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シリーズ 働く 55

身体障害者通所授産施設
「ひろびろ作業所」を訪ねて

山元貴信

はじめに

 今回、私が訪問した「ひろびろ作業所」は、金沢市の中心部から四キロメートル程離れた、犀川上流の自然に恵まれた大桑町にあります。ひろびろ作業所は石川県で最初に設立された身体障害者通所授産施設で、個々の利用者が「夢」と「希望」の実現をめざして、働くことを中心にさまざまな活動を行っています。
 定員は三〇人で、利用者の多くが重度の身体障害のある人で、重複障害のある人も少なくありません。そこで、個々の能力や障害の状況等に応じて作業内容を設定し、皆がそれぞれの持ち場で精一杯生き生きと頑張っています。

夢と希望を育む施設づくりをめざして

 ひろびろ作業所が開所されるまでは、養護学校卒業生の活動の場が少なく、その多くが在宅での生活を余儀なくされていました。そのような中、教育関係者と家族等が協力し、一九八三年十二月にアパートの一室を借りて、無認可の作業所としてスタートしました。一九九〇年には「社会福祉法人ひろびろ福祉会」として認可され、施設も新築し、県下初の身体障害者通所授産施設として新たなスタートを切っています。その後もひろびろ作業所の活動だけでなく、心身障害者通所援護施設の設立やひろびろ作業所の分場設立など、社会福祉法人ひろびろ福祉会としての活動を積極的に展開しています。

就労を通して自己実現を!

 ひろびろ作業所では、「セルプ事業部」と「デイ活動部」の二つのグループに分かれて活動しています。さらに、セルプ事業部には「生産課」「食品課」「事業課」の三つのグループがあり、利用者のニーズや障害状況等に応じた活動を行っています。ここで、それぞれのグループの活動についてご紹介しましょう。
 セルプ事業部の生産課では、ウエス加工や縫製等を行っており、特に浴衣などの古着を再利用するウエス加工は、一年を通じて安定した注文があり、ひろびろ作業所の中心的な作業になっています。
 食品課では、ウナギのたれを容器に詰める作業を行っており、夏場のピーク時には残業が必要なほど仕事に追われるそうです。また、農作業も行っており、畑で採れたナスやピーマンなどは、利用者の食卓を賑わせることもあるそうです。
 事業課では、イベントへの出店やカタログを作っての販売活動、パソコンを使って機関誌「ひろびろつうしん」の入力作業などを行っています。ハンディキャップの軽減を図るためにもパソコンを使った作業には、今後も力を注ぐ必要があると考えています。
 以上のように、活動は多岐にわたっていますが、中には障害が重かったり情緒面での障害などの理由により、十分に作業に従事することのできない人もいます。デイ活動部では、そういったセルプ事業部での活動が難しい利用者が、自分のペースでそれぞれの活動を行っています。午前中はセルプ事業部と一緒に作業を行いますが、午後は絵画やリハビリ等の体力づくり、また、ショッピングや絵画鑑賞に出かけるなど、趣味や生活の幅を広げる活動を行っています。
 以上のように、通所授産施設であるひろびろ作業所では、作業を通した活動を中心に行っていますが、その内容は利用者の個々のニーズを重視したものになっています。

幅広くニーズに応えるために

 ひろびろ作業所への通所希望者は年々増加し、ひろびろ作業所だけでは受け入れきれなくなったことから、一九九二年四月に小規模作業所「工房シティ」を開所し、企業からの下請け作業(バリ取りなどの軽作業)を中心に活動を開始しました。一九九三年四月にはひろびろ作業所の分場として認可されていますが、今後は独立した身体障害者通所授産施設としての活動をめざしています。
 一方、難病やてんかんなどの身体障害者手帳に該当しない障害のために、ひろびろ作業所で働きたくても働けない人たちがいます。この人たちの受け入れ施設の必要性を唱える声も高まりました。そのようなニーズに応えるために、一九九〇年十月に開所したのが心身障害者通所援護施設「ひなげし共同作業所」です。
 ひなげし共同作業所では、昨年百円ショップ「ポピー」を構え、そこでパンやジュース、お菓子などを販売しています。自主制作ではなく、販売活動のみを行っているこの取り組みは、作業所としては一風変わった取り組みと言えるでしょう。お客さんの中心は作業所の近くにある中学校や高校の生徒で、生徒の中にはボランティアとして販売などを手伝ってくれる人もいて、ひなげし共同作業所の活動に対する地域の理解を深めるきっかけにもなっているようです。
 また、今年の春からは注文を受けたうえで、事業所や学校ヘパンを配達するデリバリーサービスも始めており、活動の幅にも広がりを見せています。
 このように、ひろびろ作業所の活動からスタートしたひろびろ福祉会の活動は、障害のある人のニーズに応えるべく幅広い活動を行い、また、バザーやレクリエーション、販売活動を通じて地域の人たちとの交流も深めながら、障害のある人の自立、自己実現を支えています。

最後に

 ひろびろ作業所並びにひろびろ福祉会では、これまで述べてきた活動を通して、障害の程度や種別にかかわらず働く場と仲間とふれあう機会を保障するとともに、障害のある人が主人公として社会に参加していけることをめざしています。そして、働く中で、障害に負けない自分の人生を築くための援助を目的としています。
 今後は、ひろびろ作業所においてパソコンを活用した作業の拡大をめざすなど、活動の幅をさらに広げていくとともに、家族の高齢化という問題が現実のものとなっていることから、家族の安心と障害のある人の自立に向けて、グループホームや福祉ホームなどをつくり、生活支援の幅も広げていきたいと考えています。
 制度上の限界や財政面での難しさなど、問題も多いとのことですが、障害をもつ人々の「夢」と「希望」の実現に向けて、ひろびろ作業所、ひろびろ福祉会の活動は、今後もますます広がっていくことでしょう。

(やまもとたかのぶ 石川障害者職業センター)