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ほんの森

二木 立 著 『介護保険と医療保険改革』

評者 伊藤利之

 本書は、わが国の医療経済学、特にリハビリテーション医療分野の第一人者である二木立氏が、介護保険と医療保険改革の今後の動向を示した「予言書」である。その中心テーマは、「介護保険の創設、医療保険の改革に関する評価とそれに基づく将来予測を、医療経済学と医療政策研究の視点から行うことであり、合わせて、介護保険下で急成長するであろう『保健・医療・福祉複合体』について、包括的かつ批判的に論じることである」として、明快な論理を展開している。
 本書の構成は、1章:介護保険と保健・医療・福祉複合体、2章:医療保険改革と国民医療費、3章:外科・眼科・リハビリテーション医療の経済分析からなっている。1章では、介護保険「制度」は短命に終わり、五、十年以内には高齢者医療保険制度と統合され、「高齢者医療・介護保険制度」に再編成されると予測している。また、医療法の第三次改正の結果、医療法人の社会福祉事業への参入が認められることから、今後、医療施設と福祉施設との競争が激化すると予測、その勝者は「保健・医療・福祉複合体」であるとしている。
 2章では、いわゆる「医療ビッグバン」を市場原理の全面的導入をめざす「大ビッグバン」と、医療保険の抜本的改革のみをめざす、「中ビッグバン」に分け、特にビッグバンについては一〇〇%幻想であり、中ビッグバンも立ち消えになると予測している。その理由は、大ビッグバンについては、医療システムに国際標準がないうえ、国民皆保険制度を廃止して全面的な市場メカニズムを導入しようとする有力な団体も個人も存在しないこと、営利企業による病院経営の自由化には、厚生省や日本医師会が絶対反対の立場をとっていることをあげている。そのうえで筆者は、医療費抑制にならない改革より公的医療費の総枠拡大を考えるべきであるとして、せめてヨーロッパの水準まで引き上げる別の「抜本改革」が必要だと主張している。
 3章では、従来のリハビリテーション医療費分析の「空白」と言える、リハビリテーション医療費総額の推計(約四〇〇〇億円)と、医療施設での入院・外来費、訪問リハビリテーションとデイケアの医療費、義肢装具医療費の三分野の構造分析を行っている。狭義の医療だけでなく、保健・福祉分野にまたがって複雑に入り組んでいるリハビリテーション医療の総費用額を推計することは難しく、完全とは言えないまでもその努力に敬意を表したい。
 リハビリテーション関係者はもちろん、特に組織を預かる管理職の方方には必読書として推薦したい。

(いとうとしゆき 横浜市総合リハビリテーションセンター長)