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列島縦断ネットワーキング

東京 「ロービジョンまつり」レポート

本多和弘

 去る九月十日(日)、東京都飯田橋のセントラルプラザにて「ロービジョンまつり」が開催され、弱視者の当事者はもとより、弱視児をもつ父母やリハビリテーション関係者、またバリアフリー製品に取り組んでいる各種メーカーの方々など、首都圏を中心に約一五〇組の参加者で大いににぎわい、成功裏に終了することができました。
 今回のイベントは、「できないをできるに変える道具との出会い」をメインテーマに据え、「弱視の人が企画し、弱視の人たちが集まれるイベント」をコンセプトとして準備を進めました。そもそもこの「できないをできるに変える…」というテーマは、昨年八月に発行した「見えない見えにくい人の便利グッズカタログ」(弱視者問題研究会編)の中で提唱されたものです。
 世の中には目が見えなくても視力が弱くても、それを補うさまざまな道具があり、それを有効に活用すれば日常生活を豊かにすることができる、でもまだまだこのような道具に出会っていない弱視者や弱視の子どもたちがたくさんいるのではないか…と考え、その出会いの場を作ろうという提案を、カタログの出版元である株式会社大活字の担当者の方からいただきました。
 イベントの準備は五月末から実行委員会形式でスタートしました。内容を検討する中でさまざまなディスカッションを行い、「便利な道具を体験できる常設展示コーナー」と「弱視者の、人の情報を伝えるための座談会」を大きな柱とし、展示メーカーの選定や座談会のメンバーの選出を行いました。
 これまで各地で行われている視覚障害者向けの機器展示会は、拡大読書器やパソコン用音声ソフト、拡大ソフト等、メーカー主導で「製品を展示する」という傾向が強く、利用者本位ではない部分があったように思われます。それを教訓として、「弱視者や視覚障害者が日常生活で何をするためにどのような道具が必要か」に焦点をあて、展示や座談会の内容を検討しました。たとえば弱視者や視覚障害者は、自分の書いている文字が見づらいため、往々にして字が汚くなったり、行が曲がってしまうことがあります。「手紙をまっすぐにきれいな字で書きたい」という目的を達成するために、何が必要かという観点で、音声ソフトや拡大ソフトを導入したパソコンとプリンターを用意し、簡単に体験できるように準備しました。
 また座談会については、「弱視者本人が自分の体験を語ることそのものが日常生活を豊かにするうえでのヒントになる」という考え方で、「拡大読書器であなたも読める、書ける」「ロービジョンのためのパソコン入門」「弱視君、弱視さんの学校生活Q&A」「生活の知恵、大技小技大公開」という四つのテーマを選び、これを語るにふさわしいメンバーを選定し準備を進めました。
 イベント前日まで準備に追われて、何とか開催当日を迎えることができました。常設展示は「大活字本」「ユニバーサルデザインを目指して」「ためしてみよう便利グッズ」「パソコンに触ってみよう」という四つのコーナーを設けましたが、どのコーナーも手にとって体験することができ、おおむね好評でした。
 特に「ユニバーサルデザインを目指して」のコーナーでは、ダイヤルを合わせて施錠する方式のものを、ボタン式に変更したタイプの郵便ポストや、給湯のスタートや温度設定の変更を音声で知らせるタイプのガス給湯器など、住宅関連の製品が数多く展示されており、バリアフリーの視点がさまざまなジャンルで浸透しつつあることを実感しました。
 座談会で印象に残ったのは、「生活の知恵、大技小技大公開」でした。スーパーでの買い物の時、どこに何があるかわからない場合は、近くの主婦を捕まえて目を借りてしまう二十代前半の独身男性の話、駅で運賃表が見えない時やホームが分からない時、駅員を捕まえてすべてを教えてもらう三十代半ばの三児の母親の話、マークシート式の馬券購入チケットに苦労しながら、喧騒の中で競馬を楽しむ三十代半ばの男性の話など、日常生活のあらゆる場面でどんな点に苦労し、どう克服しているかについて、それぞれ軽やかに語っていたのが印象的でした。
 今回のイベントの企画から準備、そして開催当日を通して印象に残ったのは、私たち弱視者を取り巻く状況が、想像以上に大きく変化していることです。「バリアフリー」「ユニバーサルデザイン」という言葉が社会に浸透しつつある中で、メーカー各社が真剣にこれに取り組んでいる姿勢を感じ取ることができました。また高齢化社会が進むことにより、ロービジョンの範疇に「高齢者」が加わりつつあることも実感しました。さらに、情報があふれていると思われていた東京でも、弱視に関する情報を求めてこれだけ多くの方々が集まってくる現実を踏まえ、弱視者、視覚障害者に対する情報提供について、改めて考える必要があると思います。
 今回のイベントを開催するにあたって、団体、企業、個人の枠を超えて多くの方々のご協力をいただきました。当日参加された皆さんと併せて、厚くお礼申し上げます。また時期や場所は未定ですが、来年以降もこのような企画をぜひ開催したいと思っていますので、ご意見等ありましたらぜひご連絡ください。

(ほんだかずひろ 弱視者問題研究会)

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