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障害の経済学 第11回

福祉用具の経済効果

京極高宣

福祉用具とは

 近年めざましく進歩した福祉用具は障害者や高齢者の生活を支える重要なハードウェアとなっていることは確かです。ところで、福祉用具の定義は、一九九三年に成立した「福祉用具の研究開発と普及の促進に関する法律」に基づくもので、次のように規定されています。すなわち、「心身の機能が低下し日常生活を営むのに支障のある老人及び心身障害者の日常生活上の便宜を図るための用具及びこの機能訓練のための用具並びに補装具をいう」(第一条)。この定義は、前二者がいわゆる福祉機器(日常生活用具を含む)の定義に該当し、後者が喪失した身体機能を代替する機器としての補装具となっています(図参照)。
 このような福祉用具が障害者の生活にとってどのような経済効果をもつのか、今回はそれを明らかにしたいと思います。

図 福祉用具の範疇

図 福祉用具の範疇
(出典)相良二郎「福祉機器の活用方法」徳田哲夫、児玉桂子編「福祉機器と適正環胤」、P122.中央法規出版、1998年抜粋

1 福祉用具の効果(その1)

 福祉用具が障害者にとって使用される目的をあえて三つに分類すれば、次のようになります。
 第一に、障害者の身辺的自立や社会参加の促進に役立つこと。
 第二に、障害者の介護に携わる人の介護負担が軽減されること。
 第三に、障害者と介護者の双方にとって生活の安全、安定がもたらされること。
 これらの目的が達成されるとすれば、日常生活での利便性の確保、雇用機会の拡大、重介護からの解放などの直接的な効果が生じることになります。
 具体例をあげてモデル的な試算を例示すれば、次のようなことが仮説的に言えるでしょう。
 まず、日常生活用具や補装具を公費か私費かは問わず、合計で、当初一〇〇万円で購入して、生活保護を受けている障害者(Aさん)が生活する場合を考えてみましょう。
 Aさんは、これまでは、寝たり起きたりで毎月ホームヘルパーを四〇〇〇円×二時間×二五日=二〇万円(年額二四〇万円)かけて利用していたとすると、上のような設備投資で、それが半額になることが考えられます。すると毎年、一二〇万円のヘルパー軽減となり、その年だけで一二〇万円マイナス一〇〇万円(福祉用具購入費)=二〇万円の費用がなくなることになります。しかも、次年度から合わせて五年間を考えると、翌年から一二〇万円×四年間=四八〇万円の費用が浮き、合計で、二〇万円プラス四八〇万円で、何と五〇〇万円も費用軽減が図られるのです。

2 福祉用具の効果(その2)

 また、さらに外出用の車いすや交通機関のバリアフリー化で、通勤が可能となり、ある程度の稼得収入(月一五万円)が得られると、これまで生活保護で月一〇万円の生活扶助を受けていたAさんは経済的自立が可能となり、納税者となります。
 そこで仮に、交通機関のバリアフリーは計算外として外出用車いすの費用を公費あるいは私費を問わず五〇万円で購入したとしたら、初年度は、一五万円×十二か月=一八〇万円で、車いす購入費五〇万円を引くと、一八〇万円マイナス五〇万円で一三〇万円しか浮きませんが、生活保護費の年額一二〇万円が不必要となるので、合計で二五〇万円という額が産出されることになります。しかも、翌年からは、車いす購入費は不要となることから、次の四年間だけを考えると、一八〇万円(稼得収入)プラス一二〇万円(生活保護費の節減)で計三〇〇万円が四年間分浮き、一二○○万円となります。したがって、初年度二五〇万円プラス四か年一二〇〇万円=一四五〇万円(五か年)という巨額の費用が捻出されることになります。
 先の日常生活分野と外出による稼得収入とを合わせて考えると、五か年間では、福祉用具で、一〇〇万円プラス五〇万円、計一五〇万円を投資し、それを除いても五〇〇万円(日常生活分)プラス一四五〇万円(稼得収入分)、計一九五〇万円がなお余りあるものとして残ります。
 上の試算はあくまで仮説ですが、高価な福祉用具を一時的に投入しても、五年という中期的には、大きな経済効果を生み出すことはお分かりいただけたことと思います。

3 福祉用具の経済産出

 また、当初の福祉用具購入分(一〇〇万円プラス五〇万円)は、産業連関効果や波及効果によって、それ自体は小さいものですが、集積してみるとAさんのような障害者が一〇〇万人もいれば、一五〇万円×一〇〇万人÷五か年=年額三〇〇〇億円の内需を拡大するわけです。その経済効果は国民経済的にみても決して小さくありません。先のAさん個人の一九五〇万円を五か年で割って、年額三九〇万円を単位に、一〇〇万人の障害者がこうした経済効果を生み出せば、何と三兆九〇〇〇億円の産出を上げる結果となるのです。
 以上はごく乱暴な試算ですが、障害者が自立生活を求めて、その可能性が発揮できるより適切な福祉用具の開発普及が図られると、巨大な経済効果がもたらされることは確かな根拠のある結論となることは間違いありません。

(きょうごくたかのぶ 日本社会事業大学学長)