアによる人的な支援で対応するものなど、会場の状況に応じて対応策をとるように考えています。
 点検調査に協力してもらっている市町村職員が、この取り組みを通じて自分のまちづくりへの視点を高めることにつながっているのではないかと思っています。このような取り組みにより、バリアフリーの意識が国体終了後に、財産として県内に残ることに大きな意義があると考えています。
 二つの大会の開会式と閉会式を行う、収容人員約五万人の宮城スタジアムがこのほど完成しました。
従来のスタジアムと比較して大きく違う点は、だれもが安全に楽しく観戦できるようバリアフリーに十分配慮して設計されていることです。車いす利用者一〇四人分のスペースとフラットループ(難聴者補聴装置)が利用できる三五〇〇席が設けられており、手すりやスロープの設置など車いす利用者が現場点検をしたうえでの意見を至る所で反映しています。
 また、表示文字は大きく、絵を使って分かりやすく、車いすの高さでも見やすいように工夫しています。通路には「バリアフリーインフォメーションレーン」として、高齢者や身体の不自由な方々の優先的レーンを設け、行きたい所にスムーズに移動できるようにしています。

受け入れ体制の整備

 不自由なく移動することについても、各種の取り組みを行っています。
 平成九年度から駅のホームや自由通路へのエレベーター設置を毎年度継続して、駅のバリアフリー化を進めています。
 また、車いすを利用する方や高齢者の方が気軽に外出できるよう、県内の公共施設の設備の状況を「みやぎバリアフリー情報マップ」というホームページで公開しています。提供している情報は、トイレ、駐車場、出入口、エレベーター、公衆電話等の設備の状況です(yumeplan@pref.miyagi.jp)。
 最近では、利用しやすい施設が徐々に整備されつつありますが、車いすを利用している方などが使用できるトイレの場所の周知が、まだまだ不十分な状況にあります。このため、民間の店舗などで「車いす対応トイレ」を設置している施設などに協力していただき、道路などから認識しやすい標識を宮城県で設置して、快適な移動ができるようにしています。
 快適に観光、宿泊ができる環境の整備についても、身体の不自由な方やボランティアの協力を得て、点検調査をしています。
 塩釜市の観光桟橋から遊覧船に乗り、快適な船旅を楽しみながら日本三景の一つ「松島」を調査しました。観光スポットは、受け入れ体制ができているものもあれば、未整備のものもある状態で、名所旧跡では砂利道などの問題があることが分かりました。また、プラットフォームが、崖際に設けられたためにエレベーターの設置が難しいJR松島海岸駅では、車いす利用者が改札ロからホームに上るために駅員が担いで対応しなければならないことも分かりました。お客様からのバリアフリー化への要望が顕在化していないこともあると思いますが、積極的に取り組もうという意識を醸成していかなければならないと考えています。
 また、宮城県にはいい温泉がたくさんあり、「車いすで入れる温泉」としてPRできるよう、宿泊施設によりいっそうの整備促進を働きかけていきたいと考えています。
 最近できた「道の駅」で、旅行中の方々に救急医療情報など福祉に関するものを提供するようにするなど、あらゆる面でバリアフリーを広く普及させ「みやぎらしさ」を出していきたいと考えています。

今後の取り組み

 財政事情が厳しい中で、施設整備に力を入れることにはおのずと限界があり、人の力が重要になってきますが、そのためのボランティア体制を構築することも大きな課題です。現在は、県民に強いインパクトを持ってバリアフリーを訴える方法として、一般の人が興味を持って参加するイベントで、情報発信ができないか検討しているところです。
 二つの大会が開会するまでに「バリアフリー国体」として、十分なバリアフリー体制を確立して、県外の皆さんをお迎えできるよう全力をあげて取り組んでまいりますが、多くの方々にぜひとも二つの大会にお出かけいただき、その体験を通していろいろなご指摘をいただきたいと思います。それらを今後のバリアフリー社会づくりに生かしていきたいと考えています。

(しょうじたけし 宮城県保健福祉部夢プラン推進室長)