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所得保障
―障害者の基本的施策として再構築を!―

池末美穂子

 ノーマライゼーションの考え方が日本に上陸して20年が経ちました。この20年間に障害者の基本的施策である所得保障は、障害基礎年金導入のほかに残念ながら前進はありませんでした。障害年金を受給している人の8割までが障害基礎年金であり、金額も月額1級で83,775円、2級63,017円という生活保護基準よりはるかに低いものです。しかも、障害者の福祉が措置から利用契約へと方向転換が決まり、介護保険下に位置付けられる予定にありながら、前提におくべき所得保障の整備は、国も障害者団体側も棚上げしたまま、21世紀に入りました。顕在化し始めた高齢者における低所得層の問題は、障害者のほとんどの人が間もなく直面する問題でもあります。

●障害によって異なる所得保障ヘのニーズとその克服を

 年金、手当、生活保護において障害別、地域別に実情が違い、障害者団体が共通の基盤に立てない不幸を生んでいます。障害年金において身体障害者(学生無年金障害者などを除き)と知的障害者の年金対象者はほとんどが受給していますが、精神障害者は必要としている人の3割しか受給できていません。国制度の「特別障害者手当」は障害基準が不明確な精神障害分野では、ごく一部の人しか対象になりません。地方自治体の手当制度は甚だしい都道府県・市町村格差があります。たとえば、東京都の重度障害者(精神障害を含まず)を対象にした「心身障害者福祉手当(月額15,500円)」「重度心身障害者手当(月額60,000円)」は、生活保護では収入認定されず、実質的な生活保護の引き上げが局地的に実現している形になっています。障害や地域によってこのように差があり、加えて、障害者団体側もプライバシーの問題から本格的な家計調査に取り組めず、実態を明らかにできない弱さを抱えています。
 しかし、こうした限界を今後は超えるチャンスがあります。どんな障害や重い状態であっても、「地域で親から離れて普通に暮らす」ことが当たり前になった時、障害基礎年金だけでは地域生活はできない現実が障害別を超えてはっきりするからです。

●新たな所得保障の構築を!

 所得を保障する制度は、障害年金(年金局)、手当(障害保健福祉部)、生活保護(社会・援護局)と厚生省2局1部にまたがっています。「障害者プラン」にも明記された無年金障害者の解決を求めて、障害者団体はこの2局1部に対して横断的に取り上げてほしいと要望活動を続けてきました。しかし、制度間(部局間)の調整は全く図られず、交渉は徒労に終わり、20世紀は幕を閉じました。
 障害者の福祉のしくみが利用契約へ、介護保険へと大転換する21世紀初頭、20世紀に獲得したノーマライゼーションの考え方でいう「地域で年齢にふさわしい普通の生活を営む」ための所得保障のあり方を求めて制度間の調整を行ってほしいと思います。さらに言えば、年金、手当、生活保護における社会保険と租税の関係を、「権利としての所得保障」の観点から分解・再編・再構築すべきということです。
 その時忘れてならない大事なことがあります。障害が異なっても、重度の障害であっても、一人ひとりは「自分の能力に応じて働きたい、自分を活かしたい、社会とつながっていたい」と心から願っています。この原点に立って次のことを提案します。

●「能力に応じて働き、必要に応じて収入を得る」制度の創造を!

 障害者の所得保障及び就労支援との関係も含めて、「能力に応じて働き、必要に応じて収入を得る」(マタイによる福音書第20章)という考え方で制度を見直し創造してほしいのです。先に述べたように、抜本改正がないかぎり、地域で暮らす際は障害基礎年金受給者も含めて多くは生活保護を受給することになります。福祉的就労であれ、一般就労であれ、得た収入は生活保護の収入認定(8,000円以上)の対象になります。勤労控除の主旨に反して「働いた分減らされる」実感を残念ながら払拭しきれません。一方、成人障害者が長期に生活保護を受給することでの悩みも深刻です。生活が狭く窮屈になり、権利意識に根ざしたエンパワメントが阻害されます。始まったばかりの生活保護見直し作業や今後の横断的な所得保障論議では、この問題を正面から取り上げるべきです。
 「能力に応じて働き、必要に応じて収入を得る」実感と意欲をもって障害者が生活や就労に取り組める制度の創造に、厚生労働省は展望をもって着手するよう強く要請します。

(いけすえみほこ 日本障害者協議会所得保障特別委員会委員長、日本福祉大学社会福祉学部)