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会議

第十九回RI世界会議 ブラジルで南米初開催

丸山一郎

 四年ごとに開かれているRI(国際リハビリテーション協会)世界会議が、本年八月ブラジルで開催された。南米の障害をもつ人々の状況を改善するためにぜひブラジルで、という強いアピールに応えたもので、中南米でもこの分野で初めての国際会議である。
 現在約九十か国(二百団体)が加盟し、八十年を迎えようとしているRIの歴史上初の南アメリカ大陸での開催である。発展途上国での国際会議は、九二年のケニア(アフリカ大陸初)に次いで二回目となる。八八年にはアジア地域で初めて開催(日本)され、今回で世界全地域での開催がなされたことになる。会議に参加する機会を得たので、会議の状況を私の感想を交えてご報告したい。

 ブラジルの第二の都市リオデジャネイロ(人口は五五〇万人、一五万人が住むという南米最大のスラム地域もある)は、日本からちょうど地球の反対側の位置で、時差は十二時間。片道の飛行時間は延べ二十四時間かかり、二日がかりで乗り継ぐ。会議場はラテンアメリカ最大のイベント会場であるリオセントロ・コンベンションセンターである。参加者の多くが宿泊したホテルが立ち並ぶ、コパカバーナやイパネマの海岸線から四十五分ほど車で内陸に寄った壮大な平原の中にあった。ちょうど南半球は冬であるため涼しく、時には肌寒いが穏やかな日和が続いた。強烈なサンバと海辺の賑わいがないのは、海外からの参加者にはちょっぴり残念であった。
 参加者は主催者の正式な発表がないが、RI加盟国に中南米の近隣国が加わって、私の印象では一○○○人程であったと思う。
 会議の組織委員会は、五つのリハビリテーション関係協会に三つの障害当事者団体が加わった十三団体で構成され、政府後援は法務省(障害者権利課)と文部省(特別教育課)である。第十九回会議のテーマは「新千年紀を迎えて―市民権と多様性」であり、次のサブテーマ(十五)が設定された。

1 リハビリテーションの倫理的価値
2 教育・雇用・社会におけるインクルージョン
3 新千年紀の特別学校の役割
4 新たなリハビリテーションとCBR(地域に根ざしたリハビリテーション)
5 女性問題
6 自立生活
7 全ての人々の科学技術
8 アクセシビリティーとユニバーサルデザイン
9 スポーツ・余暇・文化活動
10 調査研究の改善
11 雇用と収入創出の改善
12 職場の負荷と安全
13 国際条約と政策の実施
14 NGO―質の改善
15 魂と宗教の課題

 RI総会を含めて七日間にわたる大会では、以下のような多数多彩なプログラムが組まれた。

●全体会

  生命倫理、性、インクルージョンの哲学、貧困と隔離、女性障害者、障害者自身による国際協力事業、すべての人々の教育、ブラジルの障害者施策と人権擁護など十四の課題

●セミナー

  障害者の権利擁護に関する国際条約の動向、CBR、二十一世紀の雇用・就業、自立生活、インクルージョン教育、女性障害者、障害調査研究、国際障害分類―改定、NGO―財源と管理、情報システム、戦略的計画づくり、アクセシビリティとユニバーサルデザインなど三十七課題

●パネルディスカッション

 インターネット利用可能の動向、視覚障害者の社会統合、先駆的研究調査、インクルージョンとQOLにおける家族の役割、親なき後の展望、予防と早期診断、早期介入、聴覚障害と文化、マスコミと障害、国家障害者政策、リハビリテーション・テクノロジー、自閉症とコ・セラピスト、芸術活動、レジャー、スポーツ、脱施設化の実績、高齢者と障害、電子マネー化と収入確保など二十三課題

●円卓会議

 倫理と障害、ピープル・ファースト、リハビリテーション・サービスの質、障害と魂の課題、保健・リハビリテーション・教育の統合、社会と多様性の統合の新たな観点、インクルーシブ教育における特殊学校の役割、ライと障害の原因、動物によるサービス、世界のオストミーのリハビリテーション、など二十二課題

