音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

解説 交通バリアフリー法

尾上浩二

基本方針・基本構想・改善計画が三本柱

 今年五月に成立した「交通バリアフリー法」が、いよいよ十一月から施行される。「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」が正式名称である。
 障害者の外出運動やまちづくり運動が始まって三十年、だれもが利用できる交通機関を求める全国行動が始まって十年余りを経て、障害者の移動に関する法律が成立したことになる。後述する通り、この法律の実効性は市町村での基本構想策定と当事者参画の進展にかかっている。その意味では、障害当事者をはじめ関係者がこの法律を最大限活用していくことが重要になってくる。
 そうした今後の課題に触れる前に、まず、この法律の概要・仕組みを見ておきたい。
 「交通バリアフリー法」(注)は六章二十八条、そのうち基本的な仕組みは三章十四条の構成からなっている。
 その「目的」は、「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の利便性及び安全性の向上の促進を図り、もって公共の福祉の増進に資すること」(第一条)にある。そのために、旅客施設や車両、道路、駅前広場、施設等の改善や整備等の措置を行うことになっている。この第一条で、「高齢者、身体障害者等の自立した日常生活及び社会生活を確保することの重要性が増大していることにかんがみ」とされている点に注目したい。「障害者の自立した日常生活及び社会生活」と記されている通り、障害者が自らの意志に基づいた移動ができて初めて「バリアフリー」と呼ぶに値する。その点から、たとえば、移動円滑化基準では、垂直移動について駅員の手を借りなければならないエスカレーターではなく、エレベーターが基本となった。
 そして、続く条文ではこの目的を達成するための規定や手続きが述べられている。主務大臣が目標や移動円滑化基準等を含む基本方針を定める(第三条)。公共交通事業者は、新しい旅客施設(含む大規模改造時)や車両について基準に適合させる義務が、また既存物については努力義務が課せられる(第四条)。さらに、重点地区の整備として、市町村は基本構想を作成し、その中で重点地区を定めることができるようになっている(第六条)。そして、基本構想が策定されれば、公共交通事業者や道路管理者等はそれぞれ協力して特定事業計画という改善計画を策定し、実施することになっている(第七条~十二条)。
 以上のように、交通バリアフリー法は、政府の基本方針―市町村の基本構想―事業者の改善計画の三つの構成要素によって改善が進むということを想定している(図)。
 また、これまで「縦割り行政」の中で面的整備等の困難さが指摘されてきたが、交通バリアフリー法では運輸省・建設省・警察庁・自治省の四省庁関連の法律となっている点も重要な点である。
 法律制定時の国会審議では、移動の権利性や既存物への実効性、当事者参画等の点で不十分さがあるという指摘がなされていた。これらの一定の部分については、附帯決議に盛り込まれるとともに、当初「十年後」とされていた見直し規定が「五年後」に修正された。

図 高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律

図 公共交通機関を利用した移動の円滑化
(運輸省・建設省・警察庁・自治省)

パブリックコメントで修正された移動円滑化基準

 五月の成立以降、基本方針や移動円滑化基準についての検討会が開催されてきた。そして、七月下旬には、基本方針や基準案が運輸省や建設省、警察庁等のホームページで公開され、パブリックコメントの募集が始まった。これに対して百六十通近くの意見が寄せられた。
 その結果、かなりの変更がなされた。その中で注目すべき点として、以下の項目があげられる。一点目は市町村が基本構想を策定する際に、当事者からの「意見の聴取」という表現が「参画」になったこと。二点目は、垂直移動については「エレベーターまたはエスカレーター」と併記されていたのが、エレベーターが基本となったこと。三点目に、視覚障害者向けの転落防止策として点字ブロックだけだったのが、ホームドア、可動式ホーム柵も加えられたこと。四点目は、ホームと電車の段差について、原案の「できる限り小さく」から「できる限り平らにすること」との表現に変更されたこと。
 ただ、他方、バス車両の基準について、ノンステップバスの基準化の意見が寄せられたが見送られている。これについては、実際に各市町村・事業者の取り組みによってノンステップバスが大量導入されることが重要だろう。これらのパブリックコメントに寄せられた意見と、それに対する対応は運輸省のホームページにまとめて掲載されている。こうしたことも含めて、寄せられた意見に対して誠実に対応されていることが分かる。

