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ハイテクばんざい!

ベンチレーターは、呼吸障害をもつ人の「生活道具」

安岡菊之進

1 ベンチレーター(人工呼吸器)とは・・・

 ベンチレーターとは、肺に空気を送り込む機械、つまり道具です。
自発呼吸のできない人、または夜間、あるいは昼間に補助呼吸の必要な人が使用するものです。
  ベンチレーターを使用する人は障害の種別を問いません。ALS、筋ジストロフィー、ポリオ、高位頸髄損傷、脳性マヒ、側わん、脳血栓、肺胞低換気症候群、睡眠時無呼吸症候群など、さまざまな障害をもつ人が使用しています。米国の最新の情報では、ぜんそくの人たちにもベンチレーターの使用が有効であることがわかり、その人数も増えてきています。
 まさに、歩けない人が電動車いすを使用するのと同じように、障害者のための便利な道具なのです。ベンチレーター使用者は、けっして「患者」ではないのです。
 ベンチレーター、人工呼吸器と聞くと、まだまだ「生命維持装置」というイメージばかりが先行してしまいがちですが、呼吸障害をもつ人のための「生活道具」なのです。電動車いすとちょっとだけ違うのは、ベンチレーターのしくみや呼吸に関する専門知識が少しばかり必要なだけです。
 ベンチレーターは健康保険の診療報酬によりリース(一台のみ)ができるようになっています。

2 ベンチレーターの種類としくみ

 日本では一九七〇年代まで、冷蔵庫ほどもあるような大きなベンチレーターしかありませんでしたが、八〇年代後半から小型のベンチレーターが在宅生活向けに販売されるようになりました。現在では以下の四種類に大別できます。

◎ボリュームベンチレーター(従量式陽圧人工呼吸器)

 これは、一回に送り込む空気の量(以下、換気量)を設定して決めて、その換気量分を肺に送り込むものです。在宅人工呼吸の主流です。

◎バイレベル従圧式陽圧人工呼吸器(BiPAP) 

 一回の換気量を決めて送り込まれるボリュームベンチレーターとは違って、これは、肺に空気を送り込んだ時の圧力によって、呼吸量が決められます。バイレベルですから、二段階の圧力設定ができるベンチレーターです。主に夜間の補助呼吸に使用されます。

◎持続性従圧式陽圧人工呼吸器 (CPAP)

 持続的に一定の陽圧を肺に与えることで、気道がふさがるのを防いだり、自発呼吸を補助するためのベンチレーターです。主に、睡眠時無呼吸症候群などの呼吸補助に使われます。

◎胸郭外陰圧式人工呼吸器

 前述の三つは陽圧のベンチレーターですが、これは肺に対して陰圧をかけて、呼吸させるものです。米国の「自立生活運動の父」と呼ばれる故エド・ロバーツ氏は、このタイプのベンチレーターを使っていました。「鉄の肺」とも呼ばれ、体全体や胸の部分を器具で覆って陰圧をかけます。
 これらのベンチレーターの中から、それぞれの呼吸障害に合わせてできるだけマッチしたものをドクターと相談し、設定値を決めていきます。たとえば、自発呼吸のない障害者が使う場合の主流である従量式陽圧ベンチレーターを例にしてみましょう。設定のポイントがいくつかあります。最終的には、本人がもっとも快適な呼吸であればよいわけです。

(1)一回換気量と呼吸回数

 一回に肺に送り込む空気の量と一分間の呼吸回数です。在宅人工呼吸療法の知識に乏しいドクターの中には、体重一○kgに対し一○○cc、分当たり一五回程度と杓子定規に設定するドクターがいますが、これは在宅でのベンチレーターを「生命維持装置」としてしかとらえていない設定値です。
 発声をしたり、社会参加をしているベンチレーター使用者の場合は、もっとたくさんの換気量が必要です。換気量、呼吸回数を低く設定してしまうと体力が衰え(もちろん過換気になってはいけませんが)、風邪などの病気への抵抗力も少なくなってしまいます。

(2)流速

 これは、吸気と呼気のバランスです。健常者が空気を吸って吐き出すときに、その状況に応じてさまざまなバランスがあるのと同じことです。ベンチレーターから送り込まれる時間を長くとったり、吐き出される時間を短くしたりなどの設定は、一○○人いれば一○○通りあります。

3 インターフェイス

 ベンチレーターから送り込まれる空気を取り入れる気道の部位と器具を、「インターフェイス」と言います。日本語に訳すと「換気連結器具」とでもなるのでしょうか。どこから空気を取り込むかは、その呼吸障害の状況によって、気管(気管切開)、口腔、鼻腔となります。気管切開には、気管カニューレ、口腔には、マウスピースやマスク、鼻腔にはネイザルマスクやネイザルピローというものを使います。どのインターフェイスにするかは、それぞれの呼吸障害と換気方法ととても密接な関係があります。

4 ベンチレーターを付ける時期

 呼吸が足りないということは、一日中、マラソンをしているような状態ですので、肺炎になって生きるか死ぬかの状態でベンチレーターを付けるよりは、できるだけ早めに、できるだけ体力のあるうちに付けるべきです。二酸化炭素の血中濃度の正常値は通常三五~四〇mmHgですが、これを超えたり、オキシメーターで測った血中酸素濃度(正常値は九五~九九%)が九〇%を下回るようでしたら、ベンチレーターの使用を考えなければなりません。専門病院で呼吸検査を受けるとよいでしょう。自覚症状としては次のようなものがあげられます。
◎肩で呼吸をしている
◎長く話すと頭が酸素不足でボーッとする
◎夜中に頭痛がして目が覚める
◎朝起きた時や午前中に頭痛がする
◎イビキがひどい
◎眠っている時に呼吸が止まる
◎極度にやせている
◎以前よりも風邪をひきやすくなった

5 「ベンチレーター=気管切開=声が出せない」という神話

 ベンチレーターを付けるというイメージは、気管に穴をあけベッドの上で一生機械につながれて生きるというイメージが先行します。が、自発呼吸があり補助呼吸だけでよい場合や、夜間のみの使用の場合は、多くは気管切開をしなくても鼻マスクからの呼吸ですみます。この場合、もちろん声を出すことは可能です。
 また、気管切開をしても、声帯を震わせたり□を動かしたりできない障害のある人を除いて、発声が可能なカニューレやバルブを使うことで、ほとんどの人が声を出すことができます。

6 外部バッテリーで外出が可能

 電動車いすなどに使用するバッテリーを外部バッテリーとして使用することで、ベンチレーターを付けても自由に外出できます。バッテリーの容量や機種によっては、二十四時間の作動が可能です。
 ベンチレーターを使用していても、どんどん社会に出て、自立生活をする仲間が増えています。

(やすおかきくのしん ベンチレーター使用者ネットワーク事務局長)