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フォーラム2000

地域職業リハビリテーションシステムの確立への提言

澤村誠志

 たとえ重度の障害があろうとも、また、介護が必要となっても施設や病院でなく、自らの住み慣れた地域でより高いQOLを目指して近隣の人々とともに暮らしていきたい、というのがだれしも人間本来の希望する生き方であろう。
 日本リハビリテーション病院協会(現日本リハビリテーション病院・施設協会)では、ノーマライゼーションをゴールとして、一九九一年、地域リハビリテーションを次のように定義した。「地域リハビリテーションとは、障害をもつ人々や老人が、住み慣れたところで、そこに住む人々とともに、一生、安全に、生き生きとした生活が送れるように、医療や保健、福祉および生活にかかわるあらゆる人々が行う活動のすべてを指す」。
 地域リハビリテーションのゴールであるノーマライゼーションを達成するためには、地域における統合的なシステムづくり、ネットワークの形成が最大かつ不可欠の課題である。その中で地域リハビリテーション活動における国、都道府県、二次障害者保健福祉圏域および市町村の役割を明確にしていく必要がある。このため、一九九九年、厚生省の協力指導を得て、日本リハビリテーション病院・施設協会が中心となって、介護保険の前置主義として機能訓練を中心とするリハビリテーションを進めるために、「地域リハビリテーション支援活動マニュアル」を作成した。幸い、本成果についての評価をいただき、すでに厚生省より各都道府県および関係団体に地域リハビリテーションシステム化に向かってのガイドラインとして配布されており、その実践に向かってすでに四○を超える多くの都道府県などに新たな積極的な動きが認められている。
 この活動マニュアルの骨子となるのは、都道府県リハビリテーション協議会の設置と都道府県および地域におけるリハビリテーション連携指針の作成、都道府県リハビリテーション支援センターおよび二次保健福祉圏域における地域リハビリテーション広域支援センターの指定とその役割である。
 このシステムは、高齢者を対象とする地域リハビリテーションシステムの介護保険用バージョンというべきもので、必ずしもすべてが障害のある人々のニーズに合うものではない。しかし、高齢者と障害のある人々に対する縦割り行政の弊害を極力避け、障害のある人々の社会参加、特に雇用を進めるためにテクノエイドを初めとする生活支援のための社会資源を共同利用していく方向が望ましいことは言うまでもない。
 さて、障害のある人々にとって最も積極的な社会参加は、言うまでもなく就業にあろう。この当事者の職業ニーズに合うシステムの構築には、わが国各省庁にまたがる課題が整理統合され、公平性を保ちながら効率のよいシステムを構築していく必要がある。
 二〇〇一年一月に、厚生労働省に統合整備されることが決まってからは、障害者雇用の分野で、厚生労働省の時代に即した制度づくりのための論議が国レベルで活発化してきている。幸い、この論議の中で、すでに、1.障害者就業・生活総合支援事業、2.障害者緊急雇用安定プロジェクト、3.重度障害者在宅就労支援事業、4.精神障害者ジョブガイダンス事業など、省庁をまたがる多くの連携事業が制度化されてきている。この中心となるのは、これまでの入所型福祉施設のあり方を見直し、就労促進型へ変革するとともに、各種施設の機能の相互活用を図り、総合的な対応を図ることができる雇用支援ネットワークづくりを行っていくこと、そして、障害のある人々や企業の担当者が相談できる窓口として、人口三〇万単位に就業・生活総合支援センターを設置していくことが大切であると思われる。
 しかし、現実には、多くの地方自治体の障害者プランには労働年齢期(十八~六十四歳)に対する職業リハビリテーションとのリンクの弱さがあると言われている。職業リハビリテーションの分野にも、地域リハビリテーションシステムの理念を導入することにより、障害のある人がわが国のどこに住もうとも同じように平等な職業リハビリテーションサービスを受けられる社会をつくるべきであろう。
 このような地方分権一括法施行、中央省庁再編という法制度激変の真っ直中で、日本職業リハビリテーション学会第二十八回大会が兵庫県立総合リハビリテーションセンターにおいて二〇〇〇年七月六、七日の二日間にわたって開催された。テーマを「21世紀への提言~地域職業リハビリテーションシステムの確立」とした。これは、昨年の当学会において、「生活と就労の一体的で継続的な支援のあり方」が討議され、これをさらにシステムとして発展させようとしたものである。
 具体的には、まず、大阪で障害者雇用支援ネットワークづくりを通じて、最も活発に取り組んでおられる関宏之氏(大阪市職業リハビリテーションセンター所長)に基調講演をお願いした。次いで、各地で展開されている就労生活支援ネットワークをご紹介いただき、在宅就労のデモンストレーション、そして、当事者からの提言を受けた。最後に、栗原久氏(箕面市障害者雇用支援センター所長)と私の司会で、提言をまとめるためのシンポジウムを行った。シンポジストとして、山口光一氏(中小企業支援指導センターコスモラーマ代表)、高井敏子氏(加古川市知的障害者総合支援センター所長)、斎藤公生氏(全国社会就労センター協議会会長)、岡克明氏(兵庫県共同作業所連絡会事務局長)、古川直樹氏(兵庫県立総合リハビリテーションセンター能力開発課課長)、水野知親氏(労働省職業安定局障害者雇用対策課専門官)の諸氏にお願いした。
 このシンポジウムで提案・議論されたことをまとめ、二〇〇〇年の幕開けである今大会シンポジウムからのメッセージとして、次の提言を行った。

  1. 離職に際して、次の就職準備への移行を含め、ソフトランディングできるような支援を進めていくとともに、より緩やかな労働形態・選択肢のあり方について研究を深めていこう
  2. 一般就労と福祉的就労間の移行の双方向性を実現するために、住宅の整備、所得保障の実現、ジョブコーチ制度や生活支援スタッフの充実などについて検討していこう
  3. 各自治体において障害者プランの見直しに取りかかり、法制度再編の時代に合ったビジョンを盛り込んでいこう
  4. 地域格差が是正され、どこに住もうと同じサービスが受けられるよう、国、都道府県、市町村等の役割をふまえたシステムをつくりあげよう

    二〇〇〇年七月七日

  5. 以上を実践の場で解決していくために、各地域で経済団体や労働団体を中心とした、第三極の支援ネットワークを構築していこう

 以上、日本職業リハビリテーション学会第二十八回大会より、地域職業リハビリテーションシステムの確立について述べた。これが21世紀に向けてのガイドラインとして各地域でシステム化されることを望みたい。

(さわむらせいし 日本職業リハビリテーション学会第二十八回会長・兵庫県立総合リハビリテーションセンター所長)