自治体での「福祉のまちづくり」と交通バリアフリー法

 これまで見てきた通り、交通バリアフリー法の基準適合に関して、新設分は義務づけになっているが、既存物に対しては努力義務となっている。既存物については、市町村の基本構想策定が重要な鍵を握ることになる。
 これまで日本では、交通バリアフリーに関した取り組みは、「福祉のまちづくり」の名のもと自治体レベルを中心に進められてきた。一九七〇年代の町田市や京都市の「福祉のまちづくり要綱」を先駆けとして、一九八一年の国際障害者年をきっかけに各自治体に要綱・指針が広がった。さらに、一九九〇年代に入ってからは、大阪府・兵庫県での制定を皮切りに各都道府県で「福祉のまちづくり条例」(以下、「まちづくり条例」)が制定されてきた。もちろん、その背景には、障害当事者によるまちづくりや交通アクセスを求めた取り組みの高まりがあった。
 運輸行政としては「公共交通ターミナルにおける高齢者・障害者のための施設整備ガイドライン」や「鉄道駅舎エレベーター整備指針」等が策定されてきた。そうしたガイドライン・レベルから法律事項になった点に、交通バリアフリー法の意義があると言えよう。
 こうした経過から、一九八〇年代に高架化や地下化された駅は、地上から改札まではエレベーターやスロープは設置されていても、改札からホームは階段だけの駅が多かった。当時、改札内は、自治体の「福祉のまちづくり」の対象外だったからだ。ようやく一九九〇年代の「まちづくり条例」の制定によって、駅舎等の交通機関も自治体行政の対象になってきた。ただ、それもあくまで自治体の条例に基づくものであった。それが、交通バリアフリー法の成立によって、自治体は法的根拠を持って鉄道事業者への協力を要請することができることになる。この部分を、交通バリアフリー法の展開にあたって最大限活用したい。

鍵は市町村での基本構想と当事者参画

 だが、そうした交通バリアフリー法の展開を考えると重要な課題も残されている。これまで「まちづくり条例」は建物が中心で、車両を対象にしているところは少ない。「まちづくり条例」の見直しを行い、ノンステップバスの基準化などを盛り込むことが求められる。また、「まちづくり条例」は都道府県を中心にした展開であり、市町村でバリアフリーについての体制やノウハウを持っているところは少ないだろう。市町村での推進体制の整備を行いながら、基本構想―重点地区の設定に向けた取り組みが重要となってくる。
 そして、その基本構想の検討にあたっては当事者参画のもと進められることが重要だ。これまでともすれば、「当事者参加」について「団体の長」を検討会に入れることで「障害者の意見も聞いた」という手続き論として、障害者の参加がとらえられてきた部分が強い。
 パブリックコメントを受けて「当事者参画」に修正されたことに象徴されるように、交通バリアフリー法での当事者参画は、利用者としての評価や改善提案を得るために行うことに意味がある。つまり、「消費者コントロール」を実現しようということだ。その点からすると、実際に障害をもちながら交通機関を日々使い、問題点を感じている当事者の参画こそが大切である。
 他方、「消費者コントロール」を実現するためには、障害当事者の力量をさらにアップしていくことも課題だ。たとえば、交通バリアフリーの当事者アドバイザーを養成していくプログラム等も求められるだろう。
 当事者参画のもと、「利用者ならではの意見」が取り入れられて、市町村の基本構想がつくられていくことを期待したい。そのことが交通バリアフリー法を活用していく重要なポイントであり、さらには五年後の見直しにも大きな影響を与えるであろうことを指摘しておきたい。

(おのうえこうじ駅にエレベーターを!福祉の街づくり条例を!大阪府民の会・事務局長)

(注)交通バリアフリー法に関するURL
http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/barrier/mokuji_.html   (元に戻る)