●研修コース

 学校運営、心身機能自立の評価、知的障害教育、教材開発などの教育に関する人数限定の連続講座

●自由討議(自由な問題提起の場)

 この他、展示会(行政や障害関連団体、各種機器など)も行われた。

 この膨大なプログラムの運営もラテン風でゆったりしたものである。毎日、プログラムの開始は昼も近い十一時から午後七時までという設定である。毎日の終わりは、文化・レクリエーションプログラムで締められる。知的障害の人々や重度な肢体不自由の人たちによる民族的ダンスなどのパフォーマンスが披露された。
 手話通訳者の配置は開会式だけであった。聴覚障害のある人の参加は他の多くの現地の人と同様、開会式のみであったようである。会議場は全面的に段差などをなくす仮設工事が開会直前までなされていたが、輸送に使われた四台の大型バスはリフトが装備され、運転手も現地の車いす使用者(十五人程度)に丁寧な対応をしていた。

 会議に先立って開催されたRI総会では、新会長に米国のレックス・フリーデン氏が加盟各国の圧倒的支持を得て選任された。RIにとって、障害者運動のリーダーでもある会長の誕生は、八年前のJ・ストット氏(元ニュージーランドDPI会長)に次いで二人目である。自立生活運動家であり、リハビリテーションを講義する大学教授でもあるフリーデン氏は、米国政府の諮問機関・全米障害者協議会の事務局長として活躍、ADA(障害をもつ米国民法)の草案づくりの指揮もとった。就任にあたりフリーデン新会長は、全世界の障害のある人々の自立と社会(本流への)参加を推進するために、RIの専門的活動と障害者運動との協調促進を、特に表明した。
 リハビリテーションサービスを行う専門家や、政策担当者の集団であるRIの新会長に当事者運動のリーダーが就任したことは、各国の特に障害をもつ代表からの大きな歓声が、引き続き国際会議場にこだましていた。

 全体会では、国連・機会均等化に関する標準規則の〈特別報告者〉のB・リンドクビスト氏(元スウェーデン社会問題担当相・盲人)が基調講演を行った。これまでの国際協調の成果と、現在の障害者の権利条約実現に向けての関係者の取り組みが報告された。また、発展途上国の参加者を意識してか、障害者問題は社会問題として取り上げられなければならないことが重ねて強調されていた。
 米国教育省次官のJ・ヒューマン女史は、ハイスピードの電動車いすで会場を走り回って、セミナー・円卓会議・研修に出席していた。特に、米国教育省のリハビリテーション庁のスタッフが多く出席した連続研修コースには、南米各国からの当事者と家族・教育者が会場につめかけ、連日熱気に溢れていた。私は特にここで討議されていた「(普通)学校は障害児が参加する最初の社会であり、学校でのリハビリテーション活動を通して(障害児と接触している)周辺の人々を変え、地域社会をより良いものに変えてゆく。そのために障害のある住民の積極的な参加を得る」という戦略的なアプローチに強い感銘を得た。

 欧米の障害をもつ専門家の参加と活躍が特に印象的であったが、一方で、地元ブラジルの障害のある人々の話はこの状況とは程遠い。法律や政府施策の建前のみの中身のない、社会の無視・差別について悲嘆する話を多く灰聞した。

 世界会議のプログラム内容や障害をもつ専門家のリーダーシップ、さらにフリーデン新会長の誕生など、今回の会議は「リハビリテーション」が人権回復をめざす社会活動であることを再認識したが、同時に、わが国での「リハビリテーション」という言葉が医学的用語として、ますます狭く、特殊に使用されていることとのギャップを強く意識した次第である。

 次回の第二十回世界会議は北欧のノルウェーで、二〇〇四年に開催することが決定された。
(会議の詳細は当協会発行の「リハビリテーション研究」に掲載される。)

(まるやまいちろう アジア太平洋障害者の十年NGO会議・事務局長)